メルセデスAMG EQS 53 4MATIC+を初試乗!

AMG初のEVはスーパーカー並の761ps! EQS 53 4MATIC+を渡辺慎太郎が最速試乗

メルセデスAMG EQS 53 4マティック+。フロントビュー
AMG初の量産BEVがいよいよ登場した。メルセデス・ベンツのフラッグシップEV、EQSをベースにした「アファルターバッハ流の電気自動車」はいかなる仕上がりになっているのか。自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎が米カリフォルニアで試乗した。
メルセデス・ベンツのフラッグシップEV、EQSのハイパフォーマンス仕様「EQS 53 4MATIC+」が登場した。果たして、アファルターバッハが放つ初の量産EVとなるEQS 53に“AMGの流儀”は健在なのか。その実力を探るべく、自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎が米カリフォルニアでいち早く試乗した。

Mercedes-AMG EQS 53 4MATIC+

EVはあくまで「選択肢のひとつ」

メルセデス AMG EQS 53 4マティック+。フロントビュー
メルセデスAMG EQS 53 4マティック+は、EQSと同じプレミアムクラスの電気自動車専用プラットフォーム「EVA2」を採用。搭載するリチウムイオンバッテリーの容量も同じ107.8kWhで、航続距離は529〜586km(WLTPモード)。

果たして「猫も杓子も」という表現が正しいのかどうかよく分からないけれど、自動車メーカーはどこもこぞって積極的なEV戦略をアピールしている。トヨタ自動車も「EVに消極的」という市場に蔓延るミスリードを払拭するために社長自らが会見を行なった。

こういうご時世で我々が気を付けなければならないのは、メーカーの発信する内容を注意深く読み解くということである。ボルボやジャガーのように「完全EV化」を宣言するメーカーがある一方で、メルセデス・ベンツやトヨタは「市場の準備が整えば」とか「目指す」「目標とする」という表現に留めていて、EV以外の選択肢も依然として用意する構えを見せている。これを「メルセデスやトヨタもやっぱり電気自動車しか作らなくなるのかあ」と早とちりしてはいけないのである。

ある種の曖昧な表現にならざるを得ないのは、電気自動車の時代がやってくるか否かの鍵を握っているのはもはや自動車メーカーではなく、世界の国や地域の事情や都合やエネルギー施策次第であるからだ。メーカー側はEVを供給する準備が整ったとしても、「それをバンバン売ってみんながどんどん充電しても、真夏や真冬の電力供給は本当に大丈夫なんですよね?」という話である。5年先の市場の動向すら読めないいま、特にコンパクトカーから高級車まで扱うフルラインナップの自動車メーカーにとってEV一択への方向転換は難しく、選択肢を多く持つというのが現時点での最善策なのである。

大排気量エンジンを積まないAMGが早々に登場

メルセデス AMG EQS 53 4マティック+。フロントセクション
メルセデスAMG EQS 53 4マティック+のフロントセクション。グリル部に縦型フィンを配したお馴染みの「パナメリカーナ」顔をしている。ホイールは21インチもしくは22インチから選択可能(テスト車は22インチを装着)。

これから数年は、時代の変化に追い付こうとするメーカーのさまざまなトライを拝見できる貴重な期間と捉えることもできるから、それはそれとしてなかなか面白い時代に入ってきたと自分なんかは思っている。例えば「ワンマン・ワンエンジン」を掲げ、熟練工が丁寧に組み上げたハイパフォーマンスエンジンを提供するメルセデスAMGなどは、そもそもエンジンが存在しないEVが台頭してきたらいったいどうするのだろうと、他人事ながらちょっと心配していた。

そこに飛び込んで来たのがメルセデスAMG EQS 53 4MATIC+誕生のニュースだった。メルセデスAMGはすでに自社開発の電動化ユニットであるV8ハイブリッドの“Eパフォーマンス”を発表している。だからやっぱり将来的にも内燃機と関わっていく道を選んだのだと思っていただけに、EQSのAMG版はまったく予想していなかったわけではないものの、予想よりずっと早いタイミングだったので驚いた。

ダウンフォース重視の外観

メルセデス AMG EQS 53 4マティック+。サイドビュー
メルセデスAMG EQS 53 4マティック+のサイドビュー。トランクリッド上に大きなリップスポイラーを配置するとともに、バンパー下にディフューザーを装着。AMGの高性能ブレーキを採用しており、オプションにセラミックコンポジットブレーキもラインナップしている。

EVは内燃機搭載モデルと比べると、内外装のお化粧やサスペンションのセッティングはともかく、パワートレインに関するチューニングの範囲は狭くなることは必至だし、制御でいかようにもなるとはいってもAMGにその経験や実績はほとんどない。だから彼らがいったい何をやったのか、どういうふうに味付けをしたのか、主な興味はこの2点だった。

フロントグリルに縦のバーを配した“顔”はAMGモデルのエクステリアの特徴のひとつであり、それはEQS 53にも踏襲されている。フロントバンパーの形状はEQSから大きな変更はない。インレットの奥にあるフィンは電制で、冷却と空力のベストミックスを達成するべく状況に応じて開いて外気を取り入れたり閉めたりする。

リヤは、トランクリッドにリップスポイラーを置き、バンパー下にはディフューザーを配置した。リップスポイラーはEQSのAMGラインでも用意されているもののそれよりもサイズが大きく、リヤのダウンフォースをより多く稼ぐ目的があるという。Cd値は0.23。これはEQSの0.20よりやや後退しているが、ダウンフォースを優先したことと22インチタイヤを装着したことが主な理由とのことだった。室内にAMG専用のシートやステアリングやペダルやトリムを採用するのはいつものやり方で、液晶メーターにもAMG専用のグラフィックがいくつか組み込まれていた。

アシまわりの硬さは「アルデンテ」くらい

メルセデスAMG EQS 53 4マティック+。フロントビュー
メルセデスAMG EQS 53 4マティック+は、電子制御式ダンパーを備えたエアサスペンションを前後に標準装備。全車に後輪操舵システムを搭載している。

サスペンションは“AMGライドコントロール+”と命名されているけれど、実態はEQSとほぼ同じである。つまりフロントが4リンク、リヤがマルチリンクの形式で、空気ばねと電子制御式ダンパーを組み合わせたエアサスペンションである。ただし、ダンパーだけは、AMG GTの4ドアのそれを移植している。

EQSよりもデフォルトの減衰力が高いいわゆるスポーツダンパーで、乗り心地もやや硬めとなる。EQS同様、後輪操舵も標準装備だが、最大操舵角はEQSの10度に対して9度。これは主にタイヤの装着サイズの違いによってもたらされた結果だそうで、この角度はパーキングスピード時である。60km/hを境に逆位相と同位相を切り替えるロジックに変更はない。

AMGダイナミックセレクトはスリッパリー/コンフォート/スポーツ/スポーツ+/インディビジュアルの5モードが用意されていて、まずはコンフォートを選んで走り出す。乗り心地はEQSよりもやや硬め。ボディの剛性感が高く減衰も速いので不快感はない。いわゆるガチガチに硬めたアシではなく、アルデンテくらい。

V12ツインターボを上回る大トルク

メルセデス AMG EQS 53 4マティック+。フェイシア
メルセデスAMG EQS 53 4マティック+のコクピット。AMG専用のステアリングホイールやスポーツペダル、独自のインターフェイスを採用したディスプレイ表示などが特徴。

タウンスピードで走っていると常に重量感が伝わってきてしまうのは、2655kgというヘビー級の車両重量ゆえやむを得ない。しかしここからアクセルペダルを少し深く踏み込むと一瞬にして世界が変わる。内燃機よりもトルクの立ち上がりが圧倒的に早いから、まるで車両重量が半分くらいになったかのごとく、一気呵成に加速を開始する。静から動へのドラスティックな変貌。これこそがEVの動力性能の真骨頂ではないだろうか。

トルクカーブは、EQSのスポーツモードに相当するのがEQS 53のコンフォードモードといった印象。そしてこれをスポーツやスポーツ+にすると思わずおののいてすぐにペダルを戻してしまうくらいの強烈な加速感に襲われる。それもそのはずで、EQS 53は658ps/950Nmのパワースペックを標準としているが、試乗車にはオプションのAMGダイナミックプラスパッケージが装着されていて、これだと761ps/1020Nmに増強される。

その昔、V12ツインターボを搭載したAMGの「65」は1000Nmを誇っていたが、それすらを上回る数値である。参考までに、ノーマルのEQS 580 4MATICは523ps/855Nmで、これでもすでに持て余すパワーである。聞けばAMGは前後のモーターを専用のハイスペック版に置き換えたそうで、これがエンジンをいじれない代わりの策なのだろう。

AMGサウンドの電気自動車的解釈

メルセデス AMG EQS 53 4マティック+のプロダクト概要
メルセデスAMG EQS 53 4マティック+の充電はACが22kW、DCが200kWに対応。車両後方に、加速時のムードを演出する「AMGサウンドエクスペリエンス」用装置が備わっている。

EQS 53には「AMGサウンドエクスペリエンス」なる仕掛けが装備されている。簡単に言えば、疑似音をスピーカーから流して加減速時の演出効果を期待するもの。コンフォートではモーター音しかしないけれど、スポーツやスポーツ+にすると「クォーン」とか「クィーン」とか、エンジン音でもなければモーター音とも異なる独特のサウンドが聞こえてくる。

スピーカーは室内用と室外用のふたつがあって、外でも聞こえるらしい。本来なら排気系をいじって迫力あるサウンドを奏でるようにしてきたところ、EVではそういうわけにもいかず、こうした方法に行き着いたようだ。音の感じ方はひとそれぞれなので、これが最適なのかどうかはよく分からないけれど、アニメの宇宙船みたいな音だなと自分なんかは思ってしまった。

EV時代のハイパフォーマーはどこへ向かうのか

メルセデス AMG EQS 53 4マティック+。リヤビュー
メルセデスAMG EQS 53 4マティック+は2021年12月14日より本国での受注をスタートした。車両価格は15万2546.10ユーロ(約1950万円)から。現時点(2021年12月20日)での日本導入時期・価格などは未定。

ボディサイズもEQSと同じなので、全長は5mを超え、ホイールベースも3mを超える巨体だが、そのサイズにしては本当によく曲がる。物理的によく曲がる手助けをしているのは間違いなく後輪操舵(と4MATICの前後駆動力常時可変)である。一方で、セダンのくせに全高が1512mmもあるので、バッテリーを床下に置いても重心がすごく低いという印象には乏しいものの、エアサスがばね上の動きを上手に抑え込んでいるから、姿勢変化はスムーズかつ最小限である。ヨーゲインの立ち上がりが早い点においてEQSとの差別化が図られていて、スポーティなハンドリングがきちんと成立していた。

AMGはEVのEQSに対して、内外装のお化粧やモーターの交換やスポーティなサスペンションのセッティングやユニークな走行音など、現時点で出来うる限りのことをやったと思う。これが、チューニングメーカーがEVと共に生きていく術なのかどうかはまだよく分からない。

彼らが触らなかった部分のひとつにバッテリーがある。107.8kWhはEQSと同等なので、当然のことながら航続距離は770kmから最大585kmに減ってしまっている。パワーアップに伴ってバッテリー容量を増やせば重量も増えるわけで、軽々にそれもできないだろう。パワーと航続距離との折り合いの付け方が今後の課題かもしれない。BMWのMなんかが今後どうするのかにも興味がわいてきた。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

メルセデス・ベンツ EQS 580 4MATICのフロントビュー

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【SPECIFICATIONS】
メルセデスAMG EQS 53 4MATIC+
ボディサイズ:全長5216 全幅1926 全高1512mm
ホイールベース:3210mmmm
車両重量:2655kg
モーター:永久磁石式同期モーター×2
最高出力:484KW(658ps) ※AMGダイナミックプラスパッケージ装着車=560kw(761ps)
最大トルク:950Nm ※AMGダイナミックプラスパッケージ装着車=1020Nm
駆動用種電池:リチウムイオン電池
電池容量:107.8kWh
駆動方式:AWD
サスペンション:前4リンク 後マルチリンク
タイヤ:前後275/35R22
航続距離:529-586km(WLTPモード)
0-100km/h加速:3.8秒 ※AMGダイナミックプラスパッケージ装着車=3.4秒
最高速度:220km/h(リミッター制御) ※AMGダイナミックプラスパッケージ装着車=250km/h

【問い合わせ】
メルセデスコール
TEL 0120-190-610

【関連リンク】
・メルセデス・ベンツ 公式サイト
https://www.mercedes-benz.co.jp/

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著者プロフィール

渡辺慎太郎 近影

渡辺慎太郎

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ルボラン』の編集者として自動車メディアの世界へ。199…