1960 Porsche 356B 2000GS Carrera GT【ポルシェ図鑑:10】

【ポルシェ図鑑】「ポルシェ 356B 2000GS カレラGT(1960)」レース直系の356。

ポルシェ 356B 2000GS カレラGTのフロントスタイル
ポルシェ 356B 2000GS カレラGTのフロントスタイル。
フォルクスワーゲン ビートル由来の空冷水平対向OHVエンジンをレースに用いていたポルシェだったが、パフォーマンスの限界を悟り新たなパワーユニットの開発を行う。そして生まれたのが2.0リッター空冷水平対向DOHCのType 547ユニット。新たにツインカムを得たこのエンジンの搭載モデルには「カレラ2」の名称が与えられた。

1960  Porsche 356B 2000GS Carrera GT

きっかけは1953年の550スパイダー

ポルシェ・ミュージアムに収蔵されている1960年製造の356B 2000GS カレラGT。2.0リッター空冷水平対向“DOHC”を搭載し、GTレース用ホモロゲーションモデルとしてリリースされた。

“カレラ2”こと、ポルシェ 356B 2000GS カレラGTは、1959年登場の356Bに1966cc空冷水平対向DOHC(4カム)エンジンを搭載した、GTレース用ホモロゲモデルである。

その誕生のきっかけとなったのは、1953年に発表された550スパイダーだ。すでにフォルクスワーゲン ビートル由来の空冷フラット4OHVの限界を悟っていたポルシェは、エルンスト・フールマン博士を中心としたチームに、550スパイダーに搭載するための本格的なレーシングエンジンの開発を指示する。

それを受けフールマン博士は、吸排気効率の向上を目的に半球形の燃焼室と挟み角76度をもつビッグバルブ・ヘッドを設計。高回転、高出力を実現するため、角バンク毎にシャフトドライブのツイン・カムシャフトを配した4カム・ユニットとした。

空冷水平対向4気筒DOHC Typ547エンジンの誕生

エルンスト・フールマン博士が設計した空冷水平対向4気筒DOHC Typ547エンジン。2基のキャブレターはソレックス40PII-4が標準だが、1600GS GTではウェーバー40 DCM2、2000GS GTではウェーバー46 IDM2が標準となった。ちなみにカレラの4カム・ユニットはエンジン単体で通常のOHVに比べ45kgほど重かった。

当時の国際レギュレーションに合わせボア85mm、ストローク66mmの1498ccとされたTyp547空冷水平対向4気筒DOHCエンジンは110hpを発揮。1954年から550 1500RSスパイダーに搭載され、様々なレースで活躍するようになる。

その性能に自信をもったポルシェはGTレースで活躍していた356にもTyp547ユニットを流用することを画策する。すでに開発段階で自身の356に搭載して実走テストを行い、シャシーバランス的な問題がないことを確認していたフールマン博士は、Typ547を搭載した356/2 SLを製作。デビュー戦となった1954年のリエージュ〜ローマ〜リエージュ・ラリーでフシュケ・フォン・ハンシュタイン/ヘルベルト・リンゲ組が優勝し、そのポテンシャルを証明してみせた。

FIA GTの規定にあわせ登場した、356B 2000GS カレラ2

130hpのGSデラックスと、140hpのGTが用意されたカレラ2は、356Bで310台、356Cで126台が生産されたといわれている。また1962年以降に生産されたモデルには、従来のドラムブレーキに代わり、804F1から流用されたディスクブレーキが装着されていた。

こうしてポルシェは、1955年に356Aがデビューしたのに合わせて、そのレース用ホモロゲモデルである356A 1500GS“カレラ”を発売する。

550スパイダーのカレラ・パナメリカーナでの活躍を記念して“カレラ”というペットエームがつけられた356A 1500GSは、現代の911GT3の祖というべきモデルで、レース用のGS GTに加え、ロードユース用のGS デラックスが用意されていたのも大きな特徴といえた。

1960年のトゥール・ド・コルスに出場、総合優勝を飾ったポール・エルンスト・シュトレーレ/ヘルベルト・リンゲ組の356B 1600GS GT。シュトレーレは1954年のミッレミリアに356のエンジンを搭載したフォルクスワーゲン ビートルで出場。その後も356A カレラ、356B カレラ2、356B カレラ アバルトなどで活躍したポルシェ遣いのひとりだ。

その後モアパワーの声に応え、1958年のパリ・ショーでボアを87.5mmに拡大し1588ccとした356A 1600GS カレラを発表(すぐに356Bへとモデルチェンジする)。その最高出力はGSデラックスで105hp、GS GTで115hpへと向上した。

そして1960年には2000cc以下で競われるFIA GTのディビジョン5規定にあわせ、排気量を1966ccへと拡大した356B 2000GS“カレラ2”が誕生する。

日本におけるポルシェ伝説の幕開け

1964年のモンテカルロ・ラリーに出場したギュンター・クラース/ハンス・ウェンチャー組の356B カレラ2。パディ・ホプカークのミニ クーパーが席巻したこのレースで総合37位完走を果たした。

そんな356B カレラ2で忘れてはならないのが、日本との関係だ。

1963年5月3〜4日にかけて鈴鹿サーキットで開催された日本初の国際格式の自動車レースとなった第1回日本グランプリ“国際スポーツカー・レース”に、ポルシェ・ワークスの監督でもあるフシュケ・フォン・ハンシュタインがエントリー。初日に総合6位、2日目に総合5位に入る健闘をみせ、両日ともA-2クラスの優勝を飾った。それはまた、日本レース界における“ポルシェ伝説”が幕を開けた瞬間でもあった。

310台が生産されたという356Bベースのカレラ2の中で、カブリオレもわずか34台のみ製造された。現在、ポルシェ・ミュージアムにも1962年式の356B カブリオレ 2000GS デラックスが所蔵されている。

【SPECIFICATIONS】
ポルシェ 356B 2000GS カレラ GT
年式:1960年
エンジン形式:空冷水平対向4気筒DOHC
排気量:1966cc
最高出力:175hp
最高速度:220km/h

TEXT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
COOPERATION/ポルシェ ジャパン(Porsche Japan KK)

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