フラッグシップスーパースポーツ「メルセデスAMG GT63 4マティック+クーペ」サーキット試乗

メルセデスAMGのフラッグシップスーパースポーツ「GT63 4マティック+クーペ」を筑波サーキットで試乗

ついに日本導入を果たした2代目メルセデスAMG GTクーペ。新型ではスーパースポーツでありながら2+2シートを備え、駆動方式にもAWDを採用してパフォーマンスを高めた。その走行性能の実力をサーキットで確かめた。
ついに日本導入を果たした2代目メルセデスAMG GTクーペ。
ついに日本導入を果たした2代目メルセデスAMG GTクーペ。新型ではスーパースポーツでありながら2+2シートを備え、駆動方式にもAWDを採用してパフォーマンスを高めた。その走行性能の実力をサーキットで確かめた。(GENROQ 2024年7月号より転載・再構成)

Mercedes-AMG GT 63 4Matic+ Coupe

天は二物を与えたか

ついに日本導入を果たした2代目メルセデスAMG GTクーペ。新型ではスーパースポーツでありながら2+2シートを備え、駆動方式にもAWDを採用してパフォーマンスを高めた。その走行性能の実力をサーキットで確かめた。
最高出力585PS、最大トルク800Nmを発揮する新型「AMG GT63」。先代最高グレードのGT R(585PS、700Nm)と同等以上の性能を示す。

初代「メルセデスAMG GT」は、アマチュアレーサーにとって頂点とも言えるGT3カテゴリーで輝かしい戦績を収めてきたレーシングカー、AMG GT3のベースとなった誉高きスポーツカーだ。2代目GTは、スポーツカーとしての性能や素地を維持したまま、日常の快適性と利便性を追求したという。

快適性や利便性というのは、オプションだが+2シートを後席に備えたこと、そして駆動方式がAWDになったことだ。この2点に2750万円という価格を勘案して、ハードコアなスポーツカーでありながらちょっとした実用性も備える「ポルシェ911ターボ」(2832万円)との真っ向勝負は避けられない。

今回試乗したのは「GT63 4マティック+クーペ」(以下、GT63)だ。先代はGT、GT S、GT C、GT Rなどアルファベットで序列を示したが、新型では他のAMGモデルなどと同様に数字でグレード名が表記される。欧州ではGT43、GT55、GT63そしてGT63 S Eパフォーマンスという4グレードが用意されるが、本邦では他3グレードは導入未定で、当面GT63のみとなる。なおGT63は最高出力585PS、最大トルク800Nmなので、すでに先代最高グレードのGT R(585PS、700Nm)と同等以上の性能を示している。

立ち上がりのAWD感は強めだ。

搭載されるAMG製4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジンは、先代EクラスやSクラスなどの「63」に搭載されるM177型で、つまり先代が搭載していたM178型のようなドライサンプではない。組み合わされる変速機は9Gトロニックのトルクコンバーターを多板クラッチに置き換えて伝達効率を向上した9速AMGスピードシフトMCTとなる。ちなみに先代はトランスアクスルを採用していたが、今回はエンジン直後にトランスミッションがレイアウトされる。このあたりは限られた資源を最大限有効活用するためのパワートレイン共通化を考えると、やむを得ない所だ。

AMGが開発したアルミ主体のスポーツカーアーキテクチャーは、昨年日本に導入されたSLと共用だが、並べてみるとフロント、サイド、リヤのいずれも意匠が異なり、エクステリアにおいてクーペ版SLを思わせる箇所は少ない。一方、インテリアはほぼ同一といった印象だ。とはいえ最近のメルセデスの室内は皆同じ雰囲気となっているのでさほど気にならないが。

当然、最優先事項となる走りの装備は充実している。電子制御サスペンションのAMGアクティブ・ライドコントロールはもちろん、先代GT R同様にリヤアクスル・ステアリングを備え、エンジンやトランスミッション、足まわり、AWD、スタビリティコントロールなどを統合制御するAMGダイナミックセレクトは、スリッパリー、コンフォート、スポーツ、スポーツ+、レース、インディビジュアルの6種類のドライビングモードを選択できる。

先代と同じく空力へのこだわりは貪欲だ。先代にも装備されていた可変フロントスポイラーは80km/h以上(スタビリティコントロールのAMGダイナミクスがプロあるいはマスターの場合)で作動し、250km/h走行中にフロントリフトを50kg抑えるという。大型の可変リヤスポイラーは、走行状況や車速に応じて5段階に調節される。

0-100km/h加速3.2秒、最高速315km/hというフラッグシップスポーツにふさわしいパフォーマンスを掲げており、この性能を試すなら、当然サーキットになるだろう。今回筑波サーキットに用意された試乗車は、まだ走行距離70kmのおろしたて故に、労わりながら標準の2シーター仕様を走らせた。

秀逸な前後バランス

まずはレースモードでESCスイッチには触れずに走行する。コースイン直後のコーナーでアクセルを戻すだけで、バラバラと破裂音が炸裂する。この獰猛さこそAMG GTだ、とヘルメットの中で思わずニヤついてしまう。レブリミットは6800rpmだが、太いトルクを活かして早めに6000rpmでシフトしても9速という多段ギヤのおかげでストレスが少ない。ちなみに2速90km/h、3速130km/h、4速180km/hでリミッターに当たる。最終コーナー手前で5速200km/hが最高速だった。

高速コーナーの安定感はリヤステアの霊験あらたかといった感じだ。一方でタイトコーナーのクイック感にも貢献し、大柄なボディでも低速コーナーのターンインが気持ちいい。低速域でロック・トゥ・ロック1.9回転の可変ギヤレシオだがコーナリング中に舵角を増やしたり、あえてステアリングを切りながらアクセルを踏みこんでも適度なホイールスピンで旋回・加速していく。慣れたところでESCをオフにして、ブレーキを残しながらコーナーに進入すると、ゆっくりとリヤが流れ、前後バランスの良さがうれしい。

立ち上がりのAWD感は強めだ。これまでに乗った「日産GT-R」や「ジャガーFタイプ」などのフロントエンジン高出力AWDクーペと比較して、圧倒的にフロントの駆動力を感じる。GT63は、最大で前後駆動力配分が50対50になるという。同様の主張をするクルマは多いが、たいてい10対90か20対80の感覚しか得られなかった。その点、GT63のコーナーからの加速は鋭い。

ライバルを圧倒する前輪の駆動力

ついに日本導入を果たした2代目メルセデスAMG GTクーペ。新型ではスーパースポーツでありながら2+2シートを備え、駆動方式にもAWDを採用してパフォーマンスを高めた。その走行性能の実力をサーキットで確かめた。
新型ではスーパースポーツでありながら2+2シートを備え、駆動方式にもAWDを採用してパフォーマンスを高めた。

それにしても、だ。ESCオフで走って、自分がどれだけ電子制御に助けられているか痛感する。オフでもターンインはノーズが入るが、立ち上がりではホイールスピンが増え、アクセルを繊細に踏み込まないとトラクションがかからない。ついつい無駄に踏み込んで不要なブラックマークをつけてしまった。先代モデルの「GT R」が備えていた9段階調整が可能なトラクションコントロールは、今回の試乗時間中に発見できなかったが、前後駆動力配分を0対100にするドリフトモードなどのギミックも備わるようなので、いずれじっくり研究してみたい。

大きく重たいが前後バランスは秀逸だ。重さを感じるのは当然でスペックシートで1940kgとある。先代GT Rがカーボン素材を多用した特別仕様もあって1690kgだったが、その250kg増である。正直、この2t近いボディで、サーキットをガンガン走行するのは骨が折れるだろう。だが、ブレーキの負担が少ない、例えば鈴鹿サーキットなら、かなり楽しめるのではなかろうか。いずれにせよこの2代目にも早晩GT3仕様が登場し、レースで大いに活躍すると確信した。素地は十分才能に溢れている。

REPORT/吉岡卓朗(Takuro YOSHIOKA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年7月号

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG GT63 4マティック+クーペ

ボディサイズ:全長4730 全幅1985 全高1355mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1940kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:430kW(585PS)/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2500-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前295/30R21 後305/30R21
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:3.2秒
車両本体価格:2750万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

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著者プロフィール

吉岡卓朗 近影

吉岡卓朗

Takuro Yoshioka。大学卒業後、損害保険会社に就職するも学生時代から好きだったクルマのメディアに関わり…