BMWのフル電動版「5シリーズ」最強グレード「i5 M60 xドライブ」を都内で試乗

「BMW 5シリーズ」のEV版最強グレード「i5 M60 xドライブ」に乗って性能と充電を試す

都庁地下の駐車場にある急速充電器(90kW)で充電も試した。
都庁地下の駐車場にある急速充電器(90kW)で充電も試した。
8代目となったBMWの主力サルーン「5シリーズ」。そのフル電動版「i5」の最強グレード「i5 M60 xドライブ」に東京近郊で試乗した。「M」で、しかも「60」というグレード名に恥じない凄まじい性能だが、都内を普通に走らせて感じた印象をリポートする。

BMW i5 M60 xDrive

うっかりアクセルを踏み込もうものなら

BMWの8代目主力サルーン「5シリーズ」には、従来同様のエンジン車と「i5」というフル電動車の2種類のパワートレインがある。共通プラットフォームに内燃機関とフル電動車をラインナップするのは2023年に登場した現行モデルからだ。すでにハイパーフォーマンスバージョンの「M5」も発表され、11月からデリバリーされようとしているタイミングだが、遅ればせながら現行型「i5」の電動版の最強グレード「i5 M60 xドライブ」に都内近郊で試乗した。

第一印象は「でかい」。全長5060mm(先代523i比+85mm、以下同)、全幅1900mm(+30mm)、全高1505mm(+25mm)、ホイールベース2995mmの堂々たるボディは、見た目もでかいが運転感覚も大きなクルマを走らせている印象だ。サイドシルを黒くすることで目立たなくしているが、フロアに敷き詰められたバッテリーのため、クルマは見た目分厚い。しかし、駐車場ではリヤステアのおかげか取り回しはいい。最小回転半径は5.8mで、多少狭くても往生することはないだろう。ただし、そもそものサイズがでかいので当然広い駐車スペースは必要だ。

車両重量は2380kgとデカさから想像される以上に重量級だが、さすが「M」を冠するモデルだけあって高速道路で前が開けて、うっかりアクセルを踏み込もうものなら、M60というグレード名に恥じない凄まじい加速を示してくれる。駆動方式は前後輪にモーターを搭載するAWDで、システム最高出力601PS、同最大トルク795Nm(フロント261PS&365Nm、リヤ340PS&430Nm)を誇る。ちなみに欧州仕様のスペックを見ると0-100km/h加速は3.8秒、最高速は230km/hとなっている。

電気感を演出するインテリア

4シリーズ(i4)と同じく開けにくいフラッシュサーフェイスのドアハンドルを引いてドアを開ける。室内は全体的にこれまでに乗ってきたBMWとは雰囲気が違う。初見では驚くだろう最新のインフォメーションディスプレイ(12.3インチ)とコントロールディスプレイ(14.9インチ)で構成されるカーブドディスプレイなど主だったレイアウトなどは同じだが、インテリアの細部が異なるからだろうか。例えばBMWのインフォテインメントを司るiDriveダイヤルや、セレクタレバーが電気感を出すため(?)にキラキラしたガラス製になっている。

ステアリングには左スポークにACC(あるいはリミッター)操作スイッチなどが、右スポークにオーディオやディスプレイの操作スイッチが備わる。右にも左にも+−スイッチがあるが、右がオーディオで左がACCの速度設定。走り始めてすぐにオーディオのボリュームを上げようとして+を何度押しても反応しなかったが、気づけばACCの設定速度がえらい数字になっていた。

フロアに敷き詰められたリチウムイオンバッテリーの電力量は81.2kWhで、スペック上の航続距離は455〜516km。205kW充電なら30分で10%から80%まで充電できるという触れ込みだ。試乗した際には、都心をうろうろ100kmも走って残距離が233kmだった。よほどの遠出をしなければ、電池切れの心配はないだろうが、翌日以降走る内容を吟味して、その出発時間までにその距離を余裕を持ってこなせる充電が必ず完了できる普通充電を確保しておきたい(なんなら急速充電でもいい)。

車両重量2360kg(車検証は2390kg)だが鈍重な感じはない。しかも荒れた路面でのダンピングがよく、乗り心地が抜群にいい。M60にはエンジン車で変速に使うパドルが左のみに備わり、このパドルを引くと10秒間だけブーストが作動する。アクセルのつきがよくなり。素の状態でも速いが、これでさらに速くなる……ということを試したりしたから航続距離が短くなるのだろう。

速度の管理がしやすい電動車

マイモードと呼ばれるドライビングモードでパワートレイン、ステアリング、シャシー、インストゥルメントパネル、擬似エンジンサウンド、ACCの制御などが変わる。モードは7種類あり、「パーソナル」「スポーツ」「エフィシェント」「エクスプレッシブ」「デジタルアート」「リラックス」に「サイレント」と多彩だ。何度も書くが「スポーツ」を選ばずとも十分に速い。

高速道路の渋滞時にで便利なハンズオフ機能付き追従クルーズコントロール(ACC)が抜群にいい。目下最強と思われるメルセデス・ベンツに比肩する高い精度と仕上がり(前走車認識や速度調整)だと感じた。だがACCを使わなくても、前方に車両がいると回生ブレーキが強まり、教習所で習うエンジンブレーキ、しかも強めのエンジンブレーキが効くので、走行中の速度管理はしやすい。回生ブレーキの効きは独自にも設定できるが、このアダプティブ(?)回生ブレーキが便利だった。やはり純粋な内燃機関車よりも電動車の方が、きめ細かに出力を制御でき、速度調整できることを実感した。新型5シリーズにはまだ試乗していないが……。

試乗の終わりに充電も試した。本当は編集部近くのホテルに付随する普通充電(8kW)を一晩試してみたかったが、充電ケーブルがなくて断念。結局、都庁地下の駐車場にある急速充電器(90kW)で充電した。メーター上の最高充電出力は205kWとなっているが、急速充電器が発揮したのは50kWだったので42%から80%まで45分かかった。

こういうインフラの性能(相性?)の担保も、フル電動車の重要な指標であろう。運転感覚は素晴らしくても、そもそもの航続距離がライフスタイルにマッチしていなければ、あるいは充電環境が整っていなければ毎日は乗れない。オーナーになって攻略法を見出せば、また違った景色が見えるかもしれないが、現状ではそう感じた。

SPECIFICATIONS

BMW i5 M60 xDrive

ボディサイズ:全長5060 全幅1900 全高1515mm
ホイールベース:2995mm
車両重量:2380kg
電気モーター:交流同期電動機
最高出力:前192kW(261PS) 後250kW(340PS)
最大トルク:前365Nm(37.2kgm) 後430Nm(43.8kgm)
システム総合最高出力:442kW(601PS)
システム総合最大トルク:795Nm(81.1kgm)
バッテリー:リチウムイオン電池
総電力量:83.9kWh
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前245/40R20(8.5J) 後275/35R20(10J)
車両本体価格:1560万円

【比較試乗】最新「BMW 5シリーズ」はリラックスして乗れる「523i」と怒涛の加速を見せる「i5 M60」でどちらを選ぶ?

BMWがi3とi8を発売したのはもう10年も前のこと。EV専用プラットフォームと異彩を放つデザインで話題となったが、販売的には決して成功したとはいえず、ひっそりと消えていった。そんなBMWはいま、EVとエンジン車を同じ車台の上に構築する。ライバルとは真逆の戦略を貫く、BMWの最新作2台を試した。(GENROQ 2024年1月号より転載・再構成)

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著者プロフィール

吉岡卓朗 近影

吉岡卓朗

Takuro Yoshioka。大学卒業後、損害保険会社に就職するも学生時代から好きだったクルマのメディアに関わり…