アルピーヌA110S × 池沢早人師、21世紀の狼を語る!

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【最終回:アルピーヌ A110S総集編】

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【最終回:アルピーヌ A110S総集編】
池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【最終回:アルピーヌ A110S総集編】
近代ライトウェイトスポーツとして話題の「アルピーヌ A110S」を主役に、『サーキットの狼』の作者である池沢早人師先生がライバルモデルたちを連れ出すこの企画も遂に最終回を迎える。ロータス エリーゼ スポーツ220II、ポルシェ 718 ケイマン、GRスープラ、ジャガー Fタイプ、BMW M4クーペ コンペティション、ポルシェ911ターボS カブリオレの計6台とのバトルをお届けしてきたが、ここでは総括として池沢先生にアーカイブを振り返っていただく。

アルピーヌ A110Sを池沢早人師が語る

『週刊少年ジャンプ』で連載が始まってから約半世紀、今もなお自動車好きのバイブルとして愛され続ける『サーキットの狼』。主人公の風吹裕矢がロータス ヨーロッパを駆り、フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェなどのスーパーカーと壮絶バトルを繰り広げるストーリーは、日本人のなかにある「柔よく剛を制する」精神を刺激し、ライトウェイトモデルの楽しさを広めた。

そして、現在「ロータス ヨーロッパの再来」と呼ばれ、注目を集める一台のクルマが登場した。その名は「アルピーヌ A110S」。往年のアルピーヌ A110をモチーフにしながらも、俊敏な走り、シャープな操作性能、美しいフォルムに磨きをかけた仕上がりは世界中のスポーツカーファンを騒然とさせた。これまで9回に渡って「アルピーヌ A110Sは21世紀の狼たるや?」を命題に連載してきた本企画も今回が最終回。これまでを総括する。

現代に蘇ったロータス ヨーロッパ=アルピーヌ A110S

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【最終回:アルピーヌ A110S総集編】
「アルピーヌ A110Sは、ひょっとしたら21世紀のロータス ヨーロッパになるのではないか?」との池沢先生のひと言からスタートした当連載。A110Sのポテンシャルをライバルたちとの比較試乗を通じて探ってきた。

昨年の秋頃、GENROQ Web編集部から「アルピーヌ A110Sのライバル対決を連載しませんか」と話をもらった時、ボクは躊躇うことなく快諾した。その理由は2019年の東京モーターショーで遭遇したA110に大きな衝撃を受け、久しぶりに欲しいクルマに出逢った気分になっていたからだ。もちろん「現代に蘇ったロータス ヨーロッパ」という台詞も、ボクの心を動かした大きな理由ではある。

A110Sのファーストインプレッションでは、近代スポーツカーとして異例の軽さと優れた運動性能を兼ね備えていることに驚かされた。車名の「110」は「約1100」kgという車両重量にも通じており、衝突安全性の向上や豪華装備の積み重ねによって肥大化する近代スポーツカーの中において強烈なアドバンテージになっている。

スタートダッシュ、中間加速での伸び、ブレーキング時の挙動、コーナリング中の姿勢変化など全ての面で「軽さ」を武器にドライバーを楽しませてくれ、改めて「現代に蘇ったロータス ヨーロッパ」という比喩は的を射ていると感心させられた。リヤミッドに搭載された4気筒DOHC+ターボエンジンは最高出力292psを発生し、約1100kgの車両重量には最適な数値となり、爆発的ではないが物足りなさを感じさせることのないジャストな設定だ。

ドライバーがクルマを操るという主従関係を色濃く残したA110

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【最終回:アルピーヌ A110S総集編】
現代のスポーツカーは安全性と高速性能向上のため、電子制御を満載してドライバーを補助する。しかしそれが度を過ぎればドライバーとクルマの主従関係は逆転するだろう。アルピーヌ A110Sではその逆転現象は抑えられ、旧き佳きクルマとの関係性が保たれている。

また、ソリッドな走りを支える理由のひとつに剛性感の高い足まわりが影響している。駆動力をしっかりと路面へと伝えると共に唐突な挙動変化を抑えるサスペンションは、しなやかさを持ちながらもカッチリとした剛性感によって走りをワンランク上のレベルへと引き上げている。

デザインに関してもアルピーヌ A110Sはスポーツカー好きを刺激する要素が満載だ。往年のA110を彷彿とさせるボディフォルムは秀逸であり、決して「焼き直し」や「復刻」という安易なものではなく「進化」と呼ぶに相応しい仕上がりを持つ。ボクが最も気に入っているのはリヤエンドのディフューザーで、イメージ先行の重量物として与えられる装飾ではなくフラットボトムのリヤ車軸あたりから伸びやかに空気を整流する実用的な道具は美しさと力強さに満ちあふれている。

室内は肉薄なバケットシートと余計な装備を持たないシンプルさが往年のスポーツカーファンを刺激し、その潔さと割り切りに“大人の余裕”を感じてしまう。ステアリングを握った瞬間、ドライバーを熱狂させるアルピーヌ A110Sは電制御に支配された近代スポーツカーが蔓延する現在、稀有な存在だ。クルマに主導権を渡すことなくドライバーが「操る」という主従関係を残す「現代に蘇ったロータス ヨーロッパ」は次世代に名車として語り継がれるに違いない。

BATTLE 01:vs ロータス エリーゼ スポーツ220II

ロータス エリーゼ スポーツ220IIの走行シーン
ロータス エリーゼ スポーツ220IIは、ロータス ヨーロッパのフィロソフィを継承した、まさに「21世紀の狼」の資質を強く備えたモデルだ。

最初のバトルは「ロータス エリーゼ スポーツ220II」だったが、この勝負は互角といっても良いだろう。両車ともに軽量さを武器にするも、エリーゼの方がより「走りに特化した潔さ」が強いのだが、逆に言えば快適性を大きく犠牲にしているということにもなる。

その点、アルピーヌ A110Sの方が汎用性は高く使い勝手は良い。ならばスポーツカー好きはエリーゼの方が・・・と思いがちだが、日常の快適性が低いということはファーストカーには成り得ないと言うことであり、エリーゼはセカンドカーを所有できる富裕層の特権になってしまうのだ。

BATTLE 02:vs ポルシェ 718 ケイマン

ポルシェ 718 ケイマンの走行シーン
ミッドシップレイアウトに伝統のボクサーエンジンを採用するポルシェ 718 ケイマン。万能性が高く評価される現代のミッドサイズスポーツの1台。

「ポルシェ 718 ケイマン」との戦いでは「走り」に対するメーカーの考え方を再認識させられた。水冷式の4気筒エンジンをミッドシップするケイマンは決してプアマンズ・ポルシェではなく、新たな世代の担い手としての可能性を持つ。車両重量ではA110Sと比べて330kgものハンデを負いながら、スポーツカーとしての魅力を発揮してくれた。

安定性の高い走りはポルシェ然としたものであり、ドイツ流の自動車哲学を受け継いだ走りはシャープさが際立つA110Sとは別次元の魅力に溢れているのだ。その時のインプレに「A110Sが鋭いナイフで路面を切り裂くように走るとすれば、ケイマンは大きな手で路面を抱きしめるように走る」と表現したように、同じスポーツカーではあるものの全く違う考え方に基づいて誕生したことが理解できるだろう。

BATTLE 03:vs GRスープラ

GRスープラの走行シーン
BMW Z4と共通するシャシーを引っ提げてデビューしたGRスープラは、かの名車トヨタ 2000GTの再来とも評すべきモデル。『サーキットの狼』でのライバル“隼人ピーターソン”が思い起こされる。

3ラウンド目は日本が誇るトヨタの「GRスープラ SZ-R」が登場した。この戦いは『サーキットの狼』の作中で“隼人ピーターソン”が乗るトヨタ 2000GTと“風吹裕矢”のロータス ヨーロッパのバトルをイメージし、あえてGRスープラは2.0リッターモデルをチョイスした。

GRスープラはBMW Z4との兄弟車という特殊なクルマだけに、両メーカーの優れたDNAをミックスした楽しいクルマに仕上がっていた。スポーツモードにセレクトしてワインディングを駆け抜けるとオールドスクールなFRスポーツの楽しさを発揮するも、アダプティブ・バリアブル・サスペンション・システムが変化する路面に対して瞬時に追従し僅かなロールを伴いながら絶妙な安定感を発揮する。

もちろん、峠道ではA110Sの実力に敵うことは無いが、高速道路で実力を発揮するグランツーリスモ的なスポーツカーとして活躍してくれるはずだ。

BATTLE 04:vs ジャガー Fタイプ

ジャガー Fタイプ Rダイナミック コンバーチブル P300の走行シーン
ジャガー Fタイプ Rダイナミック コンバーチブル P300は2.0リッター直4ターボを搭載し、スポーツ性能とラグジュアリー性を両立したライバルとして当企画に登場した。

2021年の最初にランデブーを果たした「ジャガー Fタイプ Rダイナミック コンバーチブル P300」は、2.0リッターターボエンジンを搭載して300psの最高出力を発揮する。A110Sのライバルとするには少しばかり毛色の異なるセレクトだが、同等のパワーを発揮するということでバトルが実現した。

往年のジャガーが持つ独特の雰囲気を継承したラグジュアリーなスタイルは見た目以上に「走り」に対して積極的であり、しなやかさと粘り強さを高い次元で昇華させた足まわりはまさに“大型のネコ科“そのものであり、コーナーを駆け抜ける楽しさを享受することができる。A110Sのような鋭い切れ味は存在しないが「走りを楽しむ」と言う共通の感覚を異なる時間軸で主張していたのが興味深い。

BATTLE 05:vs BMW M4クーペ コンペティション

BMW M4クーペ コンペティションの走行シーン
最新のスポーツクーペとしてデビューしたBMW M4クーペ コンペティションもアルピーヌ A110Sとのバトルに持ち出す。そのパワーとシャシーのバランスの良さは特筆すべきレベルにあった。

2002ターボや3.0 CSLなど往年のスポーツモデルをルーツに持つ「BMW M4クーペ コンペティション」はボクにとって衝撃的なクルマだった。シャープさの中に懐の深さを加えたレベルの高い味付けは近代BMWの中で秀逸の仕上がりだ。

剛性感の高いサスペンションがゆっくりと動くストロークの滑らかさが際立ち、510psの最高出力を発揮するパワフルな6気筒DOHCツインターボエンジンに負けることなく最高のバランスを保っている。A110Sと新型M4クーペのバトルはBMW 3.0 CSLを駆る“隼人ピーターソン”とロータス ヨーロッパを相棒とする“風吹裕矢”が遥かなる時空を越え、その子孫を駆って戦っている姿を想像することすらできた。

BATTLE 06:vs ポルシェ911ターボS カブリオレ

ポルシェ911ターボS カブリオレの走行シーン
『サーキットの狼』でのロータス ヨーロッパのライバル車では、ポルシェ911は欠かせない存在。今回は現行911シリーズ最強の911 ターボS カブリオレに登場してもらい、作中さながらの格上との勝負を繰り広げた。

A110Sの最終勝負は「ポルシェ911ターボS カブリオレ」だ。このバトルは壮絶なハンデキャップ戦であり、パワー、性能、価格を比較すると全てがA110Sの倍以上になる。しかし、路上で出逢えば言い訳無用の無差別級ルール。「速いか」または「楽しいか」の真剣勝負だ。

水冷式のフラット6ツインターボをリヤエンドに搭載し、4WDという武器を駆使する911ターボSは、650psという爆発的なパワーを驚くような加速に昇華し、追従するA110Sのステアリングを握るボクの心拍数を上げてくれた。ハイパワーを誇りながらも多少の無理な運転では破綻することのない電子制御技術を武器に圧倒的なパフォーマンスを見せつける。

正直、スポーツカーの王者として君臨し続けるポルシェのフラッグシップとのバトルは「現代に蘇ったロータス ヨーロッパ」であっても分が悪く、登りの直線では圧倒的なパワーで置き去りにされる。A110Sが勝機を見出すのなら、ツイスティな下りのコーナーになる。そんな妄想をしながらの追走は楽しい時間だったが、ライバルは強ければ強いほど主役は燃えるのがお約束。それは昔も今も決して変わることのない王道のストーリーなのだ。

「夢」が託されたスポーツカーファンの希望、アルピーヌ A110S

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【最終回:アルピーヌ A110S総集編】
現代のスポーツカーから厳選した6台との比較試乗では、それぞれの良さを痛感しながらアルピーヌ A110Sの強みも十分に確認できた。絶対性能ではなく操る楽しさという面で、アルピーヌ A110Sは一歩抜きんでたモデルであると池沢先生は断言する。

この企画が始まってから一年以上の時間が経ち、アルピーヌ A110Sとの蜜月も一端区切りを迎えた。現行A110Sのルーツである初代モデルは名車として驚くべき価格で取り引きされ「幻の名車」として名を轟かせているが、個人的に初代モデルにそれほどの興味を抱くことはない。

今、この時代を生きる「アルピーヌ A110S」がボクの琴線に触れ、家電化する自動車へのアンチテーゼであり、古き良き時代のノスタルジーを色濃く伝える「現代に蘇ったロータス ヨーロッパ」=アルピーヌ A110Sに魅了されているのだ。環境に優しいハイブリッドやEVモデルを否定しようとは思わないが、ひとつの時代が終わろうとしている現在、最後の砦として世に放たれたアルピーヌ A110Sが際立った存在感を漂わせているのかもしれない。

連載企画としてA110Sと6台のモデルを乗り比べてきたが、本音を言えば“跳ね馬”や“猛牛”との対決を実現できなかったのが残念だ。しかし、ライトウェイトスポーツの魅力を再認識させ、スポーツカーのあるべき姿を世に知らしめたアルピーヌ A110Sと言う存在は、ボクにとって、そしてスポーツカーファンにとって決して小さなものではない。

電子制御に支配されたクルマに「乗せてもらう」のではなく、あくまでも「クルマを操る」という主従関係が明確に打ち出したフランス生まれのスポーツカー。近い将来「名車」として初代モデルに並ぶプレミアムが付けられることは間違いないだろう。もし、手に入れようかと悩んでいるなら、このチャンスを逃す手は無い。アルピーヌ A110Sはガラパゴスなクルマではなく、最後の「夢」が託されたスポーツカーファンの希望なのだから。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)
PHOTO&MOVIE/森山良雄(Yoshio MORIYAMA)

池沢早人師、アルピーヌ A110Sを語る!

【SPECIFICATIONS】
アルピーヌ A110S
ボディサイズ:全長4205×全幅1800×全高1250㎜
ホイールベース:2420㎜
車両重量:1110㎏(※グリトーネルマットのみ1120kg)
エンジン:直列4気筒DOHC 16バルブ+ターボチャージャー
総排気量:1798cc
最高出力:215kW(292ps)/6420rpm
最大トルク:320Nm/2000‐6420rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動動方式:MR
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前後320mm
タイヤサイズ:前215/40R18 後245/40R18
最高速度:260km/h
0-100km/h加速:4.4秒
WLTCモード燃費:12.8㎞/L
車両本体価格(税込):889万円

【問い合わせ】
アルピーヌ コール
TEL 0800-1238-110

【関連リンク】
・アルピーヌ・ジャポン公式サイト
https://www.alpinecars.jp

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