まもなく生産終了のW12エンジンをベントレー フライングスパーで堪能

「まもなく生産終了」W型12気筒ツインターボをベントレー フライングスパーで味わい尽くす

フライングスパー・スピードが搭載するのは、635PSと900Nmを発揮する6.0リッターW12ツインターボ。来年春で生産終了することが発表されている。
フライングスパー・スピードが搭載するのは、635PSと900Nmを発揮する6.0リッターW12ツインターボ。来年春で生産終了することが発表されている。
伝統のクラフトマンシップと最新のテクノロジーを融合した、新たなラグジュアリーを見せてくれるベントレー。その象徴であるW型12気筒は、まもなく生産を終える。フライングスパーで12気筒の最後を味わいながら、英国、そしてベントレーの世界を考える。(GENROQ 2023年9月号より転載・再構成)

Bentley Flying Spur Speed

皆が思うよりもずっと“軽快”なフラッグシップ

コンチネンタルGT同様、VWグループのMSBプラットフォームを採用したフライングスパー。従来型に比べてホイールベースが130mm延長されたが、一方で全長は30mmしか伸びていない。

モダンクラシックなどと言葉にすると何だかありふれたファッション用語のようで軽い感じがするが、ベントレーの依然として細身のリムを持つステアリングホイールを握ると、伝統と現代的機能装備の融合とはまさにこういうものではないか、と感心する。

手触りは硬質だが、レザーはしっとり滑らかに指に吸い付くようで、巨大なサルーンを操る操縦桿としては繊細にすぎると感じる人がいるかもしれないが、それと調和するように軽やかに滑らかに走るのが現代のベントレーの特徴であり、それは6.0リッターW12ツインターボという超弩級エンジンを積んで昨年秋に追加されたこのフライングスパー・スピードでも変わりない。全長5.3m、車重2.5t余りの大型サルーンを軽やかと評するのは、いくら何でも大げさだろうと疑問に思う向きもあるだろうが、2020年で生産中止となったミュルサンヌに代わってベントレーのフラッグシップサルーンを名乗るフライングスパーは、実際に皆が思うよりもずっと“軽快”なのである。

「コンチネンタル」が付いた復活初代から数えて3代目のフライングスパーは、コンチネンタルGT同様、VWグループのプレミアム後輪駆動用MSBプラットフォームを採用している。特徴は従来型に比べてホイールベースが130mm延長されていることだが、一方で全長は30mmしか伸びていない。要するに伸びた分のほとんどはフロントアクスルを前方に移動したことによるものだ。おかげでいかにも後輪駆動車らしい(もちろん実際には4WDだが)ショートオーバーハングに加え、コンパクトで上下に薄いキャビン部分(言うまでもなく相対的なもので室内が窮屈なわけはない)と巨大なホイールが相まって、威風堂々かつ現代的でクールなプロポーションを生み出している。

来春生産終了するW型12気筒エンジン

それに加えて新型は後輪駆動優先の新たな4WDシステムを採用したほか、48V電源のベントレー・ダイナミックライド(アンチロールシステム)や後輪操舵、電子制御デフ、および各輪に3個のチャンバーを備えるエアサスペンション(したがってスプリングレートも可変)+電子制御可変ダンパーなどの最新メカニズムを満載している。

VW由来のW12ツインターボは3代目でポート噴射に加えて筒内への直噴も併せ持つデュアルインジェクションを採用、635PSと900Nmにパワーアップされ、同時に軽負荷時に半分の6気筒を休止するシステムやアイドリングストップ、コースティング機能など燃費向上策が盛り込まれている。

新たに採用された8段DCTは、初期のコンチネンタルGTでは微速で稀にシフトショックを感じさせることもあったが、フライングスパーのマナーは模範的でわずかな加減速時もきわめて滑らか、踏めばもちろん電光石火の変速で怒涛の加速を見せる。0-100km/h加速は3.9秒、最高速は333km/hに達するという。静々と滑るように歩む街中から300km/hオーバーまでを、W12は一糸乱れぬ洗練された振る舞いでカバーする。スピードが出るだけでは高性能車ではない。今も昔も高性能車ほどゆっくりと滑らかに走るのが得意でなければ、ラグジュアリーカーを名乗ることはできない。

今やV8もV6ハイブリッドも用意されているとはいえ、大きな機械が回る濃密で緻密な息遣いはこのユニークな12気筒エンジンならではのものがある。大波が押し寄せるような重厚な滑らかさを感じさせるこのW12は、20年以上にわたって累計10万基以上が生産されたというが、ついにというかやはりというか、来年春で生産終了することが発表されている。最後はベントレーに積まれて幕を下ろすことになることも、生みの親たるフェルディナンド・ピエヒは見通していたのだろうか。

街中から300km/hオーバーまでを

乗り心地は路面を問わず快適で、もちろんスピードが増せば見事なフラットライドに変わり、万全のスタビリティを発揮する。街中などの低速でも当たりが滑らかで、滑空しているような浮遊感がある一方で、速度が増してもヒタヒタと路面に張り付くような安定感と重厚感もある。ダンパーだけでなくエアボリュームも可変制御する3チャンバー式エアサスペンションの面目躍如である。

それゆえスポーツ/B(ベントレー、これがデフォルトモード)/コンフォート/カスタムと4種類用意されているドライブモードセレクターには事実上触る必要がない。オートモードたるBモードに入れっぱなしにしたままで、高速道路でも山道でもまったく不足はないし、コースティング機能も積極的に作動する。これならどこまでも遠く、速く、安心して快適に走れる。そう感じさせるクルマこそ真のグランドツアラーである。

REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/藤井元輔(Motosuke FUJII)
MAGAZINE/GENROQ 2023年9月号

SPECIFICATIONS

ベントレー・フライングスパー・スピード

ボディサイズ:全長5316 全幅1990 全高1438mm
ホイールベース:3194mm
車両重量:2437kg
エンジン:W型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5950cc
最高出力:467kW(635PS)/6000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1500-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR22 後315/30ZR22
0-100km/h加速:3.8秒
巡航最高速度:333km/h
車両本体価格:3286万8000円

【問い合わせ】
ベントレーコール
TEL 0120-97-7797
https://www.bentleymotors.jp/

ベンテイガ、フライングスパー、コンチネンタルGT、コンチネンタルGT コンバーチブルの4モデルに、各120台限定で製造される「スピード エディション12」。

ベントレーのW12エンジンのフィナーレを飾る「スピード エディション12」が4モデル各120台限定で登場

2003年以来、フラッグシップモデルとしてベントレーを支えてきたW12エンジンを記念し、限定モデルの「スピード エディション12(SPEED EDITION 12)」が登場した。現代で最も成功した12気筒エンジンを搭載した120台の限定仕様は、「W12エンジンの最後を飾るに相応しいモデル」とベントレーは胸を張る。

ベントレーのハイパフォーマンス仕様に搭載されてきた6.0リッターW型12気筒ガソリンエンジンが、いよいよその使命を終えることになった。

「現代ベントレーの象徴」6.0リッターW型12気筒ガソリンエンジンが2024年4月に生産終了

2023年2月22日、ベントレーモーターズは6.0リッターW型12気筒ガソリンターボエンジンの生産を、2024年4月をもって終了すると発表した。生産終了時点で、英国・クルーの本社工場におけるアイコニックなW12エンジンの生産機数は、10万台を超える予定だ。ベントレーは、W12エンジンの生産終了をドラマチックに見送るプランも計画している。

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著者プロフィール

高平高輝 近影

高平高輝

大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させてい…