意外な乗り味の「アストンマーティン ヴァンキッシュ」に試乗

帰ってきたアストンの“頂上”アイコンは意外な乗り味?「アストンマーティン ヴァンキッシュ」に試乗

カントリーロードに入っても好印象は続く。車幅はもちろんのこと、ノーズの長さもまるで感じさせない。まさに一体感の恩恵だろう。
カントリーロードに入っても好印象は続く。車幅はもちろんのこと、ノーズの長さもまるで感じさせない。まさに一体感の恩恵だろう。
V型12気筒をフロントに搭載するアストンマーティンのフラッグシップモデル、3代目「アストンマーティン ヴァンキッシュ」についに試乗した。優雅なボディにV12を搭載するスーパーラグジュアリースポーツの意外な乗り味を西川淳が速報する。

Aston Martin Vanquish

立場が入れ替わったかのよう

フロントアクスルがしっかりと踏ん張っていて、そのうえ左右の動きの自由度も高い。抜群のハンドリング性能だ。
フロントアクスルがしっかりと踏ん張っていて、そのうえ左右の動きの自由度も高い。抜群のハンドリング性能だ。

「で、比べてみた君の評価を聞かせてくれ」

レナート・ビジニャーニは午前中のセッションを終えて新型ヴァンキッシュから降りたばかりの私を捕まえてそう尋ねてきた。試乗前夜、私は彼としばらく話す機会があり、最近ではマラネッロの12気筒モデルがすごく印象に残っていると伝えたからだった。

彼は名前からも分かるとおりイタリア人でマラネッロの住人(しかもF1)だったこともある。マーケティング&コミュニケーションの専門家で、今はアストンマーティンのダイレクターだ。アストンマーティン・ラゴンダ社における最新の戦略、商品からF1まで、はマラネッロの元住人たちによって作られていると言っても過言ではない。

「どちらかを選ぶのは難しいよ。敢えて言うなら、平日にはドーディチチリンドリを使い、週末のお楽しみにはヴァンキッシュに乗りたいね」。

その答えに彼が納得したのかどうか、分からない。けれども私の第一印象はそうだった。まるで両ブランドの立場が入れ替わったかのような、そんな感想を抱いた。ドーディチ・チリンドリはどこまでも洗練されており、シルキー&スムーズだった。対する新型「ヴァンキッシュ」はいつまでも劇的であり、ゴージャスでワイルドだった。加えて「DBS」や旧「ヴァンキッシュ」といったこれまでのV12+FRアストンとはまるで違うハンドリング性能を持っていた。

最大トルクはなんと1000Nm

いずれにしても最高出力835PSという設定自体、マラネッロの駿馬を意識したスペックであるには違いない。大型のターボチャージャーが2機備わっているため、最大トルクはなんと1000Nmを標榜する。マラネッロ産を300Nm上回った。強大なトルクに耐えうるトランスミッションといえばZF製8速AT。最新の高性能ターボ&ハイブリッドカーに最大トルク1000Nmという数値が多い理由のひとつであろう。

それはともかく。イプシロンブラックの個体でサルディーニャ島を走り回った印象を改めて報告しよう。

この辺りは以前にも走ったことがある。道は割と整備されているほうだが道幅はさほど広くない。800PSオーバーの大柄な、そしてロングノーズのGTクーペにはちょっと辛い舞台になるとしか思えなかった。走り出す前は。

歴代アストン製FRの中でベスト

コスタ・スメラルダをときおり視界に入れつつ、緩やかな上り道を駆け始めて5分もしないうちに、これまでのアストンマーティン製12気筒FRロードカーとはかなり違う印象を持った。骨組みのなかにいるのではなく、筋肉に包まれたかのような一体感があった。NVH性能も断然上がっている。DBSと同様にソリッドなライドフィールだがずっとコンフォートだ。

カントリーロードに入っても好印象は続く。車幅はもちろんのこと、ノーズの長さもまるで感じさせない。まさに一体感の恩恵だろう、細いカーブで大型トラックや大型トラクター(ロータリーがセンターラインをはみ出してくる!)とすれ違う際にも、こちらの走り位置がちゃんとわかっているから、怯むことなくすれ違えた。

ハンドリングの意のまま感も歴代アストン製FRの中では最も好ましい。車体の長さや幅を気にすることなく、望みのラインを正確にトレースできる。感覚そのものはなんなら最新のヴァンテージとも良い勝負だろう。フロントアクスルがしっかりと踏ん張っていて、そのうえ左右の動きの自由度も高い。だからこそ、思い通りに攻め込んでいけるのだった。

日進月歩で進化するリヤの制御

51対49という前後の重量配分に加え、新開発のダンパーシステムやシャシー、ブレーキなどを統合的に制御するシステムの優秀さも特筆したい。コーナリング中の安定度はハイパワーFRとは思えないほど。特に後輪の制動制御が素晴らしかった。この辺りはDB12よりもヴァンテージ、ヴァンテージよりもヴァンキッシュ、と日進月歩だろう。

最も驚かされたのは中間加速だった。追い越し加速であっという間に200km/hに達した。それでいてそこまでの速度感はなく安定している。数字を見てから慌てて右足を緩めたほどだ。最大トルク1000Nmの威力はもちろん“ブースト・リザーブ”という新たな加速準備機能の恩恵であろう。エグゾーストサウンドも相当に勇ましい。音もまたイタリア産を上回ってラブリーだった。

SPECIFICATIONS

アストンマーティン ヴァンキッシュ

ボディサイズ:全長4850 全幅1980 全高1290mm
ホイールベース:2885mm
車両重量(EU):1910kg
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5204cc
最高出力:614kW(835PS)/6500rpm
最大トルク:1000Nm(102kgm)/2500〜5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後カーボンセラミックベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ〈リム幅〉:前275/35ZR21〈9.5J〉 後325/30ZR21〈11.5J〉
最高速度:345km/h
0-100km/h加速:3.3秒
環境性能(EU複合):312g/km

東京・青山でワールドプレミアと同時に公開された新型ヴァンキッシュ。

アストンマーティンの3代目フラッグシップ「ヴァンキッシュ」がデビュー「優雅なボディにお約束のV12」

2代目が生産を終えてから、しばらくラインナップから姿を消していた「ヴァンキッシュ」がついに復活した。さらに優雅なボディにはお約束のV型12気筒を搭載。まさにアストンマーティンのフラッグシップにふさわしいスーパーラグジュアリースポーツである。

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西川 淳