目次
Aston Martin Valiant
より過激なヴァラーを求めたアロンソ
「アストンマーティン ヴァリアント」は、アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チームのドライバー、フェルナンド・アロンソの「軽量で過激さを増した、レーシングカーの要素を取り入れたヴァラー(Valour)が欲しい」という個人的な依頼をきっかけに生まれることになった。
この依頼とアロンソの23年に及ぶF1のキャリア、そして限界走行への情熱に触発され、Q by Aston Martinが入念に設計・開発。厳格に台数を限定するスペシャルモデル、ヴァリアントが完成した。
ヴァリアントには、ハイパーカー「ヴァルキリー」、究極のスポーツモデル「ヴァンテージ」、レース仕様「ヴァンテージ GT3」、間もなく発売が開始されるミッドエンジンスーパースポーツ「ヴァルハラ」といったアストンマーティン製モデルの系譜を色濃く受け継がれている。
デリバリーは2024年第4四半期から。一般公開は2024年グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード(7月11~14日)、ヒルクライムコースにおいてデモンストレーションランを実施する予定となっている。さらに、ヴァリアントの最初のオーナーであるアロンソがデモランを行う計画もあるという。アロンソは、ヴァリアントの完成を受けて次のように喜びを語った。
「ヴァラーは、アストンマーティン110周年を華々しく祝う存在であると同時に、私を奮い立たせてくれる1台です。サーキットを重視しながらもオンロードでもスリリングなドライビングが楽しめるような、レーシングカーからインスパイアされたより過激なバージョンを作りたいと思わせてくれました」
「ヴァリアントは限界走行に対する私の情熱から生まれた1台です。デザインと技術仕様の両方について、Q by Aston Martinと密接に協力しつつ、楽しみながら開発を行いました。私自身、傑作が誕生したと確信しています」
各コンポーネントで徹底された軽量化
ヴァリアントはアストンマーティン製フロントエンジンモデル、そして限定スペシャルエディションの新たな最高峰として開発。そのターゲットは公道仕様を留めつつ、サーキットで最高のパフォーマンスを発揮することにあった。
最高出力745PS、最大トルク753Nmを発揮する5.2リッターV型12気筒ツインターボエンジンをフロントに搭載し、6速MT、強力な制動力を発揮するフロント410mmx38mm、リヤ360mmx32mmのカーボンセラミックブレーキが組み合わせられた。
本格的なサーキット走行を想定し、軽量化やシャシーの専用セッティングを実施。3Dプリンタで製作されたリヤサブフレームを採用することで、剛性を下げることなく3kgの重量を削減、同時にマグネシウム製トルクチューブによって車両中央部の質量も8.6kg削減した。
フロント275/35、リヤ325/30のタイヤを装着し、21インチ軽量マグネシウムホイールの導入により、ステアリングレスポンスとホイールコントロール性能が向上。バネ下重量も14kgの削減が可能になった。さらにモータースポーツ仕様のリチウムイオンバッテリーを採用し、11.5kgの軽量化も達成した。
マルチマティック製ASVダンパーを採用
足まわりには、マルチマティック社製「アダプティブ・スプール・バルブ(ASV)ダンパー」を装着。それぞれのダンパーを6ミリ秒以内に同時調整するASVダンパーは、乗り心地とハンドリング特性をほぼ無限に調整することが可能で、これまではモータースポーツの最上位レベルにおいてのみ採用されてきた。アフターマーケットでは入手不可能だったが、今回モータースポーツ用レーシングカーレベルのダンピング制御とオペレーション制御の幅が可能になった。
新たに導入されたサスペンション・セットアップの幅広さと、強化されたエアロダイナミクスによるダウンフォースを活かすため、ヴァリアントのドライビングモード(Sport/Sport+/Track)は、それぞれが再キャリブレーション済み。ドライバーは乗った瞬間から、車両性能を最大限引き出すことができるという。
アストンマーティンのビークルパフォーマンス担当取締役のサイモン・ニュートンは、ヴァリアントのドライビングパフォーマンスについて次のように説明する。
「ヴァリアントは公道走行も楽しめる使い勝手の良さを残しながら、サーキットにおける性能を大幅に引き上げることに重点を置いています。V12エンジンの最高出力を745PSに高め、マルチマティック社製ASVダンパーでシャシーのセットアップの完成度を向上、ボディ形状の変更によるダウンフォースの強化、軽量素材やプロセスの使用で重量削減を図るなど、主な領域すべてで調整を行い、パフォーマンスを向上しました」
「ヴァリアントは、あらゆる動きの中心にドライバーが存在します。最大限の満足感が得られるようコントロールウェイトを磨きあげ、マニュアルトランスミッションのシフト動作を極め、ハンドリングの制限を引き上げました。ステアリングを握れば、ドライバーは高い満足感を覚えるでしょう」
空力と冷却効率を極めたエクステリア
アグレッシブで過激、曖昧さを排除したヴァリアントのドラマチックなボディワークには、アストンマーティンの強い意思が込められた。軽量カーボンファイバーを全体に使用し、ワイドで筋肉質なボディワークに刻まれたシャープなラインにより、強大なダウンフォースを確保。さらに、スピードを低下させる空気抵抗を最小限に抑えることにも成功している。
深いフロントスプリッターは、最大効率で空気を引き裂きながらノーズを路面へと低く抑える。多層構造のエンドプレーンはフロントホイール周辺のアフローをスムーズに整える効果を持つ。スプリッターの真上には車幅全体に広がるカーボン製グリルがエンジン用冷却エアを増加させ、フロントアクスル前方の重量を削減。重量を中心部へと集中させることでハンドリングも向上させている。
最も特徴的なコンポーネントが、大きく丸みを帯びたサイドフェンダーと21インチマグネシウムホイールに装着されたカーボンファイバー製エアロディスク。ワイドなサイドシルとリヤホイールの前方上向きに反ったボルテックスジェネレーターは、フロントスプリッターのエンドプレーンと連携し、ボディ側面のエアフローを整え、乱気流、空気抵抗、ドラッグを低減する。
軽量鍛造マグネシウムホイールに直接装着したエアロディスクは、1980年にル・マンを走行した「RHAM/1 マンチャー」に装着されていたホイールカバーからインスピレーションを得て開発。ホイールの回転から生じる乱気流と空気抵抗を抑えるだけでなく、6つの吸気口が冷却用エアをカーボンセラミックブレーキへと送り込む。これにより、カーボンセラミックディスクによって生じる高温の空気を排出するホイール外周エアアウトレットと共に、サーキット走行時に最適なブレーキ性能を維持する。
リヤセクションは、シャープな専用カムテールと大胆に反ったデッキリッド、その上に固定式大型リヤウイングを装着。フロントスプリッターによって発生したダウンフォースとのバランスを取る形状が採用された。固定一体型クラムシェルは、ヒンジ開閉のリヤスクリーンパネルを備え、ヘルメットやレーシングスーツを収納可能な積載スペースが確保されている。
空気抵抗とドラッグを効果的に削減するため、カーボンファイバー製リヤディフューザーは数値流体力学(CFD)を用いて設計。ディフューザーエレメントは、V12エンジンのエキゾーストノートを生み出すチタン製クワッドエキゾーストシステムを美しく囲む役割も果たしている。
専用デザインの6速マニュアルミッション
インテリアはモータースポーツ由来の機能性と、アストンマーティンが誇るラグジュアリーなデザイン、そして最新素材を鮮やかに組み合わせた。サテン仕上げのカーボンファイバーを広範囲に使用したことで、軽量化にも一役買っている。新設計のステアリングホイールは完璧な円形で、直感的な操作と集中力維持のため、リムとスポークからはスイッチ類が排除された。
6速MTギヤボックスは、トランスミッショントンネルの内部が一部見える構造を採用。専用設計の球形リヤノブとHパターンは、ギヤシフトの重みと完璧なフィーリングをもたらすことに重点を置いて開発された。
サーキット走行を念頭に設計されたヴァリアントは、ドライバーの快適性と安全性を最重視し、ハーフケージとレカロ社製ポディウムシートを標準装備する。スチール製のハーフケージは、4点式レーシングハーネス装着時のアンカーポイントとしても機能。レカロ社製ポディウムシートは横方向とショルダー部のサポート性が優れているほか、パッドにパッシブベンチレーションを採用し、過酷なドライビングにおいても快適さが確保された。
キャビントリムはアルカンターラかセミアニリンレザーから選択が可能。アルカンターラ製シートにはキルティングのデボス加工が施された。専用のドアパネルは彫像のようなデザインが導入され、軽量化のためメッシュのインサートパネルと軽量布製ドアリリースハンドルが装着されている。