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Land Rover Defender × Jeep Wrangler
都会的なディフェンダーと古典的なラングラー
ランドローバー ディフェンダーとジープ ラングラーは、いわゆる街乗り系SUVとは一線を画す一本気なオフローダーだ。
前者は、ディフェンダーを名乗るようになってから、初めてのフルモデルチェンジを2019年に敢行。一足飛びに先進的なモダンオフローダーへと進化した。初代YJから数えて4代目となる現行ラングラー(JL)は、タフネスと無骨さを兼ね備えた道具としての様式美を一貫して今に伝えている。
日本では、ディフェンダーが4ドアの「110」と2ドアの「90」をラインナップする一方、ラングラーは2ドアが受注生産のみであり、4ドアの「アンリミテッド」がメインとなる。今回は4ドアモデル同士で両者の違いを比較する。
■ボディディメンション■※いずれも全長はスペアタイヤを含めた数値
ディフェンダー=全長5018×全幅1995×全高1970mm、ホイールベース3022mm
ラングラー=全長4870×全幅1895×全高1855mm、ホイールベース3010mm
ラングラーは3代目に比較すると全長が40mmほど長くなってはいるものの、デザインの処理でさほどの“成長”を感じさせない。かたや、ディフェンダーはついに5m超えの堂々たるサイズへ。全幅も2mに近く、狭隘な市街地などではいささか取り回しに気を遣わされるのも事実である。
先進のモノコック vs 伝統のラダーフレーム
デザインも、ディフェンダーは各部に旧来の記号性を継承してはいるものの、全体的には超モダンかつ都会的な容貌に進化。「道具感」や「土の臭い」からはほど遠い高級クロスオーバー的な1台になっている。
いかにも無骨で強靱なオフローダーというスタイルを愛する層は少なくなく、その点ではラングラーの変わらぬデザインは大きな商品力といえる。また、ドアパネルやフェンダー、フロントウインドウフレームにはアルミニウムを、スイングゲートの骨格にはマグネシウムを使用するなど、中身は最新の“ライトウェイト仕様”に進化している。
両モデルの進化の方向性の違いは、その構造にもはっきりと現れている。新型ディフェンダーは、伝統的なラダーフレームと決別。95%が新設計のアルミニウム製モノコック「D7xアーキテクチャー」を採用し、剛性を従来比で3倍にアップした。モノコックボディ化に合わせて、サスペンションもリジッドから独立懸架に変更。フロントにダブルウィッシュボーン、リヤにマルチリンクを組み合わせている。さらに、110はエアサスも標準装備するという太っ腹な仕上げとなった。
ラングラーはラダーフレーム+前後リジッドという伝統を固守。がっちりとしたフレームのもたらす独特の乗り味を継承しつつも、進化した製法や素材、セッティングのおかげで先代よりも快適な乗り心地を提供している。
両者一歩も譲らぬオフロード性能
気になるオフロード性能は、いずれも老舗の4輪駆動メーカーらしい実力を担保。両者ともに「本物のオフローダー」と呼ぶに相応しい性能が与えられている。
ディフェンダーはセンターデフ式のフルタイム4WDで、先進のオフロード走行デバイス「テレインレスポンス2」も組み合わせる。泥や砂、雪などの各モードに加えて、新たにWade(浅瀬を渡る)プログラムも追加。突然の悪天候や悪路に遭遇しても、ドライバーはスイッチひとつで“オフロードのプロ”に変身できる。
ラングラーは、従来のパートタイム4WDに加え、フルタイムオンデマンド4×4システムを全車に採用。さらに本格派の「ルビコン」になると、よりリジッドな4WD性能を発揮するための「ロックトラック フルタイム4×4」システムが装着される。ローギヤード化した副変速機により、凹凸のある急勾配路でも、極低速で地面を噛みしめるように進むことができる強力な駆動機構だ。また、必要に応じて後輪のみ、または前後輪両方のディファレンシャルを直結状態にすることも可能。
■オフロード性能■
・ランドローバー ディフェンダー
渡河性能=水深900mm
最大積載量=900kg
牽引能力=3500kg
グラウンドクリアランス=291mm
アプローチアング=38度
ランプブレークオーバーアングル=28度
デパーチャーアングル=40度
・ジープ ラングラー
渡河性能=水深760mm
最大積載量=540kg
牽引能力=1587kg
グラウンドクリアランス=252mm
アプローチアング=36度
ランプブレークオーバーアングル=20.8度
デパーチャーアングル=31.4度
「必要にして十分過ぎる」パワースペック
ディフェンダーは2.0リッター直列4気筒ターボの「P300」、もしくは3.0リッターの直列6気筒ディーゼルターボ+マイルドハイブリッドの「D300」という2つのパワートレインを用意。一方、ラングラーは2.0リッター直列4気筒ターボのみが日本市場での選択肢となっている。
■パワースペック■
ディフェンダー=最高出力300ps/5500rpm、最大トルク400Nm/2000rpm
ラングラー=最高出力272ps/5250rpm、最大トルク400Nm/3000rpm
直4エンジン同士を比較するとかなり拮抗した数値。一見すると車重はラングラーのサハラが1960kg、ディフェンダーが2240kgと、エアサスや各種デバイスを満載するディフェンダーの方が重い。ところが、両車ともに実際に走ってみると重量を意識させるようなシーンはほとんどないどころか、驚くほど力強く速い。未舗装路をホームグラウンドとする2車だけに、「必要にして十分過ぎる」パワーを持ち合わせている。
“スイッチ”に見る老舗オフロードメーカーのこだわり
ディフェンダーのコクピットの景色はシンプルそのものだ。ステアリングホイールやダッシュボード側にマウントしたセレクターレバーはとにかく頑強で、岩のようにがっしりと取り付けられている。エアコンの調整ダイヤルや各種スイッチは現代標準にしては大ぶりな設計で、操作感が明瞭なのも印象的。車高調整やオフロード制御など、重要度の高い機能は物理スイッチを設けて対応している。
ラングラーもやはり物理スイッチがコントロール系の主役。レバーもボタンも大きめサイズで、ごつめのグローブをしていても正確に操作することができる。コクピット自体はタイトな作りになっていて、オフロードでも身体をしっかりホールドしてくれて安心感がある。水平基調のダッシュボード上にそそり立つ長方形のフロントウインドウ越しに眺める景色もいかにもジープらしい。
「らしさ」全開のユニークな装備
ディフェンダーは、“透けるボンネット”ともいえる先進のクリアサイトグラウンドビューを搭載。中央スクリーンにフロントホイール前方180度の景色を投影し、オフロード走行では重要な「進むべきか、戻るべきか」の判断をしやすくする独自の機構だ。さらに、遠隔で愛車の状態を確認できる「リモート」機能、エマージェンシーブレーキやレーンキープアシストなど、先進安全運転支援機能も用意。
加えて、車体の傾きや勾配、渡河時の水深、デフロックの状態、自車を3Dで“客観視”できるカメラビューなど、あらゆる情報が中央のタッチディスプレイ上で閲覧できるようになっている。また、ルーフトップテントや車載エアコンプレッサーなど、ランドローバー史上最大のアクセサリーを揃えているのも魅力的だ。
先進機能を総動員してきたディフェンダーに対し、ラングラーはジープらしさを重視した装備を満載する。天井部には3枚のパネルで構成する「フリーダムトップ 3ピース モジュラーハードトップ」を採用。フロント2枚だけを取り外したり、すべて取り去ったり、状況に合わせた“オープン体験”を楽しむことができる。
ルーフを開けた状態での使用を想定して、耐候型サブウーハーも採用するなど、徹底的にアウトドア生活を楽しむための視点で作られているのも特徴。たとえオープン走行で室内が土や埃で汚れたとしても、排水口付きのラングラーならキャビンを水で丸洗いすることも可能だ。
ディフェンダーとラングラーの共通点は・・・
階段を5〜6段とばして一気にステップアップしたディフェンダーと、古典的な道具感に少しずつ磨きをかけてきたラングラー。ハイテク&モダンなSUVに対して、趣のあるオールドスタイル4×4と、両車のキャラクターは一見相反するようにも感じられるが、たしかな共通点がある。根底に流れる「本格派オフローダー」としてのプライドだ。ラングラーもディフェンダーも、野を越え山越えどろんこになって遊べる自由を私たちにもたらしてくれる。この2台は単なる移動の手段ではなく、まだ見ぬ場所に我々弱き人間を連れていってくれる頼もしき相棒なのである。
良心的なプライスタグも、もうひとつの共通点。ラングラー アンリミテッドは727万円〜、ディフェンダー 110は674万円〜と、競合するドイツ車勢に比べればバーゲンプライスといえる。ラングラーはレギュラーガソリン対応なので比較的維持費も抑えられるし、ディフェンダーにもディーゼルという選択肢がある。なにより、ラングラーとディフェンダーは、今まで見たことのない景色や味わったことのない体験というプライスレスな価値をぐっと身近な存在に近づけてくれる。もしかしたら、それが両車が共有する一番の魅力なのかもしれない。
過去にディフェンダー vs ラングラーの2ドアモデル対決も行っているので、ご興味のある方は是非そちらも参照されたし。