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全国で100店舗の計画
中国の自動車メーカー、BYDが今年の東京オートサロンに出展したことが話題になった。BYDはもともとバッテリー・メーカーとして1995年に中国の深圳で創業。現在は自動車など4事業をグローバルに展開している。ちなみにEV用バッテリーの生産量は、同じ中国のCATLに次いで世界第2位。EV、PHV、FCVの生産台数では2022年1〜10月の統計で世界第1位にもなった大企業だ。そんなBYDが日本進出を発表したのは昨年7月のこと。彼らは今年1月より3台のEVを順次発売するほか、全国で100店舗以上のディーラーを展開する計画という。
念のため申し添えておくと、BYDの製品は、例えば最新のドイツ製EVと比べても引けを取らないくらい乗り心地は快適で走りも良好。一方で、中国製という理由だけで敬遠する向きがいるかもしれないが、いまどきの若者は中国製でもなんでも、自分が欲しいと思えば気にせず買うはず。したがって、BYDが日本市場で一定の成功を収めても、まったく不思議ではなかろう。同様のことは、先ごろ日本再参入を果たした韓国のヒョンデについてもあてはまる。
自動車評論家としての目線でいっても、いままでにないキャラクターを持つ新製品が登場するのは大歓迎だが、いくつか指摘しておきたいことがある。ひとつは、オリジナリティで勝負して欲しいということ。自動車メーカーが、成長の過程で他社製品を参考にするのはよくあることだが、仮にも世界のトップを目指すなら、自分たち独自の技術と、独自の世界観を作り上げて欲しいと思う。
日本の自動車メーカーは世界のトップに追い付きかけた1990年代初頭にバブルが弾けて開発費が激減するという苦渋を味わったが、それでも信頼性やスペース効率といった点ではいまも世界のトップに立っているし、ハイブリッドや燃料電池に関する技術も世界トップクラス。部品や素材にまで領域を広げれば、日本でしか作れないものはいくつもある。そうした独自性ないしは卓越性が、日本車に特別な価値をもたらしているのは間違いないだろう。
自動車大国の責任と覚悟
一方のBYDはリン酸鉄リチウムイオン電池を用いて安全性やコスト低減を実現しているそうだが、そういった特徴ある技術を数多く生み出してこそ、世界中からリスペクトされる自動車メーカーになれるのではないか。その意味でいえば、BYDにとってはこれからが本当の勝負ともいえる。もうひとつは、BYDというより中国という国への注文になるが、そろそろ自動車産業への強力な保護政策を打ち切るべきときではないのか。
テスラが風穴を開けたとはいえ、それまで外国資本が中国で現地生産する際には中国企業との合弁会社を立ち上げなければならず、しかも撤退の際には資本や設備がすべて奪われるかもしれないリスクがつきまとったと聞く。そもそも中国の自動車産業と自動車市場はいまや世界ナンバー1の規模。だとすれば、輸入車に15%もの関税を課すのはもはや時代遅れ。もっと正々堂々と勝負すべきではないのか。ちなみに、日本が自動車の関税を0%としたのは1978年のことである。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
MAGAZINE/GENROQ 2023年3月号