【フェラーリ名鑑】グランドツーリングを担ったフェラーリ製高性能GT、元祖スーパーアメリカ

「進化する高性能GT」でアメリカ市場を席巻(1955-1964)【フェラーリ名鑑:12】

【フェラーリ名鑑】アメリカ市場を狙った「高性能GT」の進化
1957年式フェラーリ 410 スーパーアメリカ シリーズ II クーペ。フェラーリの高級GT路線を代表する1台だ。
フェラーリにとって最大のマーケットだった北米に向け、車名にそのものズバリ「アメリカ」を冠した高級GTシリーズが登場。当時のフェラーリ製ストラダーレモデルの代名詞であるV型12気筒エンジンをフロントに搭載し、華々しいグランドツーリングの一時代を築いた。

「スーパーアメリカ」誕生

1956年式 フェラーリ 410 スーパーアメリカ。スタイリングはピニンファリーナが手掛けた。

1955年のパリ・サロンにフェラーリはボディを持たない1台のモデルを出品した。それを見る者は誰もがそのシャシーには“スーパーアメリカ”のサブネームとともに流麗なボディが組み合わされると期待し、どのような数字が掲げられるのかを予測し語り合った。

結局それは、1956年のブリュッセル・ショーで「410 SA(スーパーアメリカ)」として披露。410 SAにはピニンファリーナのほかに、ギアやスカリエッティ、ボアーノなどによってさまざまなデザインのボディが製作されているが、ブリュッセルのフェラーリ・ブースを華やかに彩ったのは、ピニンファリーナによるモデルだった。ちなみにピニンファリーナは、クーペのほかに後に登場するコンバーチブルと合計して14台の410 SAを製作している。

1956年式フェラーリ 410 スーパーアメリカ カロッツェリア・ギア。410 スーパーアメリカは複数のカロッツェリアがボディデザインに携わっている。

またシリーズIIIでは、鋼管スペースフレームを200mmカットし、ショートホイールベース化を実施。同時に搭載される4963cc仕様のV型12気筒エンジンをツインプラグ化するなどのチューニングを施し、360PSの最高出力と260km/hの最高速度を誇った、より高性能な410 SAをリリースするまでに至っている。

試行錯誤を繰り返すホイールベース長

1960年式フェラーリ 400 スーパーアメリカ SWB カブリオレ。410 スーパーアメリカとは異なり、400 スーパーアメリカはすべてピニンファリーナがデザイン。

1960年になると、410 SAの市場を受け継ぐニューモデルとして「400 SA」が誕生する。生産は1960年から1964年にかけて行われたが、こちらもやはりアメリカのカスタマーの趣味や志向を十分に反映したうえで完成されたモデルだった。また410 SAでは、さまざまなカロッツェリアにボディのデザインや製作を依頼していたが、400 SAはそのすべてがピニンファリーナへと委託された。

オープンモデルを好む北米マーケットに向けて開発。搭載する4.0リッターV12は340PSを発揮した。

フェラーリのエンジニアリング・チームは、当初400 SAのホイールベースを、410 SAでピニンファリーナが2400mmに短縮した実績から同じサイズを試みるが、キャビンの快適性やGTを購入するドライバーの志向性を考えると、2420mmベストな設計ではないかという結論を導き出す。しかし、それでもキャビンスペースはGTとして十分なものではなく、シリーズ後半にはフェラーリが250 GT時代から慣れ親しんだ2600mmが採用されることになった。

フレームは楕円断面をもつスチールパイプを組み合わせる軽量かつ高剛性なもので、サスペンションはフロントがコイルスプリング仕様のダブルウイッシュボーン、リヤが反楕円のリーフスプリングをもつリジッドアクスル式。エンジンは410 SAとは異なり、コロンボの設計によるコンパクトな3967cc仕様のV型12気筒を搭載する。点火システムはシングルコイルとディストリビュータによるもので、ウェーバー製キャブレターとの組み合わせで340PSの最高出力を得た。トランスミッションは4速MTのみの設定で、最高速度は265km/hに達した。

空気の流れを連想させるエアロディナミコ

1962年式フェラーリ 400 スーパーアメリカ Serie I クーペ エアロディナミコ。その名の通り空力性能の向上を計ったモデル。

400 SAには、さまざまな進化形があるが、その中でも注目すべき1台は、最近アメリカのコンクール・イベントでもその姿をよく見るようになった「400 SA クーペ エアロディナミコ」だ。このモデルは、かつてバティスタ・ピニンファリーナの愛車として使われていたもので、あたかも走行中の空気の流れを想像させるかのような美しいデザインが特徴。その斬新なボディワークには一見の価値がある。

集大成とも言える「スーパーファスト」

1964年式フェラーリ 500 スーパーファスト。フェラーリのハイエンドGTモデルが辿り着いた集大成。

1964年になると4962ccという大排気量のV型12気筒エンジンを搭載したスーパーファスト・シリーズの最終進化型、つまりスーパーアメリカ、スーパーファストと続いた高級GT路線の、ひとつの集大成ともいえるモデル「500 スーパーファスト」が発表される。それが正式に発表されたのは1964年のジュネーブ・ショー。500 スーパーファストは、生産途中にはトランスミッションが4速MTから5速MTに変わり、最終的には1967年まで生産が継続された。

まさにフェラーリのGTがひとつの頂点を極めた時代に、その象徴的な存在となった500 スーパーファスト。その後継車となるのは、1967年にデビューする「365 GT 2+2」。そしてこの頃、新たなビッグクーペの開発がマラネロ、そしてピニンファリーナではすでに始まっていたのである・・・。

SPECIFICATIONS

フェラーリ 410 スーパーアメリカ

年式:1956年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:4963cc
最高出力:250kW(340hp)/6000rpm
乾燥重量:1200kg
最高速度:262km/h

フェラーリ 400 スーパーアメリカ

年式:1960年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:3967cc
最高出力:250kW(340hp)/7000rpm
乾燥重量:1250kg(クーペ)
最高速度:265km/h

フェラーリ 500 スーパーファスト

年式:1967年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:4962cc
最高出力:294kW(400hp)/6500rpm
乾燥重量:1400kg
最高速度:280km/h

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

フェラーリ名鑑、2+2モデルヒストリー

「望まれたGT」フェラーリ「2+2」ストーリー(1960-1967)【フェラーリ名鑑:11】

フェラーリのストラダーレ、即ち公道モデルは、レースシーンを彷彿させる2シーターが中心だった。…

キーワードで検索する

著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…