【フェラーリ名鑑】伝説のデイトナ24時間ポディウム独占とディーノの誕生

ル・マン24時間での屈辱、そして「ディーノ」の誕生(1966-1967)【フェラーリ名鑑:10】

フェラーリ名鑑、フェラーリ 330 P4
フェラーリ 330 P4のスタイリング。
プロトタイプカーレースで無敵を誇っていたフェラーリだが、フォードという強力なライバルの登場によって1966年のル・マンでは苦杯をなめる。しかし翌年のデイトナ24時間レースでは伝説的な1~3位独占を果たして雪辱を果たした。一方でフェラーリは時同じくして市販モデルの販売台数拡大を狙い、小排気量ミッドシップモデルの開発を推進し、今なお名車の呼び声高い「ディーノ」が誕生する。

スポーツカーレースにも積極的に参戦

1967年式412 P。プライベーター用に製造された412 Pの総生産台数は4台と言われる。

現在ではワークス、すなわちスクーデリア・フェラーリでのモータースポーツ活動をF1に集中させているフェラーリだが、1960年代はF1に加えてスポーツカーレースにも積極的に参戦していた。フェラーリは、ここで1960年から1965年までの6シーズン連覇という偉業を成し得たのだが、1965年に登場したフォードという新たなライバルは、フェラーリにとって相当な脅威であった。フォードが望んでいたのは年間チャンピオンではなく、シリーズの象徴たるル・マン24時間での勝利にあったからだ。

フェラーリは、その時すでにサーキットに投じていた「330 P3」「330 P3/4」「330 P4」「412 P」といったマシンでフォード勢に立ち向かわなければならなかった。P3に搭載されたV型12気筒エンジンは、3967ccの排気量から410psの最高出力を発揮したとはいえ、フォード GT40は、8台のマークII(7.0リッター)と、5台のマークⅠ(5.0リッター)という布陣。いわゆる物量作戦で優勝を狙ってくると分かっていた。フェラーリにとっては非常に厳しいレースになると予想された。

見事、1-2-3フィニッシュを決める!

1966年のル・マン24時間ではフォードの後塵を拝したフェラーリだったが、翌年のデイトナ24時間では330 P4と412 Pが1位から3位までを独占。見事リベンジを果たした。

結局1966年のル・マン24時間レースに勝利できなかったフェラーリは、翌1967年のデイトナ24時間では、さらなる進化型の「330 P4」と「412 P」で1-2-3フィニッシュを達成。ル・マンでの屈辱をデイトナで見事に返してみせた。

もちろんフェラーリ、そしてディーノからは、ほかにもスポーツカーレースに参戦するためのマシンがこの時代には多く生産されている。フェラーリファンはF1だけではなく、フェラーリが他のカテゴリーにも戻ってきたことに歓ぶだけでなく、この時代のプロトタイプ・レーシングカーが持つ独特で妖艶な美しさに惹かれていたのではないだろうか。

販売台数の拡大と生産コストの見直し

1967年式330 GTC。レースフィールドだけでなくストリートモデルにも注力し始めたフェラーリ草創期のGTだ。
ストリートモデルの生産コストを下げ販売台数を増やすため、小排気量ミッドシップモデルを計画したフェラーリは、ディーノ 196 Sをベースとした新型車の開発を進める。

フェラーリの人気は、積極的なレース参戦も手伝ってスポーツカーのファンには圧倒的であったが、実際にそれを購入するには大きな壁があった。それはもちろん価格面である。1960年代中盤に生産されていた275シリーズ(1966年にV型12気筒エンジンがDOHC4バルブ化され、275 GTB/4となる)や、330 GT 2+2、330 GTC、365 カリフォルニアなどのモデルは、いずれも高価なプライズタグが掲げられたものばかりだった。

だが、この頃のフェラーリにとって避けて通ることができなかったのは、販売台数を拡大し生産コストを抑えるという、自動車メーカーとしては当然ともいえる課題。そこでエンツォが着目したのは、すでにプロトタイプとして完成していた「ディーノ 196 S」の存在で、それをベースに小排気量のミッドシップ車を生産することを実行に移してみせた。

ピッコロ・フェラーリ「ディーノ」誕生

1967年式ディーノ 206 GT。車名の「ディーノ」はエンツォ・フェラーリの愛息、アルフレード・ディーノから採られている。

1967年に誕生した「ディーノ 206 GT」がまず見る者を驚かせたのは、その妖艶なエクステリアデザインだった。デザイナーはピニンファリーナのレオナルド・フィオラバンティが率いるチーム。ミッドに搭載されるエンジンは、エンツォの子息であるアルフレード・ディーノ・フェラーリが初期の開発に携わり、すでにF1やF2に搭載の実績があった1986ccのV型6気筒DOHCだった。これに3基のキャブレターを組み合わせ、180psの最高出力を発揮。最高速度は235km/hを達成した。

1969年にマイナーチェンジを施し排気量を2.4リッターへと引き上げたディーノ 246 GT。当時のフェラーリ生産モデルとして最大のヒット作となり、現在もエンスージアストにとって垂涎のモデルである。

ちなみにこのディーノ206 GTは、1969年にマイナーチェンジを受け、「246 GT」へと進化を遂げる。エクステリアデザインに大きな変化はないが、タルガトップによるオープン仕様の「246 GTS」を途中で追加したのは大きな話題となった。246 GTSはアメリカ市場を中心に人気を集め、ディーノのセールスを好調に推移させることに大きく貢献。2419ccに拡大されたV型6気筒エンジンも195psに強化され、最高速度も245km/hにまでアップした。

参考までにディーノ 206 GTの生産台数はわずか150台だったものの、246 GTでは2487台、246 GTSは1274台と、この時点でフェラーリ創業以来、最大の販売台数を記録している。

SPECIFICATIONS

フェラーリ 330 P4
年式:1967年
エンジン:60度V型12気筒DOHC(3バルブ)
排気量:3967cc
最高出力:331kW(450hp)/8000rpm
乾燥重量:792kg
最高速度:320km/h

フェラーリ 412 P
年式:1967年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:3967cc
最高出力:309kW(420hp)/8000rpm
乾燥重量:835kg
最高速度:310km/h

フェラーリ 330 GTC
年式:1966年
エンジン:60度V型12気筒SOHC
排気量:3967cc
最高出力:221kW(300hp)/7000rpm
乾燥重量:1300kg
最高速度:242km/h

ディーノ 196 S
年式:1958年
エンジン:65度V型6気筒DOHC(2バルブ)
排気量:1983cc
最高出力:143kW(195hp)/7200rpm
乾燥重量:680kg
最高速度:250km/h

ディーノ 206 GT
年式:1967年
エンジン:65度V型6気筒DOHC(2バルブ)
排気量:1986cc
最高出力:132kW(180hp)/8000rpm
乾燥重量:900kg
最高速度:235km/h

ディーノ 246 GT
年式:1969年
エンジン:65度V型6気筒DOHC(2バルブ)
排気量:2419cc
最高出力:143kW(195hp)/7600rpm
乾燥重量:1080kg
最高速度:245km/h

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

フェラーリ名鑑リンク集01-04。

フェラーリの歴史を作った名車たち。マラネッロが生んだ跳ね馬伝説 【フェラーリ名鑑:リンク集 Vol.1】

自動車史に偉大な物語を紡いできたフェラーリ。カバリーノ・ランパンテ(跳ね馬)は時空を超えた永…

1960年代にフェラーリの名声を築き上げた名車たち。今なお輝き続ける跳ね馬のアイコン 【フェラーリ名鑑:リンク集 Vol.2】

フェラーリの歴史を語るうえで、1960年代前後に登場した250シリーズは欠かせない存在だ。優…

キーワードで検索する

著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…