ボッシュのブレーキ装置「バイク用スタビリティコントロール(MSC)」が400cc以下モデルに世界初搭載 【EICMA2023】

マシンをバンクさせたコーナリング中でも、最適なブレーキングと加速を可能にしたボッシュの「バイク用スタビリティコントロール(MSC)」が搭載されたインドの312ccモデル、TVS・Apache RTR 310。400cc以下のモデルとしては世界初搭載。
イタリアで開催されたモーターサイクルショー『ミラノショー(EICMA)2023』において、世界最大級の自動車部品サプライヤー「BOSCH(ボッシュ)/ 本社:ドイツ」は、バイク用スタビリティコントロール(MSC)がインド、中国、ASEAN諸国で利用可能になったことを発表。まずはインドのTVS Motor Companyが発売する水冷4ストローク単気筒312ccエンジンを搭載した「Apache RTR 310」に導入される。400cc以下モデルへの搭載は世界初。
REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)

ボッシュが開発したバイク用のブレーキシステム「スタビリティコントロール(MSC)」とは?

MSC最大のポイントは、マシンをバンクさせたコーナリング中でも、最適なブレーキングと加速を可能にしていること。

世界最大級を誇る、自動車部品のサプライヤー「BOSCH(ボッシュ)/創業及び本社はドイツ」。同社が2013年に開発し、世界に衝撃を与えた「スタビリティコントロール(以下MSC)」は、あらゆる走行状況において最大限の安定性を確保する、これまでにないモーターサイクル用のブレーキコントロールシステム。ブレーキングと加速時、直線およびコーナーの走行時などでライダーをサポートしてくれる画期的な機構だ。

MSC最大の特徴。それはマシンをバンクさせたコーナリング中でも、最適なブレーキングと加速を可能にしていること。

二輪車用横滑り防止装置「ESC」の一種であるMSCの技術的なベースとなるのは、前後タイヤのロックを防ぐモーターサイクル用のABSシステムと、6軸IMU(慣性計測装置 ※注1)。MSCは両機構をベースに、多数のセンサーと最新のソフトウェアを組み合わせ。モーターサイクルメーカーや要求水準の高いエンドユーザーに、幅広いセーフティ機能を提供している。

※注1:加速度と角速度を高精度に計測し、計測結果を利用することで、車体の挙動を把握・推測・制御を実現するシステム。

バイク用スタビリティコントロール(MSC)、7つのポイント

1:傾斜角とピッチ角に応じたABSコントロールにより、あらゆる走行状況で走行安定性が向上するとともに、ブレーキング効果が向上する。

2:変化しやすい路面や滑りやすい路面でも、駆動力が効率的に路面に伝達され、駆動輪がグリップを失わないよう、トラクションコントロールが最大エンジントルクを調整。

3:コーナーで急ブレーキをかけた場合、直立姿勢に戻ろうとするモーターサイクルの特性をMSCが抑制。この不随意的なマシンの立ち直りによりコーナリング半径が大きくなり、その結果、モーターサイクルが車線を逸脱することがある。こうした場合、電子制御式コンバインドブレーキシステム(eCBS)は車輪間のブレーキ力を最適に配分し、コーナリング時にモーターサイクルを安定させる。

4:MSCは「ローサイド」転倒のリスクを軽減。ローサイドとは車輪がコーナーの外側へスリップし、コーナリング時にモーターサイクルが転倒する事故のことで、コーナリング時にブレーキ力がかかりすぎ、車輪が十分な横力を路面に伝達できなくなると発生する。MSCはローサイド転倒のリスクを検知し、最大ブレーキ力を制限することでこれを防止。なお、MSCの機能の1つである「eCBS」は、利用できる最大限のブレーキ力を車輪に配分し、コーナリング状況下で最適なブレーキ性能を保証。

5:eCBSはライダーが前輪または後輪のみに誤ってブレーキをかけた場合、またブレーキを強くかけすぎた場合でも、いつでもブレーキ力を最適に配分。

6:MSCの1つである「後輪走行緩和機能」は、エンジントルクを制御。前輪が制浮き上がる(ウイリー)のを防ぐだけでなく、最大加速を可能にする。

7:MSCの1つである「後輪浮き上がり緩和機能」は、摩擦係数が高い路面を走行中に前輪の最大ブレーキ力を低減し、後輪を接地させる。またピッチレートと縦加速度を考慮し、走行安定性を確保。

ライディングの限界を、6軸IMU、各種センサー、ソフトウェアが検知して作動

モーターサイクル用スタビリティコントロール(MSC)のシステム図。

前述した通り、モーターサイクル用スタビリティコントロール(MSC)は前後タイヤのロックを防ぐモーターサイクル用の「ABSシステム」。また加速度と角速度を高精度に計測し、計測結果を利用することで、車体の挙動を把握・推測・制御を実現する「6軸IMU(慣性計測装置)」。両者に多数のセンサーと最新のソフトウェアを組み合わせたブレーキシステム。

MSCはマシンのドライビングダイナミクスを検知するため、多数のセンサーを使用。車輪速センサーは前輪と後輪の回転速度を測定し、慣性センサーモジュールがマシンの傾斜角とピッチ角を毎秒100回以上の速さで算出。

ABSコントロールユニットは、センサーデータ、前輪/後輪の速度差、タイヤサイズ、タイヤ形状、センサー位置など、その他のモーターサイクル固有のパラメーターを分析し、傾斜角をベースにしてブレーキ力の物理的限界を計算。

もしも車輪がロックし始めたことを、MSCが検知した場合には、ABSコントロールユニットが油圧ブレーキ回路の圧力モジュレーターを作動。これによりブレーキ圧は低減され、ほんの一瞬で再び加圧される。その結果、各車輪をロックさせないために必要な強さのブレーキ圧だけを、正確にかけることができる。

前後タイヤのロックを防ぎ、理想的なブレーキングを可能にする「ABSコントロールユニット」。写真はTVS・Apache RTR 310(下記参照)に搭載された小型軽量タイプ。
加速度と角速度を高精度に計測し、計測結果を利用することで、車体の挙動を把握・推測・制御を実現する「6軸IMU(慣性計測装置)」。

MSCが搭載されたインドの312ccモデル、TVS・Apache RTR 310

ボッシュの「バイク用スタビリティコントロール(MSC)」が搭載されたインドの312ccモデル、TVS・Apache RTR 310。400cc以下のモデルとしては世界初搭載。
TVS・Apache RTR 310は水冷4ストローク単気筒312ccエンジンを搭載し、最高出力35馬力、最大トルク28.7Nmを発揮する。

モーターサイクル用スタビリティコントロール(MSC)は2014年、KTMの「1190アドベンチャー」に初採用。その後はBMWの「R1200RT」など、欧州仕様の大型車をメインに搭載されてきた。

MSC誕生10周年を迎える今回の『ミラノショー(EICMA)2023』では、はインド、中国、ASEAN諸国でもMSCが利用可能になったことが発表された。

インド、中国、ASEAN諸国においてMSCはまず、インドの大手バイクメーカー「TVS Motor Company」が発売する水冷4ストローク単気筒312ccエンジンを搭載した「Apache RTR 310」に導入。なお、市販の400cc以下モデルへの搭載は世界初となる。

ストリートファイタースタイルのネイキッドモデル「Apache RTR 310」は、最高出力35馬力、最大トルク28.7Nmを発揮。長距離走行に便利なクルーズコントロール、5つのライディングモードなどの電子制御システムを装備。

MSCは際どい状況下でライダーを徹底サポートすることで、安全性を向上。今後は各種スポーツモデルはもちろん、ワールドスタンダードである125ccクラスへの導入も見込まれている。

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