シート高の低いタイプ、XフォースLow。その乗り心地と足つき性!

ヤマハX FORCEと言えば、高速道路も走れる国産スクーターの中でどれよりも廉価な価格設定で知られている。今回試乗した同Lowは純正アクセサリーパーツで用意されているローダウンシートを販売店で装着するアクセサリーパッケージとして投入されたモデルである。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ヤマハ発動機株式会社

ヤマハ・X FORCE Low……407,000円(消費税10%を含む)

マットダークグレーイッシュリーフグリーンメタリック2(マットグリーン)

カラーリング

マットダークパープリッシュブルーメタリック1(マットブルー)
ブルーイッシュホワイトパール1(ホワイト)
ブラックメタリックX(ブラック)

冒頭に記した通り、X FORCEの標準車と異なっているのはシートのみ。従来は標準車のユーザーがオプションで購入するローダウンシートに換装するのが一般的だったが、取扱販売店で装着されたものを同Lowとして購入できる。
標準車の車両価格は税込みで40万円を切る396,000円。オプションのローダウンシートは21,450円だから合計すると417,450 円になるところ、始めからLowを選べば407,000 円で済む。
新車購入時に附帯する製品保証が2年標準車に対して、Lowは1年になってしまうと言う点が不可解かつ残念だが、実質約1 万円の節約が叶う上、取り外した標準シートの保管や処分を考えなくて済むのは合理的。ユーザーの要望に叶うこうしたパッケージオプションが、他のモデルにも波及してくれる事に期待したいと思えた。
それにしてもこの価格はなかなかリーズナブル。競合車ではないが、ホンダ・スーパーカブC125やCT125ハンターカブ、ダックスやモンキー125がどれも44万円している事を考えると、高速道路も走れるX FORCEはお買い得感の高いバーゲンプラスに思えてくる。
バイクでは385,000円と、さらに廉価なスズキ・ジクサー150の存在も見逃せないが、軽二輪ながら40万円でお釣りがくる(標準車)手頃さは特筆に値するだろう。

試乗車はアンダーボーンフレームにBLUE COREエンジンを搭載。乗り降りが容易なステップルスルーのフラットなフロアがデザインされた標準的なスクーターである。
前後共に13インチの軽量ホイールにはチューブレスタイヤを履きホイールベースは1340mm。前後シングルのディスクブレーキを装備し、独立式のABSが採用されている。
メットイン方式のシート下収納には約23.2Lのスペースを確保。前開きシートのヒンジ付近両サイドには、2個分のヘルメットホルダーも装備されている。
6.1L容量の燃料タンクを備え、給油口は独立して左膝前の比較的高い位置に設けられ給油作業が容易。ちなみにモード燃費率は40.9km/Lなので諸元上では、満タンで約250km走る計算になる。実用燃費率でも航続200kmは期待できそう。

搭載エンジンは、新世代の技術を投入。セルモーターを廃しSMG(スマート・モーター・ジェネレーター)を採用。クランク直付けの発電機を始動用モーターとして活用し始動時の静粛性が高いのも特徴。ボア・ストロークが58×58.7mmと言う、僅かにロングストロークタイプの水冷単気筒エンジンはSOHCの4バルブヘッドを持つ155cc。吸気側にはVVA(Variable Valve Actuation)と呼ばれる可変バルブ機構を搭載。スリップを抑制するトラクションコントロールシステムも標準装備されている。
サスペンションは一般的なフロントテレスコピック式とリアはユニットスイング方式。後方にほぼ直立にレイアウトされた2本ショックはダブルピッチのコイルスプリングが採用され、ボトム部には4段階のスプリングプリロードアジャスターもついている。2段目が標準設定で、ソフト側に1段、ハード側に2段の調節が可能。ちなみにシート裏の前方(ヒンジ付近)に格納されているスプリングプリロードアジャスター(リンクレンチ)を使用して調節できる。

その他、イグニッションキーの右脇にはUSB電源ソケットが装備されている。その下には500mLのペットボトルが入る収納ポケットもある。そしてYMC(YAMAHA Motorcycle Connect )が使えるCCU(Communication Control Unit) も標準搭載されている。
詳細説明は割愛するが、スマホのアプリを使って様々な車両情報やメンテナンス時期の表示などができる他、車両の駐車位置を表示する機能もある。(詳細は下記動画参照)

「Yamaha Motorcycle Connect」のアプリを利用するとスマートフォンで車両状況が確認できるようになる。

痛快な乗り味と程良くスポーティな走り。

艶消し黒とラメ入りの深いグリーンを使ったツートーンカラーの試乗車は、小さめなスクリーンの採用などもあって、全体的に車高は低く感じられる。アンダーボーンフレームを採用したフラットフロアを持つ標準的なスタイリングながら、フロア下に厚みがあり、どことなく強靱な雰囲気も漂ってくる。
全長は1895mm。前後に13インチホイールを履くスクーターとしては、コンパクトにまとめられており、少しズングリした印象。早速Lowのシートに跨がると、もともと腰高で目線位置の高い乗り味に大差は感じられない。 着座位置での低さは15mm程度だろう。標準シートは厚みと太さが異なり、長距離ライディングでの快適性では優位にあるが、車体をしっかりと支えられる足つき性ではLowの方が安心感が高い。
ライディングポジションとしては、低く寛ぐようなシートポジションが一般的な昨今の人気スクーターと比較すると、ヨーロッパ製のスタンダードスクーターを思わせるしっかりとした乗り味がそこにある。
幾分ハンドル幅が広く握りの太いハンドルグリップに手をやると、太く落ち着きのある雰囲気と共に、一方で操舵フィールは軽い。いざ言うときに抑えの利きやすいライディングポジションと言えるのが特徴。
容易な乗降性も含め、移動道具としての実用的な扱いやすさを基本に、ちょっとだけスポーティなスパイスを加えた操縦感覚もまた好印象である。

私見ながら、スクーターにスポーティなハイパフォーマンスは無用だと考えているが、それでも峠道を行く時、少し両肘を張り出し前傾姿勢で身構え、コーナーを攻めてみたい気分にさせられてしまった。各コーナーをそのように駆け抜けても軽快かつ何ら不安を覚えない素直な操縦性が楽しめた。
タイヤサイズもエンジン排気量も違うが、かつて通勤快速として高い評価を集めた初代のホンダ・フリーウェイのことが思い出された。車体サイズは欲張らず、それでいて高速道路も難なくこなすパワフルな走りに、似た雰囲気を覚えたのかもしれない。
前後ブレーキも扱いやすく、エンジンパフォーマンスも不足は無い。信号発進など、通常の加速ではだいたい5,000rpm前後を使用し無段変速で効率良く増速して行く。
右手を少しワイドオープンしても6,000rpm前後である。平坦な市街地を40km/hで流れる時は4,000rpm程度。50km/hだとだいたい4,500rpmでクルージングできる。
高速進入で全開で加速すると、60km/hを超えたあたりから7,000rpmになり、100km/h 時には8,000rpmを超える。 100km/h までの加速性能やクルージング性能は十分のポテンシャルがある。ただし120km/hクルージングにはパワー不足を感じてしまうだろう。
もっとも高速を主体で走りたいならチョイスは別のモデルに目が行くだろう。いざと言う時に高速も走れる万能スクーターとしては、十分に満足できる性能レベルにあると思えた。直進安定性もしっかりしており、路面の綺麗な舗装路を行く限り、操縦性も素直で扱いやすいし、サスペンションの動きもまずまずの乗り心地を発揮。
贅沢をしないシンプルな作りと、便利な移動道具としての機能性はなかなかの優れ物。コストパフォーマンスの高いお得感のある魅力的なチョイスと言える。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)※:右側は標準車

ご覧の通り一見大きな差は無いように思うが、右側が標準のXフォース。左側のLowと比較すると踵の浮き具合に明確な違いがある。標準のシート高は815mm。Lowは最大で30mmほど足つき性が向上すると言う。着座位置だけではなく、クッション先端ショルダー部分の角が落とされて足付き性が向上している。小柄な人は自然と前方に座るようになるが、特にその部分でスクーターを支えやすくなっているわけだ。小柄なライダーにとっては、Lowを選択した方が安心感が大きいことは間違いない。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…