歴史から紐解くブランドの本質【ランドローバー編】

世界でも稀な4WD専門メーカー「ランドローバー」の運命を変えた1台【歴史に見るブランドの本質 Vol.28】

ランドローバーのプリプロダクション シリーズ1のアッセンブリライン。
ランドローバーのプリプロダクション シリーズ1のアッセンブリライン。
自動車メーカーは単に商品を売るだけではなく、その歴史やブランドをクルマに載せて売っている。しかし、イメージを確固たるものにする道のりは決して容易ではない。本連載では各メーカーの歴史から、そのブランドを考察する。

王室御用達による高いステータス

1948年型のランドローバー プリプロダクション シリーズ1の第1号車。

ランドローバーは1948年にローバー社が発売したモデルである。従ってランドローバーは当初は車名であって、メーカー名ではなかった。ローバーは1901年に自動車の製造を開始したが、戦前は経営が苦しい状態が続いていた。第二次世界大戦中は航空機用エンジンの製造を行っていたが、戦後の1947年、自動車の生産を復活させる。車体は戦前型のままだったが、エンジンを新開発し、4気筒版をローバー60、6気筒版はローバー75という名で発売した。

第二次世界大戦中のジープの活躍に注目していたエンジニアのモーリス・ウィルクスは1947年にジープのシャーシを使ったプロトタイプを製作し、なんと翌1948年にローバー60のパワートレインを活用したランドローバーの発売に漕ぎ着ける。初期のランドローバーは余っていた軍用機の内装用塗料を使ったためほとんどがライトグリーンだったと言われている。

ランドローバーは初期のジープとは異なりドアを備え、金属製のルーフを選択することもできた。箱形ラダーフレームによる強固な構造を持ち、終戦直後の鉄不足のためボディはアルミで作られたため、ボディの錆の問題がなく耐久性にも優れていた。ランドローバーはヒット作となり、1950年代から1970年代までローバー社の最量販モデルであり続けた。また1951年にはイギリス王室御用達となり、ステータス性も高まった。

ランドローバー社として独立

1970年にデビューしたレンジローバー。ランドローバーがその地位を不動にしたきっかけだ。

1955年には金属製ステーションワゴン(3ドア版と5ドア版があった)が登場し、人気モデルとなる。1958年にはシリーズ2に進化し、スタイリングは若干モダンになったが基本的な特性は踏襲された。その後改良を加えつつ1971年にはシリーズ3に進化するが、見た目と基本構成はほとんど変わらなかった。このモデルは1983年に大幅改良を加えられた後2016年まで作り続けられた。

ランドローバーは高い人気を長年にわたり保ち続けていたが、富裕層からはランドローバーの特性を維持しつつより快適性の高いモデルを望む声が高まっていった。その回答が1970年にデビューしたレンジローバーである。レンジローバーは箱形ラダーフレームを踏襲しながらフルタイム4WDシステムを備え、ランドローバーのリーフスプリングに対してコイルスプリングを採用、優れた走破性と快適性を併せ持っていた。この特性は多くの富裕層の支持を得て、その後レンジローバーは豪華高級化の道を進むことになる。

ローバー社は1967年にレイランド社に買収され、ブリティッシュ・レイランドの傘下となる。しかしその後ローバーの乗用車部門はトライアンフと統合され、ランドローバー部門はランドローバー社として独立することとなった。

車名がブランド名に

1985年型ランドローバー シリーズ3ステーションワゴン5ドア。驚くべきことにこのままの姿で2016年まで生産された。

1989年、レンジローバーをベースとした普及版としてディスカバリーが登場し、ラインアップが拡充するとブランド名と車名の関係を整理するため、オリジナルのランドローバーは1990年からディフェンダーという名を付けるようになった。ランドローバーをブランド名とし、レンジローバー、ディスカバリー、ディフェンダーという今につながる車種ラインアップ構造はこの時完成したのである。

世界的なヒット作となったEタイプ。最高速240km/hを誇る超高性能でありながら、比較的低価格で販売された。

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著者プロフィール

山崎 明 近影

山崎 明

1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。1989年スイスIMD MBA修了。…