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排気音から得られる至高のシンフォニーとは?
最近、音まわりの規制がうるさくなってきた。エンジン音のみならずタイヤのロードノイズも問題になっている。最新モデルに乗ってもエキゾーストノートってやつに驚くことなどほとんどない。フェラーリの自然吸気を駆っても、だ。
不思議なもので比較的静かなクルマに身体が慣れてくると、今度は爆音が辛くなってくる。朝イチで大仰な爆発音を発せられたりすると、昔なら大喜びだったはずなのに、最近では心臓が止まるかと思うくらいに驚いてしまう。
それでも我々クルマ好きはラウドなノートを愛してやまない。ときおり聴きたくなるのは、単なる暴走的爆音ではなく、精緻なメカニズムと吸排気が生み出す至高のシンフォニーだ。マフラー交換などで弄った音ではなく、あくまでもノーマルコンディションによって奏でられるメーカー謹製サウンドだ。
選べるV10はわずか
振り返ってみれば、ノーマル車両でも音にこだわりはじめたのは21世紀になってからのことだった。アストンマーティンやマセラティといった上品系ハイエンドブランドが“音作り”に積極的な取り組みをみせた。これを受け、イタリアンなスーパーカーブランドやジャーマンな高性能ブランドも音作りに精を出しはじめる。排気音だけじゃない。「バッバッバッバババーッ」と燃料垂れ流しの擬似バックファイヤ音も登場する。
そんな中から今もう一度聴きながら乗ってみたい“グッサウンカー”といえば、個人的にはまずBMW M謹製「S85」5.0リッターV10エンジンを積んだM6(もしくは渋くM5)を挙げたい。グッサウンV10といえば他にもレクサスLFAの4.8リッター(狭角72度の理想系)やポルシェ カレラGTの5.7リッター(68度)が思いつくけれど、どちらも限定モデルで、今では価値もうなぎ上り。前者は1億、後者は2億と言われ、おいそれとは手が出ない。そのぶん、音はホント素晴らしいけれど。
もうひとつ、アウディとランボの5.2リッターV10(90度)があって、共に現在も生産中だ(そろそろ終わるけど)。でもサウンド的にはなぜかイマイチ。5気筒サウンドが支配している。
さらにもう一台、市販モデルでV10搭載というとダッジ ヴァイパーの存在を忘れてはいけない。ロードカーとして初めてV10を積んだヴァイパー。けれども筆者の記憶にあるヴァイパーサウンドは、どこまでもアメリカンだった。同じく8.3リッターエンジンを積んだラムSRT10も同様だ。
肝はゲトラグ製SMGⅢ
実際のところV10エンジンを積んだロードカーはこれしかなく、しかもラウドでグッドなノートにこだわるとベラボーにお高い限定モデルばかりになってしまう。そんな中、BMW MのV10搭載モデル、E60型M5かM6であれば500万円以下で手に入るのだ!
中古車サイトで検索してみると、数は少なくなったとはいえ、距離の少ないM5やM6が見つかって、今すぐ見に行っておきたい気分になる。中でもボディカラーがブラウン、室内ホワイトのM5やボディがブルーで室内ホワイトのM6カブリオレが、共に低走行距離ながら乗り出し500万円以下で買えると知って、余裕があれば2台セットで欲しいと妄想した。カブリオレであのV10シャワーを浴びるって、良いなぁ。
いずれもシングルクラッチ、つまりゲトラグ製SMGⅢを組み合わせたモデルゆえ、クラッチ本体のコンディションが最も重要だ。とはいえ、過度に恐れることはない。SMG本体の交換となると確かに三桁万円の出費を覚悟することになるが、クラッチのみなら安い。フライホイールまで交換しても三桁には届かない。
V10に乗れる最後の時代?
シングルクラッチの場合、使い方や環境次第で寿命が変わる。10万km持つ個体もあれば、8000kmでダメにした個体もあった。基本の仕組みはマニュアルトランスミッションだから、いかにギアチェンジをスムーズに行い、半クラ操作を減らすかがポイントになる。上手い人が乗っていたSMGなら問題ないと思う。
1990年代からF1イメージで盛り上がったV10。2000年に統一された結果、トヨタやBMWといった参戦ブランドが、そのイメージをロードカーに活用すべくV10エンジンを開発した。その後2006年にF1がV8へと変わると、自然とV10を積むブランドは無くなっていく。おそらく、今後、V10をわざわざロードカー用に復活させるブランドはないだろう。以上が今、M5やM6のV10をオススメする理由である。バングル・デザインというもうひとつのユニークな魅力をあえて除いたとしても!