緩まない・締まりづらいボルト。無理やり回すのは絶対NG! ボルトが折れてしまった失敗談【バイクビギナーの基礎知識】

ネジ山の一部がサビてしまったボルト。再使用せず、新品に交換するべし。
かつてパーツ交換のビギナーだった筆者は、錆びで固着した緩まないボルトを渾身のパワーで強引に回転。その結果、ボルトは無残にもポッキリと折れてしまうという苦い経験がある。もしもボルトが根元から折れてしまうと、修復作業は非常に厄介。緩まないボルト、また締まりづらいボルトを無理やり回すのは絶対に厳禁です。
PHOTO/ILLUST/REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)

無理やり回すと「ボルトの折れ」や「ねじ山の破損」の可能性大

12Vモンキー(キャブレター仕様)のエンジン内。写真はシフトドラムストッパープレートのプラスネジを取り外しているところ。この部分には緩みを防止するネジロックが塗布されているため、固くて外れにくい。そのため下記のショックドライバー(インパクトドライバー)を使用するのが定番。

ボルトやネジが緩まない場合

ネジロックが塗布された部分(エンジン内のパーツ等々)。また長年屋外に放置されるなど保管状況の悪い車両や、年式の古いモデル等の場合、ボルトやネジが錆びて固着してしまい、一般工具だけでは緩まないことが多い。特にバイクをレストアする時は、古いボルトやネジの除去が大きな壁となる。

固着したボルトやネジを緩める時は、まず固定されたボルトやネジに、CRCなど市販の潤滑油をたっぷりと吹き付け、しばらく放置。錆びや固着が酷い場合は、数時間置きに吹き付け、焦らずに時間をかけてじっくりと浸透させること。

潤滑油がしっかりと浸透した後、ボルト・ネジ・ナットを緩める時は、一気に回すのではなく、少しずつトルク(力)をかけて徐々に回転させるのがコツ。一度にトルクをかけすぎると、いとも簡単にナメてしまう(ボルトやナットの角が工具で削られて丸くなる。ドライバーでねじ山が潰れる等)恐れがあるからだ。

なおプラスネジやマイナスネジの場合は、下記のショックドライバー(インパクトドライバー)を使用するのが定番(ハンマーで後端部を叩くと、ドライバーの先端が少しずつ緩むしくみ)。ネジ山が少しなめた程度であれば、ショックを与えることで緩めることができる。

ハンマーで後端部を叩くと、ドライバーの先端が緩むしくみのショックドライバー(インパクトドライバー)。
ショックドライバー(インパクトドライバー)を使い、ネジロックが塗布された緩みにくいプラスネジを緩めているところ。

上記でも緩まない場合は、「ロッキングプライヤー(通常のプライヤーとは異なり、噛み具合の調整が可能)」という万能ツールを使ってボルトやネジの頭をしっかりと掴み、力を込めて緩める。それでダメな場合は、

・ガスバーナーで緩まないボルトやネジを真っ赤になるまで焼き、頭部の側面をポンチでガンガン打つ。これは温度変化に伴う、金属の膨張率変化を利用したもの。ただし引火しやすい箇所、熱伝導で“焼き”が入ってはダメな箇所では作業不可。この手法は周辺箇所の破損を招く恐れがあるので注意が必要

・電動ドリル、フライス盤、リューター、サンダー等の特殊ツールを駆使し、ボルトやネジを切削・除去。もしくは回転させる。プロによる作業が前提

等の処置が必要となる。

「緩まないボルトやネジの最終手段」としてプロが駆使するガスバーナー。ただし引火しやすい箇所や、熱伝導で“焼き”が入ってはダメな箇所では作業不可。
フライス盤で使用する切削ツール「エンドミル」で、厚い鉄板に穴を開けているところ。

ボルトやネジが締まらない場合

ボルトが締まりづらいのは、

・ボルトが真っ直ぐ入っていない
・ネジ山にゴミが噛んでいる
・オスネジorメスネジの山が破損
・オスネジとメスネジ、両者のサイズまたは規格(※1)が異なる

などが考えられる。

※1:ボルトやネジには規格の異なる「inch(インチ)ネジ」と「ミリ(mm)ネジ」がある。一般的に「inch(インチ)ネジ」は海外製品、「ミリ(mm)ネジ」は国内製品に多用されている。

ボルトやネジには用途や箇所に合わせ、頭部がヘキサゴン(写真)、六角、プラス、マイナス。またミリネジならばM8やM10等々、インチネジならば1/4や3/8等々、実に幅広いタイプやサイズがある。なお、「inch(インチ)ネジ」と「ミリ(mm)ネジ」は、ネジ山とネジ山の間隔が異なるのが特徴。

もしもボルトやネジが締まらない場合。絶対に無理に回さず、一度完全にボルトを抜き取った後、まずはオスネジとメスネジの「サイズと規格」が一致しているかを確認(これが基本中の基本)。確認後、ボルトやネジを真っ直ぐに経て(斜めに入っていないかどうかを確認)、指でスムーズに締まるかをチェック。締りづらい時は、ボルトやネジを抜き取り、

1:オス&メス双方のネジ山をパーツクリーナーやエアーでキレイになるまで吹く
2:オス&メス双方のネジ山が破損していないかを目視で確認

1と2が正常なのにスムーズに回らない場合は、ボルトやネジを新品に交換してみる。

もしもネジ山が破損してしまったら?

ボルトやネジを新品に交換しても締まらない時は、

A:オスネジとメスネジの「サイズと規格」が異なる
B:メス側のネジ山が破損している

Bの場合、一部が欠損する等の軽度ならば、新品のボルトやネジを差し込み、締めて・緩めて・締めて……という工程を慎重に繰り返すことで、ネジ山が整って復活する可能性あり。また理想的なのは「タップ」というネジ切り用の特殊工具を使い、メス側のネジの切り直す(タップを立てるという)。

ネジ山にタップを立てているところ。作業はメス側のネジの切り直す「タップ」というネジ切り用の特殊工具を使い、専用ハンドルにタップを固定。潤滑油をたっぷり吹き付けながら、時計回りにゆっくりとネジを切っていく。
ネジ山にタップを立てているところ。

もしもボルトやネジが折れてしまったら?

ボルトやネジは「絶対に折らないこと」が重要。折れたボルトやネジを抜き取る作業は、状況によっては非常に厄介な作業となるためだ。

もしもボルトやネジを折ってしまったら? ボルトやネジの先端が“運よく”露出している場合は、「ロッキングプライヤー(通常のプライヤーとは異なり、噛み具合の調整が可能)」という万能ツールを用い、残った先端つかんで回す。

“運悪く”根元から折れている時は、下記の特殊ツールを使用。

通称「逆タップ」を使用する

スナップオンの正回転用エキストラクターセット(各サイズ5本入り)。正回転用のショートサイズドリルビット5本と工キストラクター5本が1セット。1万5000円前後で発売中。

折れたボルトの中心にドリルで穴を開け、そこにテーパー形状&らせん状になったエキストラクターという工具を挿入。挿入したエキストラクターを緩む方向に回していくと、エキストラクターが折れたボルトに食い込み、ボルトが緩んでいくというしくみ。

折れたボルトの真ん中に穴を開ける必要があるため、電動ドリルやボール盤などのツールが必要。

専用ナットでエキストラクターのよじれを防止

スナップオン E1020 エキストラクターセット。2万円前後で発売中。

こちらも“逆タップ”と呼ばれる特殊ツール。穴開け専用ナットで固定し、折れたボルトの中心部にドリルで穴開け。次にエキストラクターを適度な位置まで打ち込み。エキストラクター専用ナットをエキストラクターの根本にセットし、レンチ等で回していく。

上記「正回転用エキストラクターセット(各サイズ5本入り)」に比べ、エキストラクターがよじれて折れる心配が少なく、ボルトやネジの抜き取りの確実性が高い。

上記の特殊工具でもダメだった場合は、最終手段として折れた箇所にドリル等で穴を開け、メス側のネジの切り直しが必要。こうなると素人にはほぼ無理な作業となるので、バイクショップやカスタムショップに依頼しよう。

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