ヴァイザッハ開発センターに保管されるパイプだらけの「ポルシェ 928」とは?

異形の「ポルシェ 928」が静粛性テスト車両に選ばれた理由とは?「944はパワー不足?」「911はうるさ過ぎ?」

様々な機器やコンポーネントがボディに装着された、ポルシェ 928騒音テスト車両。
様々な機器やコンポーネントがボディに装着された、ポルシェ 928騒音テスト車両。
まるで『マッドマックス』に登場する改造車両か、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンのような「ポルシェ 928」。このパイプが張り巡らされた928は騒音試験用に製作され、長くポルシェにおいて様々なテストで使用された。

Porsche 928 noise test vehicle

928がテスト車両に選ばれた理由

パイプが張り巡らされたポルシェ 928は、ヴァイザッハにおいて長年騒音テストに使用され続けてきた。928がテスト車両に選ばれ理由を、テストに従事してきたハラルド・マンが明かしてくれた。
パイプが張り巡らされたポルシェ 928は、ヴァイザッハにおいて長年騒音テストに使用され続けてきた。928がテスト車両に選ばれ理由を、テストに従事してきたハラルド・マンが明かしてくれた。

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様々な機器やコンポーネントがボディに装着された、ポルシェ 928騒音テスト車両。

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パイプが張り巡らされたポルシェ 928は、ヴァイザッハにおいて長年騒音テストに使用され続けてきた。928がテスト車両に選ばれ理由を、テストに従事してきたハラルド・マンが明かしてくれた。

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様々な機器が搭載された、ポルシェ 928騒音テスト車両の室内。

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様々な機器が搭載された、ポルシェ 928騒音テスト車両の室内。

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様々な機器が搭載された、ポルシェ 928騒音テスト車両の室内。

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様々な機器が搭載された、ポルシェ 928騒音テスト車両の室内。

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騒音テスト用に製造されたこの928の心臓部には、928 GTS用に開発された5.4リッターV型8気筒自然吸気エンジンの初期仕様が搭載されている。

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騒音テスト用に製造されたこの928の心臓部には、928 GTS用に開発された5.4リッターV型8気筒自然吸気エンジンの初期仕様が搭載されている。

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様々な機器やコンポーネントがボディに装着された、ポルシェ 928騒音テスト車両。

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モータリゼーションが爆発的に増加した1980年代終盤、自動車による騒音は大きな問題になっており、国による規制も厳しさを増すことが予想されていた。

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1989年にテスト車両として導入された928は、騒音を発する要因を個別に測定できるよう、製造された。

ポルシェのヴァイザッハ開発センターの従業員で、シルバーのポルシェ 928に出会っていない者はいないだろう。エレガントなボディには、多くの追加パーツやパイプが装着され、そのエクステリアは非常にユニーク……いや醜いとさえ言える。現在、ポルシェミュージアムに展示されているこの928は、30年以上もの期間、自動車の静粛性向上に貢献してきた。

長くポルシェにおいてテストを担当してきたハラルド・マンは「まさに恐竜です。しかも、現在でもこのクルマはテストに使用することができるのです」と、笑う。

928を使ったテストは 騒音規制遵守 のために行われた。ドイツにおける騒音・排出規制をクリアするために 「ドライブ中の外部騒音関連パラメータ 」などを測定している。当時、928が選ばれ、そして長い期間使用されたのは、偶然のように見えるかもしれない。しかし、そうではなかった。

「エンジンがフロントにあるかリヤにあるか、車内スペースがどれだけあるかは関係ありません。テストでは主に、低回転域における大きなパワーが要求されました。そのため『924』を使うことは不可能でしたし、低負荷時にギヤボックスからガタつきが発生する『944』も問題外でした。そして、空冷の『911』はうるさ過ぎたのです」とマンは指摘する。

80年終盤に厳しさを増した騒音規制

様々な機器やコンポーネントがボディに装着された、ポルシェ 928騒音テスト車両。
モータリゼーションが爆発的に増加した1980年代終盤、自動車による騒音は大きな問題になっており、国による規制も厳しさを増すことが予想されていた。

メカニックの訓練を受けたマンはポルシェで40年間勤務し、そのうち30年以上は、ヴァイザッハのテストベンチで働いていた。そのほとんどの時間を車両音響テストチームで過ごしている。彼にとって、騒音規制に適合する車両に関する問題は複雑だがエキサイティングであり続けた。

エンジンやギヤボックスからの機械音、タイヤからのロードノイズ、吸排気音など、様々な音源が総合的な騒音となる。しかし、公道を走行するには、ある値を絶対に超えてはならない。1980年代の終わりには、50km/hの加速時における騒音制限値は「75dB」。しかし将来的に「68 dB」へと引き下げられることが予測されていた。

これは特に高速走行用に設計された幅広タイヤを装着するスポーツカーにとって大きなハードルだった。「あのような幅広タイヤは、激しいロードノイズを発生するのです」と、マンは指摘する。

「エンジンとタイヤから発生するノイズは、騒音に関して大きな要因となります。私たちは様々な要因を複合的に計算しなけれなりません。例えば、エンジンとギヤボックスが静かであれば、エキゾーストノートを少し大きくすることができるでしょう。タイヤからのロードノイズが大きすぎるなら、吸気音を静かにする必要があるという訳です」

騒音の原因を個別に測定可能

様々な機器やコンポーネントがボディに装着された、ポルシェ 928騒音テスト車両。
1989年にテスト車両として導入された928は、騒音を発する要因を個別に測定できるよう、製造された。

シルバーのボディカラー、ワインレッドのマルチカラーインテリア、マニュアルミッションを搭載した、この928は、テスト車両として1989年に導入された。当初は様々なタイヤの騒音レベルを測定するたに製造され、おそらく世界で最も静かな928となった。

パイプやパーツが外部に露出したのは、エンジンとパワートレイン、そして吸気音と排気音の騒音源を分離し、最小限に抑えるためだ。928のボディを文字どおり綿毛で包んだのである。エンジニアはラジエターをバンパー前に装着。轟音を発する冷却ファンは取り外され、吸気サイレンサーは大きなバレル内に収められた。

吸気サイレンサーは、エンジンコンパートメントのパワートレインへとパイプで繋げられ、V型8気筒32バルブ自然吸気ユニットは完全に密閉された。ボンネットのスクープに収められた2基のファンは、スイッチひとつで起動。エキゾーストシステムはリヤのハッチゲートに特大のサイレンサーを装着し、そこからハンドメイドで溶接された2本のエキゾーストパイプを通って後方に向けて排気ガスが放出される。

928 GTS用5.4リッターV型8気筒を搭載

騒音テスト用に製造されたこの928の心臓部には、928 GTS用に開発された5.4リッターV型8気筒自然吸気エンジンの初期仕様が搭載されている。
騒音テスト用に製造されたこの928の心臓部には、928 GTS用に開発された5.4リッターV型8気筒自然吸気エンジンの初期仕様が搭載されている。

ヴァイザッハのスキッドパッドは当初、騒音測定用のテストコースとして使用されたが、様々な検証を続けた結果、サーフェイスが変更されることになった。ロードノイズの変化を排除するため、標準的なアスファルトを敷き詰めた「外部騒音測定トラック」が設置されたのだ。一定の条件下で測定が行われるようになり、スリックタイヤの場合、63dBという極めて低い値が得られたとマンは振り返る。

また、ピレリがロードノイズのテストのために、この928をレンタルすることもあったという。やや素朴な形状のリヤホイールアーチエクステンションは、このテスト車両が時代に合わせて大型タイヤとホイールを装着できるよう、改造されたことを示している。さらに、この928には特別な秘密が隠されていた。

「928 GTSは、1990年代の初めにはすでに開発が進められていました。高回転域でのパフォーマンスアップを果たし、ビッグトルクを誇る5.4リッターV型8気筒を搭載する最強モデルです。この928には、5.4リッターV8エンジンの初期仕様が搭載されています。余った開発用エンジンを騒音テスト車に搭載したという訳ですね」

この異形の928は、ワンオフ仕様の5.4リッターV型8気筒自然吸気エンジンを搭載している。つまり、見た目だけでなく、中身も特別なのだ。

1980年代、初めてPDKが搭載され、テストされたポルシェ 944 ターボ。

一世を風靡した「PDK」その歴史の深層とは? 執念の技術が結実した「素早いギヤチェンジへの飽くなき追求」の背後に、やはりあのエンジニアがいた

今から約40年前、エンジニアのライナー・ヴュースト(Rainer Wüst)はポルシェのデュアルクラッチ・トランスミッション(PDK:Porsche doppelkupplung)の開発に携わった。この先駆的なプロジェクトは時を経て、ポルシェの歴史に名を残す偉大なテクノロジーとして結実した。

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ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…