目次
Lotus Elise Sport220II × Porsche 718 Cayman T × Alpine A110S
スポーツマインドにあふれたミッドシップモデル
いまさらGENROQ読者にミッドシップのことなど釈迦に説法だろうが、その最大のメリットはヨーモーメントの減少とトラクション性能の向上にあるといっていい。この3台も、こうした特徴をしっかりと備えているが、ブランドの特性やモデルの立ち位置に応じて、実際に操った際の感触や世界観は大きく異なっている。ここでは、3台の個性にフォーカスを当てつつ、ミッドシップスポーツの奥深い世界を俯瞰してみることにしたい。
軽量かつシャープなアルピーヌ A110S
最初に紹介するアルピーヌ A110Sは、私が愛して止まないA110のハイパフォーマンスバージョン。基本的な構成は共通だが、A110SはA110に対してエンジンを40psパワーアップしているほか、シャシースポールと呼ばれるよりソリッドなサスペンションを採用する点に大きな違いがある。このため、A110の走りを語るうえで欠かせない足まわりのしなやかさ(優れたロードホールディングを確保するうえでも快適な乗り心地を実現するうえでも極めて重要な役割を果たしている)はいくぶん失われてしまったが、これを除くA110の魅力は健在で、私の「欲しいスポーツカー・ランキング」の上位に食い込んでいる。価格は864万円。
とりわけ印象的なのが1110kgの車重が生み出す軽快感で、停止状態から動き出す瞬間の軽々とした身のこなしからも、このクルマの圧倒的な軽量設計が窺い知れる。しかも、これは感覚的な話だけではなく、パワーウエイトレシオが3台のなかで最も小さい3.8kg/psであることも特筆すべきだろう。
ワインディングで真価を発揮するハンドリングマシン
A110Sはただ軽量なだけでなく、重量物を車体の中心に近づけることで得られるヨーモーメントの小ささでもライバルを凌いでいるように思う。このため、ステアリングを切り込んだ瞬間のレスポンスが極めてシャープなうえ、たとえば限界的なコーナリング中に修正を行った際にも的確に反応してくれる。
こうしたA110Sの特性を助長しているのがミシュラン・パイロットスポーツ4で、タイヤがスライドする直前の感触を早めにドライバーに伝えてくれるため、たとえテールが流れ始めても適切なタイミングで修正するのは容易。ワインディングロードを攻める際、これがこのうえなく頼もしい武器となることはいうまでもない。
ベースの718 ケイマンの魅力を助長した「T」
もう1台のポルシェ 718 ケイマンTは、ベーシックグレードの718 ケイマンに走りのパフォーマンスを高める数々の装備を盛り込んだモデルで、たとえば20インチホイール&タイヤ、トルクベクタリング+機械式ディファレンシャルロック、PASMスポーツシャシー、スポーツクロノパッケージ、GTスポーツステアリングホイールなどが標準装備される。価格はケイマンを170万円ほど上回る897万2000円。
走り始めて驚いたのは、水平対向4気筒ターボの豹変振りで、初期型718の「プロロロロロ・・・」というサウンドとは似ても似つかない、もっとメカニカルでシャープな印象のエキゾーストノートを響かせるようになった。しかも、エンジン回転数と力強さが絶妙にシンクロしたトルク特性はまるで自然吸気エンジンのよう。これならフラット4を選んでも後悔しなくて済みそうだ。
ヒラリヒラリとしたA110Sに対しケイマンはずっしり落ち着いた挙動だ
シャシーの基本特性はミッドシップらしいもので、ハンドリングは軽快でトラクション性能も良好。ただし、A110Sと比べると、同じミッドシップでもずいぶんとキャラクターが異なっていることに気づく。
たとえば操舵時の反応でいえば、ヒラリヒラリとした感覚が味わえるA110Sとは異なり、ずっしりとして落ち着いた挙動を示す。例えて言えば、ホイールベースが際立って長いとか、フロントに重量物を積んでいるような安定感で、おかげで多少の外乱が加わっても矢のように突き進む直進性のよさを味わえる。
タイヤの感触も、グリップ限界を早めに知らせてくれるパイロットスポーツ4とは対照的で、ケイマンTが履くピレリPゼロは滑り始める直前までしっかりと路面を捉える一方で、その後はすっとグリップが失われるような感触がある。だから、グリップ走行をしている範囲でいえばケイマンTのほうが安心感は強いが、タイヤが滑るかどうかの綱渡り的ドライビングにチャレンジするなら、A110Sのほうがより自信を持って操れるような気がする。
直進性や快適性にも優れた高速クルーザー
乗り心地は3台中、ケイマンTがもっとも快適。ただし、軽やかにホイールがストロークするA110Sとは異なる、強力なダンピングが利いたいかにもドッシリとした乗り味だ。ハーシュネスの遮断が巧みで不快な感じがしないほか、不整路におけるボディの揺れが少なく、ロードホールディングが良好なこともケイマンTの美点である。
つまり、ワインディングロードをそこそこのペースで走るならケイマンTとA110Sの間に決定的な差は見出せないが、限界付近のスリリングなドライビングを楽しみたいならA110Sがオススメ。一方のケイマンTはコーナリングもさることながら、優れた直進性や快適性の高さが活きる高速クルージングをより得意としているように思う。
同じミッドシップでも、それぞれの感触や世界観は大きく異なっている
残るロータス エリーゼ スポーツ220IIは、この2台とは大きく異なる喜びを生み出すために生まれたスポーツカーといえる。
はじめに断っておくと、これまで登場したエリーゼのなかでも、このスポーツ220IIはとりわけバランスがいいと思う。ハンドリングは扱い易く、エンジンはレスポンスが良好なうえに柔軟で、乗り心地だって決して悪くない。ただし、それらはエリーゼにとって付加価値も同然。それよりも、ドライバーにダイレクトな感触を伝えることこそ、エリーゼというスポーツカーが持って生まれた使命であるような気がする。
剛性の高さがインフォメーションを高める
たとえばシートのクッションはロードカーとして極限的な薄さ。しかも、モノコックへの取り付け剛性が恐ろしく高く、おかげで路面からのインフォメーションは細大漏らさずドライバーに伝えられる。それはステアリングも同様で、アスファルトの目の粗さがわずかに変化しただけでもドライバーはその事実を感じ取れるはずだ。
では、そうした豊潤なインフォメーションを生かした限界的なコーナリングをエリーゼが得意としているかといえば、必ずしもそうとは限らないような気がする。というのも、ハードコーナリング時にはリヤサスペンションが踏ん張りながらロールするというよりも軽く浮き上がるように感じられ、このため全幅の信頼を抱いてグリップ限界まで攻める気持ちになかなかなれないのだ。
クルマが魅せる官能性を存分に味わえるエリーゼ
これはあくまでも個人的な見解だが、相対的に短いホイールベースや狭いトレッドがピーキーなコーナリング特性を連想させることも、私を怖じ気づかせる一因となっている。
もっとも、エリーゼはタイヤが滑るようなハードコーナリングを試さなくても、前述したようにダイレクトな感覚を味わえるために十分に刺激的だ。金属と金属が接する感触を味わいながら操作するシフトレバーなど、その典型といっていい。したがって、必ずしもタイヤの性能をギリギリまで使わなくとも、クルマが発する官能性を全身で味わいながらワインディングロードを駆け抜けるところに、エリーゼの魅力は存在しているように思う。
なお、682万円の価格は3台中最安値だが、生産終了のためすでに入手が困難になっている模様だ。
異なるキャラクターのミッドシップ3モデル
ワインディングロードでヒリヒリとするような限界的コーナリングを味わうのに最適なA110S、ワインディングロードに加え高速クルージングも得意なケイマンT、そして限界的コーナリングの一歩手前でもスポーツカーを操る官能性が満喫できるエリーゼ。同じ基本レイアウトでこれだけ異なるキャラクターを生み出せる点こそ、ミッドシップスポーツの醍醐味といえるだろう。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
【SPECIFICATIONS】
ロータス エリーゼスポーツ220II
ボディサイズ:全長3800 全幅1720 全高1130mm
ホイールベース:2300mm
車両重量:924kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCスーパーチャージャー
総排気量:1798cc
最高出力:162kW(220ps)/6800rpm
最大トルク:250Nm(25.4kgm)/4600rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前195/50R16 後225/45R17
最高速度:233km/h
0-100km/h加速:4.6秒
車両本体価格:682万円
アルピーヌ A110S
ボディサイズ:全長4205 全幅1800 全高1250mm
ホイールベース:2420mm
車両重量:1120kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1798cc
最高出力:215kW(292ps)/6420rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgm)/2000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前215/40R18 後245/40R18
最高速度:260km/h
0-100km/h加速:4.4秒
車両本体価格:864万円
ポルシェ 718 ケイマンT
ボディサイズ:全長4379 全幅1801 全高1276mm
ホイールベース:2475mm
車両重量:1380kg
エンジンタイプ:水平対向4気筒DOHCターボ
総排気量:1988cc
最高出力:220kW(300ps)/6500rpm
最大トルク:380Nm(38.7kgm)/2050-4500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後マクファーソンストラット
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前235/35ZR20 後265/35ZR20
最高速度:275km/h
0-100km/h加速:5.1秒
車両本体価格:897万2000円
【問い合わせ】
ロータスコール
TEL 0120-371-222
アルピーヌコール
TEL 0800-1238-110
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
【関連リンク】
・ロータス 公式サイト
http://www.lotus-cars.jp
・アルピーヌ・ジャポン 公式サイト
https://www.alpinecars.com/jp/
・ポルシェ ジャパン 公式サイト
https://www.porsche.com/japan/