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Alpine A290
A110という単一車種ブランドからの脱皮
6月のル・マン24時間を機会に発表された、アルピーヌのフル電動ハッチバック「A290」は、コンセプトカー「A290_β」で披露していたエクステリア・デザインをほぼ踏襲していた。思えば現行「A110」の初期プロトタイプで、まだ灯火類の入っていなかった「セレブレーション」も創立60周年の節目となる2015年ル・マン24時間で発表された。
結局A110の市販版は、翌2016年のアルピーヌ・ヴィジョンを挟み、ようやく2017年ジュネーブ・サロンで登場した訳だが、今回A290をル・マンでお披露目したのも、耐久やラリーなどモータースポーツの場にルーツを見出すスポーツカーブランドとして、歴史的な帰結といえる。
ただしA290はアルピーヌが3年前に予告した3モデルの「ドリームガレージ」コンセプトうち第1弾となるBEVホットハッチで、ドライビングプレジャーと同時に日常の使い勝手をかなり意識している。
A110後継となるBEVスポーツカー、ややボリューミーなSUVクロスオーバーGTが第2弾あるいは第3弾として予定されていたが、今回のA290ローンチの取材を通じて、各モデルのプラットフォームがほぼ明らかになり、アルピーヌがA110という単一車種ブランドから脱皮していく未来図がはっきりしてきた。昨年発表した2030年までに7台の電動化スポーツモデルを投入するというマニフェストの一部がコンファームされたといえる。
ライフスタイル系“90”とベルリネット系“10”
まずA290は、先行する「ルノー 5 Eテック」と同じAmpRスモール・プラットフォームを用いるが、前後トレッドは最大限広げられ、ワークショップを担当したエンジニアらは(ロングボードに対してショートホイールベースの)「スケートボード・プラットフォーム」と呼んでいた。アジリティ重視のジオメトリーで、外観上も5 E-テックにはないフェンダーの張り出しや、エアスクープめいたプレスラインがリヤドア上に認められる。
そしてドリームガレージの中で、Cセグメントの“SUVクロスオーバーGT”を担うモデルは、まだウワサの域だが欧州で喧しく報じられているように「A390」と呼ばれる可能性が高い。往年の「5 アルピーヌ」や「シュペール5 GTターボ」にまで遡る実用性の高いホットハッチや、あるいはまったく新たなクロスオーバーGTを、アルピーヌは“ライフスタイル系”と位置づけ、これらにルノーグループの既存プラットフォームを用いると、フィリップ・クリエフCEO自らが明言した。つまりA290などの下2桁が“90”となる系譜と、A110などピュアスポーツの“ベルリネット系”である“10”とに棲み分けていくというのだ。
おそらくA390に用いられる既存プラットフォームとは、欧州でBEV化された現行「ルノー メガーヌ」や「日産アリア」で用いられるCMF-EVプラットフォームだろう。ADASなどの電装機能モジュールは、欧州で発売されたばかりのDセグSUVクーペ「ルノー ラファール」など上位機種と同等か、それ以上のものが備えつけられるはずだ。
アルピーヌの将来ラインナップ7台とは?
一方で、A110というアイコンが2026年以降の後継モデルでBEV化されること、昨年初夏から“アルピーヌ・パフォーマンス・プラットフォーム(APP)”の名の下に、新たなアルミニウムのモジュラープラットフォームが開発中であることは、すでにアナウンスされてきた。そしてA110という2シーターのベルリネットが刷新されるのみならず、2+2バージョンが派生して「A310」となることは、もはや暗黙の了解を超えて既定路線となっている。
このA310が当初のドリームガレージ構想の3台の次に来る4台目だ。だが、2030年までに7台を発表予定としているので、あと3モデル必要だ。その内訳は、まず新しいA110のオープン、つまり「ロードスター版A110」だ。そしてAPPとは別に、アルピーヌはD/Eセグメントの「SUVクロスオーバー」もしくは「SUVクーペ」を考えている。こちらのプラットフォームは伏せられたままだが、ルノーが欧州市場で投入したばかりの「オーストラル」や「ラファール」に用いられるCMF-C/Dアーキテクチャを引き延ばすか、または次世代となる新BEVプラットフォームとするのだろう。しかも2027年以降は、どのモデルか言及されていないものの、アメリカ市場にも進出見込みだという。
アルピーヌのこうした将来ラインナップをひと口に言えば、A110を「ポルシェ 911」のようなアイコンモデルと見立て、「マカン」や「カイエンクーペ」、あるいは「アウディ S5クーペ」に「RS Q3スポーツバック」「RS 3」に近い。これらすべて、ひと回り小さく、BEVもしくは水素内燃機関車として仕立てる方向性である。
SDV化されるアルピーヌ
アルピーヌは、APPプラットフォームはSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)化すると見込まれ、ビークル・ダイナミクスに関するアルゴリズムはA290の世代からすでに特許を取得している。
他にもサウンドエクスペリエンスを高めるため、電動モーターの駆動音をフランスの音響メーカー「ドゥヴィアレ」のオーディオシステムが増幅し、エキゾーストノートめいたサウンドに変換する装置や、アクセルペダルの踏み込み量に応じてトルクレスポンスやアジリティを最適化するシステムが採用されている。
もうひとつ大事な点は、A290がすでにそうだが、搭載されるOBC(オンボードチャージャー)は双方向式でV2G(ビークル・トゥ・グリッド)やV2L(ビークル・トゥ・ロード)、つまり充電のみならず外部給電機能にもアルピーヌのBEVは対応している。初の市販BEVモデルを発表して、単一車種ブランドを脱したところとはいえ、アルピーヌの大いなる野心は始まったばかりなのだ。