目次
その1:「+2」の後席を設けたレイアウト
1952年以来、メルセデス・ベンツのアイコン的な存在として世代を重ねてきた伝統のオープンモデル、SL。スポーツカーやオープンカーにとって冬の時代といえる現代とあって、次世代モデルの登場が危ぶまれる声も聞こえていたが、そんな心配を吹き飛ばしてくれるような最新型が誕生した。
最新SLのハイライトのひとつが、「プラスツー」と呼ぶ小さな後席を設けたこと。歴代SLの“ほとんど”は2シーターを貫き続けてきたSLだが(1989年のR129では、欧州仕様にのみ後席がオプション設定されていた)、新型ではすべてのモデルが2+2のレイアウトを採用した。ちなみにこの後席は「日常の使い勝手を向上するとともに、身長1.5mまでの乗員に対応する空間」であるという。
その2:クラシカルなソフトトップを採用
メタルトップを採用してきた従来のSLと異なり、新型モデルはあえてクラシカルなソフトトップを装着している。幌屋根の採用により伝統的なロードスターらしい趣が生まれているのはもちろん、上屋を軽く仕上げられるため重心高も下がり、ハンドリングにも好影響をもたらしているという。
ハイエンドロードスターのSLには高い快適性が求められる。高速走行時でもキャビンを静かに守り、外気温に左右されずエアコンの性能を最大限活かすべく、ルーフ素材には高い遮音性や遮熱性を与えなければならなかった。結果、新型SLは3層構造のソフトトップを採用。しわなくピンと張りつめたアウターシェル、美しく仕上げられたルーフライナー、そしてその中央に防音材を挟み込んでいる。
ソフトトップ採用により、荷室の使い勝手も向上した。213リットルの容量を確保したラゲッジコンパートメントにはゴルフバッグ2個が収納できる。コンパクトに収まるZフォールド構造のソフトトップは、従来のようなトノーカバーが不要の設計になっているのもユニークだ。開閉に要する時間は約15秒で、60km/hまでなら走行時でも操作可能。カラーはブラック、グレー、レッドをラインナップし、リヤウインドウには熱線入りの安全ガラスを採用している。
その3:SL史上初の4輪駆動。追ってハイブリッドも登場へ
新型SLは、AMG GT系と共有するAMG製4.0リッターV型8気筒ツインターボ(M177型)を搭載。オイルパンを新設計しインタークーラーを再配置、アクティブ・クランクケース・ベンチレーションシステムを採用するなど、SL専用の設計とした。当面のラインナップは、出力違いの「SL 63 4マティックプラス」(585hp/800Nm)、「SL 55 4マティックプラス」(476hp/700Nm)の2モデルとなり、4マティックを謳うとおりいずれも4輪駆動仕様である。
電制クラッチを備える4マティックプラスシステムにより、純粋な“FR”ドライブから安定感ある4WD走行まで自在に走行スタイルを変更可能。V8ツインターボが発生する強大なトルクを余すことなく路面に伝え、よりパワフルな加速を実現するという。
さらに、追ってアファルターバッハ流の高性能ハイブリッド機構「E PERFORMANCE」を搭載する電動化モデルも投入予定である。
その4:後輪操舵システムも標準装備
後輪操舵システム「リヤアクスルステアリング」を採用するのもSL史上初の試み。車速100km/hまでは後輪を前輪と逆位相に操舵し、取り回し性を向上。「まるでホイールベースが短くなったかのような」感覚で、方向転換や駐車時などの操作性を高める。一方、車速が100km/hを上回ると後輪を最大0.7度同位相へ操舵。「まるでホイールベースが伸びたかのような」安定感を提供する。
ちなみにリヤアクスルステアリングのレスポンスは走行モードごとに変更されるそうで、例えば「スポーツプラス」に切り替えると、より機敏な反応になるという。
その5:白紙から開発した頑丈なボディシェル
SUVのようにボリュームが見込めるモデルではないとはいえ、メルセデスにとっての伝統であるSLのクオリティには一切の妥協が許されない。そのこだわりを反映するように、ボディシェルはわざわざ白紙から開発。先代からの流用はもちろん、他のAMG GTモデルと共有するコンポーネンツもないそうだ。
AMGらしい走りとメルセデスならではの安全性を両立すべく、ボディシェルには軽量かつ剛性に優れた混合材を使用。アルミニウムやマグネシウム、繊維複合材、スチールを組み合わせることで、可能な限りの軽さと剛性を追求したという。結果、ボディシェルのねじり剛性は先代比で18%アップ。ドアやボンネット、トランクリッドを外した状態での重量は約270kgに抑え込んだ。さらに、フロントウインドウ周りのフレームには高強度の熱間成形スチールを使用し、万一の際はリヤシート背後に格納されたロールバーシステムと共に乗員を守る保護部材となるよう設計している。
その6:“ハイパーアナログ”なコクピット
新型SLは12.3インチのLCDスクリーンを備えたデジタルインストゥルメントパネルを採用。現行メルセデスに共通の“横だおしタブレット型”ではなく、あえてクラシカルなフード付きデザインとしているのは、オープン走行時の太陽光反射を考慮したものでもあるという。ダッシュボード中央の11.9インチのタッチスクリーンも光の映り込みに配慮し、12〜32度の範囲で角度調整ができるようになっている。
レザーを貼り込んだダッシュボード周りは比較的保守的なデザインだが、メルセデスの最新基準にもとづくコネクティビティ性能を確保している。新型Sクラスと共通の第2世代MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)システムを搭載し、「ハイ、メルセデス」でお馴染みの自然対話型音声認識機能も利用可能。
さらに、「SL 63」には“バーチャル レースエンジニア”を謳う「AMG トラック ペース」を標準搭載し、車速や加速、操舵角など80以上の車両情報を記録したり表示することができる。ラップタイムや区間タイムの表示はもちろん、ニュルブルクリンクやスパ・フランコルシャンといった主要サーキットのデータも収録済み。ヘッドアップディスプレイに表示されるレース用ナビゲーションからは、コーナー角やブレーキングポイントなど、最適なライン取りのためのヒントを得ることができる。
その7:高性能モデルのエキスパート、AMG主導で開発
メルセデス・ベンツのハイパフォーマンス部門、AMGが主体となって開発した新型SL。しかし、SLの出自を考えれば、これはまさしく原点回帰ともいえる。“ガルウイング”の愛称で知られる初代300 SL(W198)のルーツは1952年生まれのレーサー、W194に他ならないからだ。
W194は、メルセデス・ベンツにとって第二次大戦後初のレーシングカーだ。国際レースへの復帰を目し、名設計者ルドルフ・ウーレンハウトによって生み出された。アルミニウム製のチューブラースペースフレームシャシーにむき出しのボディパネルを採用した超軽量(Super Light)マシンであった。
300 SLによる1952年シーズンの活躍は、モータースポーツ史に燦然と輝いている。ル・マンでは見事1-2フィニッシュ、ミッレ・ミリアでも2位と4位につけ、ニュルブルクリンクのノンタイトル戦で1〜4位を独占、スイス・ベルンのノンタイトル戦でも1〜3位を奪取した。
そして、当時世界で最も過酷なレースと言われたカレラ・パナメリカーナ・メヒコへも参戦。5日かけて未舗装路も含めておおいに変化に富んだメキシコの道を3100km走破するという、人にもクルマにも厳しいレースへ、メルセデス・ベンツは300 SLのクーペとロードスターを各2台投入。結果、カール・クリング/ハンス・クレンク組が1位、ヘルマン・ラング/アーウィン・グルップ組が2位という伝説的勝利を記録した。
かつて戦うために生まれた300 SLのDNAは、戦うエンジニア集団、アファルターバッハの手により最新のロードスターとして転生したのである。
【SPECIFICATIONS】
メルセデスAMG SL 63 4マティックプラス(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4705 全幅1915 全高1353mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1970kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
ボア×ストローク:83.0×92.0mm
総排気量:3982cc
最高出力:430kW(585hp)/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm/2500-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
タイヤサイズ(リム幅):前265/40ZR20(9.5J) 後295/35ZR20(11J)
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:3.6秒