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Chevrolet Corvette
8世代目に進化したアメリカンスポーツの雄
待ちに待ったコルベットが遂にやってきた。通算8世代目にしてFRレイアウトに別れを告げてミッドシップスポーツカーに変身したシボレー・コルベット。従来からのファンはもちろん、これまでこのアメリカンスポーツに興味を示さなかった人にとっても、注目のモデルであることは間違いない。
個人的には昨年2月末にラスベガスで行われた国際試乗会で、その素晴らしい完成度をいち早く体感していた。それでも早くもう一度対面したいと期待に胸を膨らませていたのは、やはり走り慣れた道でじっくり評価したいという思いはもちろん、コルベット史上初の右ハンドルへの興味からのことだ。
いかにもミッドシップなフォルムに変身
試乗車はクーペの3LT。エントリーグレードの2LTとはパワートレインなど走りの根幹の部分は変わらず、主に内外装の装飾が異なる、言わば豪華上級仕様である。
改めて、その外観を眺めてみる。典型的なロングノーズ・ショートデッキから一転、キャビンフォワードとなったフォルムはいかにもミッドシップだが、演出過剰気味のシャープなディテール、フラットなリヤデッキ、四連のテールランプなどのおかげで、割とすんなり違和感は払拭される。
個人的には右ハンドルでもオッケー
いよいよ右側のドアを開けて室内へ。シートに腰を降ろすと、ポジションは期待以上にぴたりと決まる。ペダルはやや内側寄りだが、車幅が広くシート位置も内側に寄せられているので、身体に対するオフセットはほぼ皆無。これなら個人的には右ハンドルでオッケーだ。
インテリアは運転席と助手席が明確に分けられており、コクピット側は囲まれ感が強調されている。低いフード、そして25mm低くなったダッシュボードに合わせてステアリングの上辺が水平にカットされたおかげで視界は開けており、少しだけ見えるフェンダーの峰も、いかにもな雰囲気で悪くない。
デートカー的な部分も残してほしかったが・・・
ただし、助手席に座ると隔絶感というか疎外感、結構強い。かつてないほどのリアルスポーツカー志向は解るが、デートカー的な部分もある程度は意識してよかったんじゃないかと思わないではない。
実用性は十分で、荷室は車体前後に備わる。もっともリヤは例によって脱着式のルーフを取り外した場合には、その置き場として占領されてしまうのだけれども。
低回転からトルクたっぷり。回さなくても恍惚に浸ることができる
まずは一般道から高速道路へと走って行く。走行モードは、最初はツーリングでスタートだ。
いきなり結論めいたことを言うならば、その走りはまさしくコルベットだった。背後に積まれたV型8気筒6.2リッターOHV自然吸気ユニットは、低回転域からトルクがたっぷりしていて扱いやすく、余裕をもってクルマを前に進めてくれる。8速DCTの躾も見事で、スムーズでありながらダイレクト感も上々。緩加速が断続する街中でもストレスとは無縁である。
100km/h走行時のエンジン回転数は、ざっと1300rpm前後。低負荷時には4気筒となる気筒休止システムも備わるが、フィーリングにはまったく影響ない。耳をすませば、マルチシリンダー自然吸気らしい澄んだサウンド。別に目一杯回さなくても、大げさではなくそれだけで恍惚に浸ることができる。
ライドコンフォートにも感心させられた。アルミニウム素材を多用し、要所にマグネシウムやCFRPも使った完全新設計のボディの剛性感の高さと、優れた前後重量配分という基本的な素性が良いのだろう。まずは、状況を問わずフラット感が非常に高い。
路面追従性が驚くほど良いサスペンション
その上、4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションが、遂に樹脂製リーフスプリングに代わってコイルスプリング式とされたこともあって、ストローク感も十分。これにマグネティックセレクティブダンパー特有の適度に緩めのタッチが相まって、とてもゆったりとした、懐深い乗り味を実現しているのだ。これぞ、紛れもなくコルベットの進化系である。
もう少し引き締まっていた方が好みという方は、走行モードを“スポーツ”にセットするといい。これでも乗り心地は十分に許容範囲内であり、それでいて適度に引き締まった走りを楽しめる。
乗り心地が良いだけではない。このサスペンションは路面追従性が驚くほど良く、盛大なうねりを通過した際などもまるで接地感が乱されない。しかも、それが情報としてドライバーにしっかり伝わってくるから、高速巡航中であれ、あるいは今回も遭遇したウエット路面であれ、この上ない安心感をもって走ることができるのだ。
多彩な表示を実現するデジタルメーターを装備
ワインディングロードでは、ステアリングホイール上のボタンを押してZモードを呼び出す。ステアリング、サスペンション、エンジン/シフト、ブレーキフィーリング、エンジン音、PTMの設定をそれぞれ任意にセットできるスポーツ走行用のモードである。
さらに深くアクセルを踏み込んでいくと、最高出力502ps、最大トルク637Nmというスペックを誇りながらも、自然吸気だけにパワー、トルクの出方はリニア。おかげで思い切って踏んで行けるし、しかもその時には回すほどに粒が揃っていく極上のV8サウンドまで伴うのだから堪らない。無論、こうして安心して踏めるのはミッドシップならではの優れた重量配分と、前述の高い接地性がもたらす絶大なトラクションのおかげでもあることは言うまでもないだろう。
3段階にブレーキタッチは変更可能
それも含めて、このフットワークには唸らされるばかりだ。ステアリングは無理にシャープに演出されてはいないが、ノーズが軽いのでターンインは十分に軽快。決して鋭すぎず、荷重移動も使って意識してフロントを入れていくと丁度いい。ちなみにブレーキのタッチは3段階に切り替えられるが、一番強くすると剛性感が出てコントロールしやすかった。
ターンインが決まれば、あとはミッドシップらしい絶妙な姿勢で旋回できる。優れているのは前後バランスだけじゃない。OHVユニットの重心の低さも効いていて、旋回中のリヤは本当にベタッと路面に貼り付いているかのようだ。
さらに追い込むと、シャシーはやはり安定方向に寄せてあって徐々に前輪が鳴き出すが、ミッドシップらしい軽快感は十分あるし、それでいて安心感も高い。しかも立ち上がりで床までアクセルを踏み込めば、グッと荷重が乗った後輪が抜群のトラクションを発揮して、一気に立ち上がることができる。これはまさにミッドシップならではの、サイコーの快感だ!
走りにしろ、あるいはデザインにしろ、紛れもなくコルベットだ
敢えて不満を探すならば、8速DCTは2速と3速のギヤ比がやや離れ過ぎかもしれない。ワインディングロードでは3速が主体となるが、相当速度が落ちないと2速へ落とせないのだ。低回転域から力があるので3速のままでもいいのかもしれないが、あくまでリズムの問題である。
とは言え、本当に良く出来たスポーツカーである。重箱の隅を突くようなことは書いたが、それでも走りに関してはほぼ満点の仕上がりだし、十分な実用性も快適性も備わる。そして何より、その走りにしろ、あるいはデザインにしろ、紛れもなくコルベットでしかないのが嬉しくさせるのだ。
正直、今まではその雰囲気に憧れつつも自分で買う対象にはなかなかならなかったコルベットだが、新型には文句なしに魅了された。きっと今後は、そうやって多くの新しいユーザーを虜にしていくに違いないし、一方で往年のファンも結局は納得することになるはずだ。そのためには、左ハンドルも用意してくれれば尚良いだろう。
とにかく言えるのは、また1台、素晴らしいスポーツカーが現れたということ。今はもう、これを歓びたい気持ちでいっぱいなのだ。
REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
シボレー コルベット 3LT
ボディサイズ:全長4630 全幅1940 全高1220mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1670kg
エンジン:V型8気筒OHV
排気量:6153cc
最高出力:369kW(502ps)/6450rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/5150rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR19 後305/30ZR20
車両本体価格(税込):1400万円
【問い合わせ】
GMジャパン・カスタマーセンター
TEL 0120-711-276
【関連リンク】
・GMジャパン 公式サイト
https://www.chevroletjapan.com/