「アストンマーティン DBX 707」で富士スピードウェイを走る

アストンマーティンの誇るハイパフォーマンスSUV「DBX 707」で最高速300km/h超に挑戦

DBXをさらに強化した史上最強のSUVを謳うDBX707。多少全高が高くてもアストンマーティンが持つスポーツカーの血統は揺るがない。
DBXをさらに強化した史上最強のSUVを謳うDBX707。多少全高が高くてもアストンマーティンが持つスポーツカーの血統は揺るがない。
SUVでありながら最高速300km/hを超えるDBX707。アストンマーティン初のSUVだが、圧倒的な707PSを発揮する。そんなモンスターをフルに試せるのはサーキットだけだろう。スーパーSUVを真夏の富士スピードウェイで堪能した。(GENROQ 2023年10月号より転載・再構成)

Aston Martin DBX707
on Track

SUVをサーキットで試す

DBX707の試乗は真夏の富士スピードウェイという厳しいコンディションで行われた。

先日発表された「アストンマーティン・ヴァラー」は、V12エンジンをフロントに積む超希少スポーツカーだ。希少なのは110台という限定台数もあるが、トランスミッションにあえて新開発の6速MTを選んだことである。アストンマーティンとはそういうブランドなのだ。

DBXはそんなアストンマーティンが造ったSUVだ。多少全高が高くてもスポーツカーの血統は揺るがない。そのDBXをさらに強化した史上最強のSUVを謳うDBX707の試乗会に相応しい場所として用意されたのが、日本の誇る超高速サーキットの富士スピードウェイである。なにしろその最高速は310km/h。それを発揮する場所は限られている。本来、2月に開催される予定だったが、降雪で中止となり半年遅れで開催されることとなった。

DBX707に搭載されるのは、標準の550PS仕様DBXと同じくAMG製4.0リッターV8ツインターボだが、ECUマップ変更や大径ターボのブーストアップ、フロントグリルの開口部拡大などで、最高出力を707PSまで高めた。この強力なV8ツインターボに組み合わされるZF製9速ATは、トルクコンバーターではなくSUVとしては異例の湿式多板クラッチが採用される。ローギヤード化(3.07→3.27)されたギヤ比もあって加速は鋭い。

基本的な性格はRWD

その高性能を受け止めるべくカーボンセラミックブレーキを標準装備し、バネ下重量はDBXと較べてフロント20kg、リヤ13kgも軽量化された。他にもカーボンパーツを多用して軽量化に腐心し、ソフトクローズ・ドアなど快適装備を充実したにも関わらず車重は550PS仕様と同じ2245kgに留めた。

今回の試乗会はインストラクターによる先導走行だ。ピットにはすでに数台のDBX707が並び、発進の時を待っている。さっそくグレーの個体に乗車し、前回の試乗会で習ったDBX707のトリビア、シフトパドルを引きながらスタートスイッチを押して爆音モードでエンジンを始動。センターコンソールのダイヤルを回してスポーツ+モードを選択してピットアウトする。

スポーツ+モードでは車高が15mm低くなり、フロントへの駆動力配分とESPの介入が少なくなる。前後駆動力配分は、550PS仕様が時々0対100になるのに対して、DBX707はテレインモード以外ほとんど0対100だという。基本的な性格はRWDに近いが、路面や運転状況、ドライブモードによって550PS仕様同様に瞬時に47対53に変化し、安定性の高いAWDになる。今回インストラクターを務めていた懇意のレーシングドライバーも言っていたが、じわっと踏むとコーナーの立ち上がりはドリフトが維持しやすい。反面、踏み込むと瞬時にトルクが前輪に配分されるので走り方は工夫が必要だ。

巨大なトルクを活かしてシフトアップ

反時計回りするタコメーターでエンジンの回転を確認すると、レッドゾーンは7000rpmだが6500rpmで自動シフトする。マニュアルモードにして、7000rpmまで引っ張ったが、カチ回すタイプのエンジンではなく、低回転域から発生する巨大なトルクを活かして、どんどんシフトアップした方が気持ちよく走れそうだ。

試乗会ではあいにく最高速が制限されており、それゆえにフルブレーキングも試せなかったが、2245kgの車重を考えればやむを得まい。だから重量を感じたのは低速コーナーぐらいで、Aコーナーやセクター3では意外と2.2tの車重を感じなかった。大柄なボディにしてはロールが少なく、重心が低い印象だ。

インストラクターの乗る550PS仕様の先導車を、直線はもちろんコーナーでもグングン追い上げていく。700万円近い価格差があるが、それでも8割がDBX707を選択しているのも納得だと思ったが、後でピットに戻ってタイヤを確認すると、707が235幅のピレリPゼロを履くのに対して、550PS仕様はオールシーズンタイヤを履いていた……。

重量級SUVには厳しい日本の夏のサーキット

大柄なボディにしてはロールが少なく、重心が低い印象だ。Aコーナーやセクター3では意外と2.2tの車重を感じなかった。

試乗終盤「ポロロン」というリズミカルな電子音と共に「サスペンションエラー」が表示された。出力も絞られ、これ以上は走行できないと判断した。真夏でなく、真冬のサーキットならこのようなことはないだろう。流石に異常気象とも言える今年の日本の夏のサーキットは重量級SUVには厳しかった。

11月には日本でもアストンマーティン110周年を祝うイベントが計画されているという。長い歴史と情熱を持ったスポーツカーブランドの血統はいつまでも続いてほしい。

REPORT/吉岡卓朗(Takuro YOSHIOKA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)、AstonMartin
MAGAZINE/GENROQ 2023年10月号

SPECIFICATIONS

アストンマーティンDBX707

ボディサイズ:全長5039 全幅1998 全高1680mm
ホイールベース:3060mm
車両重量:2245kg(DIN)
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:520kW(707PS)/6000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/2750-4500rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後カーボンセラミック・ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/40YR22 後325/35YR22
最高速度:310km/h
0-100km/h加速:3.3秒
車両本体価格:3119万円

【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL 03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja

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著者プロフィール

吉岡卓朗 近影

吉岡卓朗

大学卒業後、損害保険会社に就職するも学生時代から好きだったクルマのメディアに関わりたいと、1999年に…