全身カーボンの「ポルシェ 911」その誕生の秘密に迫る

「驚きの職人技」フルカーボンボディの「ポルシェ 911 SC」が証明した「4LAWS」のクラフトマンシップ

全身くまなくカーボンに置き換えられて、異彩を放つナローポルシェが夕暮れの街を疾走する。これは決して突然変異的に生まれたものではない。確固たる技術力を持つ製造企業とあらゆる職人技を、4LAWSがプロデュースしてひとつに紡ぎあげたものだ。
全身くまなくカーボンに置き換えられて、異彩を放つナローポルシェが夕暮れの街を疾走する。これは決して突然変異的に生まれたものではない。確固たる技術力を持つ製造企業とあらゆる職人技を、4LAWSがプロデュースしてひとつに紡ぎあげたものだ。
全身くまなくカーボンに置き換えられて、異彩を放つナローポルシェが夕暮れの街を疾走する。これは決して突然変異的に生まれたものではない。確固たる技術力を持つ製造企業とあらゆる職人技を、4LAWSがプロデュースしてひとつに紡ぎあげたものだ。(GENROQ 2024年8月号より転載・再構成)

4LAWS Based on PORSCHE 911 SC

スチールボディをすべて剥がし、カーボンに置き換える

全身くまなくカーボンに置き換えられて、異彩を放つナローポルシェが夕暮れの街を疾走する。これは決して突然変異的に生まれたものではない。確固たる技術力を持つ製造企業とあらゆる職人技を、4LAWSがプロデュースしてひとつに紡ぎあげたものだ。
カーボンボディの迫力は凄まじい。ナローボディに見えるが、ベースは1981年式の911SC。

都心の夕暮れどき。陽の光がベールに包まれていき、同時に街の灯が灯り始めるトワイライトタイムに現れた1台のナローポルシェは、その空気を切り裂くようなオーラをたたえていた。ミントコンディションであることは言うまでもないが、その肉体がすべてカーボンであることに驚く。世界中に空冷ポルシェのレストモッドは多々あれど、全身カーボンでここまでのクオリティを出しているものは稀有だと思う。

これはメイド・イン・ジャパンの技術によって仕上げられたものだという。TCW(トーキョーカスタムワークス)が手がける4LAWSというプロジェクトだ。その内容は「空冷ポルシェ911をベースにボディパーツをほぼすべてカーボンに置き換える」というもの。数年前からそのプロジェクトが始まったが、その象徴となるコンプリートカーが今ここに完成した。

その表情はナローだが、ベースとなったのは1981年式の911SCだ。スチールボディをすべて剥がして、ボディ全体をカーボンへと換装した。ヘッドライトはオリジナルで、灯火類やモールなどはすべてナロー時代の表情へと見違えさせた。リヤフェンダーは4LAWSオリジナルのもので、足まわりは930ターボ用純正部品を持ち込む。

この究極的な姿カタチはインテリアにも通じる。ダッシュボードやクォーターパネルなど細部に至るまでカーボンに置き換え、なおかつ内装はグレージュ・アルカンターラに張り替えている。同じくカーボンのシェルを持ち、グレージュ合皮で覆われるブリッド・ヒストリックスシートと相まってスポーツムード満点だが、そこにはどこか高級感も宿る。

こうした内外装のカーボン化は、964型までの空冷911ならあらゆる年式に対応できるという。レストアついでに持ち込んでもいいし、車両探しからサポートしてくれるそうだ。4LAWSのプログラムはメイド・イン・ジャパンの技術を駆使したカーボンボディおよびその仕上げだが、母体となるTCWの手がける事業は多岐にわたり、また豊富なネットワークを活かして、あらゆる相談に乗ってくれる。

エンジンはMoTeCで350PSオーバー

911SCに搭載される空冷水平対向6気筒は、メンテナンスガレージ・シンリュウによってチューニングを施した。ピストンとシリンダーを交換することで3.4リッター化。ハイカムや6連スロットル、シンリュウオリジナルのエキマニ、エキゾーストシステムなどを組み込む。制御するのはMoTeC M800だ。最高出力は350PS以上を発揮する。
911SCに搭載される空冷水平対向6気筒は、メンテナンスガレージ・シンリュウによってチューニングを施した。ピストンとシリンダーを交換することで3.4リッター化。ハイカムや6連スロットル、シンリュウオリジナルのエキマニ、エキゾーストシステムなどを組み込む。制御するのはMoTeC M800だ。最高出力は350PS以上を発揮する。

その一例として、このデモカーは特別にエンジンチューニングを施していた。911SCの3.0リッターエンジンを基に、ポルシェスペシャリストとして名高いメンテナンスガレージ・シンリュウが手を加えた。ピストン、シリンダーを変更することで3.4リッター化して、そこにハイカム、6連スロットルなどを組み込む。吸排気系もシンリュウのオリジナルだ。このスペシャルユニットをMoTeC(モーテック)で制御することで最高出力は350PSオーバーへ。取材日はまだナラシ中ということだったが、カーボンボディ化によって250kg以上も軽量化を果たしたというボディに対しては、相当にパワフルなのは間違いない。

4LAWSを運営するTCWの取締役、宮崎洋彰氏は「メイド・イン・ジャパンの技術をもっと世に訴えたい」と訴える。その象徴たるカーボン製作の現場をここに公開してくれた。艶やかさがありながらも一糸乱れぬ織目を持つカーボンボディパーツを生産しているのは、TCWの協力関係にあるコダマファイバーワークスというカーボンおよびFRPの生産工場である。同社の高い技術力は、自動車業界を飛び越えて広く認められており、あらゆる工業製品はおろか道路の補修など社会的インフラにも使われるほどだ。

そんなコダマファイバーワークスが、現在、推進しているインフュージョン成型のカーボンが、この個体に使われている。これはドライ、ウェットと括られるような既存のカーボン成型製法とは一線を画したもの。業界ではVaRTM工法とも呼ばれる。炭素繊維自体はウェットカーボンと同じながら、それを型に敷き詰めたあと樹脂を流しながら真空ポンプで真空引きするところがポイントだ。その後、24時間ほどの時間をかけて自然硬化させたあとに、1時間ほど熱を入れて完成となる。

インフュージョン成型は、最近になってようやく耳にするようになってきたが、こと自動車用部品の業界ではコダマファイバーワークスが先駆けとなった。最初は失敗の連続だったという。しかし、素材の取り扱いかた、工法や設備など試行錯誤を経て、安定的に生産することが可能となった。7年ほど前に原料メーカーが実用化させたCBZ樹脂の導入などトピックも多々ある。

ドライカーボンと変わらぬ強度を持つインフュージョン成型

コダマファイバーワークスの代表を務める児玉 郷氏。インフュージョン成型を確立した第一人者のひとりであり、いち早くそれを自動車用へと持ち込んだ。写真のC6コルベットはそのインフュージョン成型の開発を兼ねて製作したもので、彼の愛車でもある。
コダマファイバーワークスの代表を務める児玉 郷氏。インフュージョン成型を確立した第一人者のひとりであり、いち早くそれを自動車用へと持ち込んだ。写真のC6コルベットはそのインフュージョン成型の開発を兼ねて製作したもので、彼の愛車でもある。

コダマファイバーワークスのインフュージョン成型で作ったカーボンパーツは、ドライカーボンと変わらぬ強度を実現するばかりか、表面にゲルコートを入れることができるので、過度にクリア塗装に頼らなくても光沢のあるカーボンとなる。他にも紫外線に対する耐腐食性に優れるなどの利点は数限りない。

利点はその美しさと軽量性能だけではない。空冷ポルシェ911は、ボディの外板パネルを構造体として機能させている。そこに強度があれば、ボディ剛性アップにも貢献する。もちろん相応の強度や剛性を求めるためには、カーボン繊維を積層させてある程度の厚みを持たせなければならないが、それでも重量増加は最小限に抑えられる。この4LAWSのボディパーツは、ストリートで使うことを前提とした耐久信頼性を持たせるために1.6mm近くの厚みを持たせた。社会的インフラを始め強度試験を絶対とする製品をつくり続けてきたがゆえの回答である。

まさに空冷ポルシェの性能と世界観をリスペクトし、それをメイド・イン・ジャパンが誇る最先端の技術と職人技とを融合させて仕上げる究極のカーボンポルシェだ。TCWの「ポルシェ・カーボンボディ事業」は東京都中小企業振興公社によって、その可能性を認められている。この孤高のメイド・イン・ジャパンは、あらゆるポルシェ好きを巻き込んで、今、世界へと羽ばたこうとしている。

REPORT/中三川大地(Daichi NAKAMIGAWA)
PHOTO/山本佳吾(Keigo YAMAMOTO)、白谷 賢(Ken SHIRATANI)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 8月号

【問い合わせ】
TOKYO CUSTOM WORKS(4LAWS)
https://tokyocustomworks.com

【取材協力】
コダマファイバーワークス
TEL 078-969-2755

メンテナンスガレージシンリュウ
TEL 044-455-6371

VOLK RACINGの中で最も代表格として知られるTE37。

サーキット走行にも対応する人気ホイール「レイズ TE37」はポルシェとのマッチングも予想以上

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