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Aston Martin DB12 Volante
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Maserati GranTurismo Trofeo
究極のラグジュアリーとは
アストンマーティンによると「DB12」は「目利き」のためのクルマという。同じアストン2ドアでも、ヴァンテージはピュアスポーツカーで、DBSは自らの野心や欲望を隠さないオーラを周囲に発散する。対してDB12はそうした熱い思いはあえて内に秘めて、あくまで上品かつクールに振る舞う。それがアストンのいう目利きの大人ということか。とはいえ、世界のハイエンド2ドア市場は、わかりやすい肉食系スーパースポーツカーが主流で、DB12のように一歩引いた美学を醸し出すクルマは意外に少ない。同じ英国の「ベントレー コンチネンタルGT」もそんな1台だが、今はちょうどモデルチェンジ期に入っている。それ以外に、目利き的な2ドアといえば、マセラティの「グラントゥーリズモ」だ。
グラントゥーリズモも同門に「MC20」というピュアなスポーツカーがいて、それよりは一歩引いた上品なラグジュアリー感を表現する意味では、DB12の立ち位置に近い。今回取材した75周年記念車はトロフェオに人気オプションを標準化した特別仕様だが、3000万円前後の本体に定番オプションをトッピングすると3000万円台後半になるという価格でも、今回の2台はよく似る。というわけで、今回はDB12とグラントゥーリズモという英伊を代表する最新ラグジュアリースポーツクーペ2台を連れ出した。ただ、今回は日本法人が用意する広報車の都合もあって、DB12がドロップヘッドのヴォランテ、グラントゥーリズモがそのままクーペという組み合わせとなってしまった。もちろん、DB12にもフィクスドヘッドのクーペが存在するし、マセラティにもソフトトップ版のグランカブリオがある。
こうしてカブリオレとクーぺを並べると「ボディ剛性が……」といったご意見が出るかもしれない。ただ、誤解を恐れずにいえば、このクラスのラグジュアリー2ドアともなれば、そうした機械的な細かい性能差を気にするのは野暮と申し上げたい。クーペかカブリオレかの選択は、買う人の趣味嗜好、日常用かバカンス用か、あるいはガレージには他にどんなクルマが並んでいるか……が選択のキモとなる。だから、こうしたハイエンドクラスではクーペとカブリオレは同等であり、屋根の有無で動力性能やタイヤ、そして乗り味を差別化するのはご法度である。
ハイエンドGTの美学
実際、DB12ヴォランテも性能に直結するハードウエアに、クーペとの差はない。おなじみメルセデスAMG製4.0リッターV8ツインターボは、DB11の初期時代から、実に170PS/125Nm増強となる680PS/800Nmに達している。それにしても、ソフトトップを上げたDB12のなんと美しいことよ。最近のスーパースポーツ系オープンカーは、ソフトトップと思わせつつも内部に前後結合パネルを仕込んで、ほぼメタルトップ構造としている例も多い。しかし、DB12ヴォランテのそれは骨組にファブリックを張った正真正銘のソフトトップ。それでありながら、このコンパクトで流麗なキャビンは見事というほかない。
DB12はインテリア調度の仕立てにおいても、良くも悪くも家内制手工業的な風合いを残していたDB11までとは別物だ。パネルやスイッチの建て付けは、いい意味で完全な工業製品然としたものとなり、センターと運転席で計2枚の高精細ディスプレイには、新開発のアストン自製OSが走らされる。従来は特徴的なボタン式だったシフトセレクターが、一般的な小型レバーノブ式に宗旨替えしたことも、これが新世代アストンであることを象徴する。
対するグラントゥーリズモのシフトは逆に、先代の一般的なレバー式から、新型ではアストンの十八番だったボタン式に変更されているのが興味深い。中央に2枚とメーターに1枚、そして丸型時計の計4枚のカラー液晶を配したインテリアも全面レザーだが、そのセンスはアストンより明らかにモダンだ。センターコンソールに配された豊富な収納は、ボタン式シフト最大の美点だ。グラントゥーリズモはDB12より明らかにボディが長く、全高も大きいが、運転席に収まった時の車両感覚はコンパクトで低く、数十kg軽い車重とも相まって、アストンより軽快なオーラを漂わせる。
そんなマセラティの軽快なドライブフィールは、ネットゥーノと名付けられた自社製の3.0リッターV6ツインターボによるところも大きい。車検証の前軸重量は逆にV8のアストンのほうが軽いくらい(!)なのだが、F1直系プレチャンバー(副燃焼室)燃焼システムによるダウンサイズエンジンは、アクセルペダルの反応も緻密で、とにかく一体感が強いのだ。550PS/650Nmという動力性能も、世界でも屈指にパワフルなアストンの4.0リッターV8ツインターボには及ばないものの、同クラスエンジンの平均的値は超えており、少なくとも公道でDB12と直接的に乗り比べても、パワー不足を感じることは微塵もなかった。
グラントゥーリズモはパワートレインに加えて、シャシーも一体感のかたまりだ。快適なコンフォートモードやGTモードではエアサスや可変ダンパーもしなやかそのものだが、上下動が少ないフラット感が心地よい。そしてサーキット前提のコルサモードは公道では明らかに硬めというほかないが、アシの作動そのものは滑らかで、跳ねたり上下にゆすられたりしないところは素晴らしい。また、マセラティには油圧多板クラッチ式4WDも備わる。ディスプレイ表示を見るかぎり、FRを基本にアクセル開度に応じて最小限のフロント配分をするようだ。乗っても事前知識がないとFRとしか思えないほど4WD感が薄いが、いざというときの安心感は大きい。
真のラグジュアリーとは
基本はAMG製ながら味つけはアストン自身によるDB12の4.0リッターV8ツインターボは、身の詰まった緻密な回転感を示すネットゥーノとは好対照に、豪快で野性的な吹け上がりを身上とする。基本設計はドイツ由来なのに、そのビート感とかみつくようなトルク特性は、笑ってしまうほど英国的というほかない。
それは乗り心地やハンドリングにもいえることで、DB12のボディやサスペンションの調律は、カブリオレ形式のヴォランテということを差し引いても、マセラティほど強固でフラットではない。柔らかなドライブモードでは高級サルーンもかくやの快適性を披露するのは2台に共通するところでも、現代的にフラットに安定しきった所作のグラントゥーリズモに対して、DB12はソフトなGTモードではもちろん、最もハードなスポーツプラスモードでも姿勢変化は大きめ。コルサモードの味わいにイタリアンスポーツの出自を隠せないマセラティに対して、DB12は古典的といえば古典的だし、優雅といえば優雅、そして英国的といえば英国的。そして重厚で高級だ。
同じアストンでもピュアスポーツカーのヴァンテージの走りがどこまでもリニアでシャープであることを見れば、このDB12の味わいも、大人の目利きを表現した意図的な調律だろう。そして、パワフルなV8ツインターボを解放すれば、DB12は豪快かつ軽々と曲がっていく。この骨太な瞬間こそ、英国ラグジュアリースポーツの味わいといっていい。
アストンとマセラティ。どちらも今や、かつての宿敵だったドイツやフランスのブランドとも、資本や技術協力、部品の融通関係を築いているが、こうしたハイエンドクーペ/カブリオレの世界では、アストンはどこまでも英国的であり、マセラティはイタリアそのものだ。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 8月号
SPECIFICATIONS
アストンマーティン DB12 ヴォランテ
ボディサイズ:全長4725 全幅1980 全高1295mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1898kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4L
最高出力:449kW(680PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2750-6000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR21 後325/30ZR21
車両本体価格:3290万円
マセラティ グラントゥーリズモ トロフェオ 75th アニバーサリー
ボディサイズ:全長4965 全幅1955 全高1410mm
ホイールベース:2930mm
車両重量:1870kg
エンジンタイプ:V型6気筒ツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:404kW(550PS)/6500rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2500-5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/30ZR20 後295/30ZR21
車両本体価格:3660万円
【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja
マセラティコールセンター
TEL0120-965-120
https://www.maserati.co.jp/