Radical Motorsport

レーシングビジネスのエコシステムを確立

ドニントンパーク・サーキットの敷地内にあるラディカル・モータースポーツの本社。
ドニントンパーク・サーキットの敷地内にあるラディカル・モータースポーツの本社。

ラディカル・モータースポーツの本社は、なんとドニントンパーク・サーキットの敷地内、正門を入ってすぐ左手にあった。ピットから響くエキゾーストノートが日常のBGM、という最高の環境である。事実、会議室からはドニントン名物のヘアピンコーナーが見渡せた。ラディカルは、常にサーキットとともに。彼らのクルマ造りの思想や哲学を物語る一面であろう。

1997年の創設以来、彼らが一貫して提供してきたのは、単に「速いレーシングカー」ではなく、「運転するピュアな愉しみと価値」をユーザーと共有すること、だった。サスティナブルでスタビリティの高い、シンプルだが稀有なレーシングビジネスのエコシステムを彼らは確立した。

とはいえ、その歩みは決して平坦ではなかった。かつてクローズドボディの「RXC」でスーパーカーの領域へ踏み込んだものの、環境・安全規制への対応コストは「会社をほとんど殺しかかけた」と大株主でダイレクターのDR. Jan Martin Osterlohは振り返る。この試練を経て、彼らは舵を大きく切った。社名を「ラディカル・スポーツカーズ」から「ラディカル・モータースポーツ」へと変更。ナンバー付きのロードカー生産を諦め、サーキット専用車とモータースポーツ体験の提供へ、その軸足を完全にトラックへ移したのだ。

今や累計生産3000台超

「SR1 XXR」
「SR1 XXR」

理由は極めて現実的で、かつ合理的なものだった。半年ぶりにガレージでキーを回せば普通に走り出すことが期待されるロードカービジネスは、世界中にサービス拠点を網羅できない小規模メーカーにとって、販売後の責任を含め投資やリスクが大きすぎる。一方、サーキット専用車であれば、走る前の準備や点検はオーナーやメカニックの“自己責任”が基本だ。もちろんメーカーは無責任というわけでなく、パーツの供給やメンテナンスシステムのバックアップという本部サポート機能に100%集中できる。

今や彼らは累計生産3000台を超え、世界23ヵ国に33ものディーラー網を持つ英国最大級のレーシングカー・マニュファクチュラーだ。しかし、その本質は製造・販売に留まらない。ネットワークにはレースチームやレーシングスクール、サーキット、さらにはカントリークラブまでが含まれ、車両の保管からドライバーコーチング、レース参戦までをワンストップで提供する。つまりラディカルは、世界中に濃密な「サーキット・コミュニティ」を作っているのだ。

GT3マシンのようなメーカー間の際限ない性能開発競争(それはコストとして顧客に跳ね返る)とは一線を画し、自社完結のワンメイクレース「ラディカル・カップ」でルールと開発の速度をコントロールする。例えば定番マシンとなった「SR3」は既存ユーザーを置き去りにしないよう、少しずつアップデートを重ね熟成されてきた。

カーボンファイバーの領域を限定し、鋼管スペースフレーム構造にこだわるのも、クラッシュ時の交換コストを抑えると同時に、走行中のドライバーに明確なフィードバックを与えるという実利的な選択でもあった。「最新マテリアルだから無条件に使う」のではない。「フェラーリやポルシェと同じことをする必要はない。彼らはすでにそれをやっている」。経営陣のそんな言葉に、製品への確固たる自信を垣間見た。

濃密なクラフトマンシップの源泉

「SR1 XXR」
「SR1 XXR」

本社から少し離れたピーターバラの工場に足を踏み入れれば、その哲学はより鮮明に像を結ぶ。大量生産のオートメーションとは無縁の、濃密なクラフトマンシップが支配する空間がそこにはあった。

コンポジットの成形から部品のピッキング、サブアセンブリー、スペースフレームシャシー製作、エンジンテスト、最終的なアライメントのセットアップまで、1台のクルマが「走れる状態」になる全てのプロセスが、小さなファクトリー内で密接につながっている。職人たちは、自分が手作業で組んだコンポーネントがそのまま出荷され、世界のサーキットを走ることに強い誇りを持っていた。彼らは「レーシングカーだから壊れて当然」とは考えていない。だからこそ人間の目と手による最終確認、コーナーウェイトやトー、キャンバーの徹底的な初期セットアップに手間を惜しまないのだ。

RPE(ラディカル・パフォーマンス・エンジンズ)が手掛ける「スズキ ハヤブサ」由来の心臓部も同様だ。単なる流用ではない。ドライサンプ化をはじめクランクやシリンダーヘッドまで独自のモディファイが施されている。

定期的に訪れるオーナーカーのエンジンメンテナンスでも、アワーメーターの数字だけで機械的に全ての消耗品を交換することはない。エンジンを開け、職人の目と手で状態をチェックした上で必要なリビルドを行う。数字によるデータ管理と熟練工による判断の融合。ラディカルが誇るクラフツマンシップ・クオリティの源泉がそこにある。

売上規模の拡大だけを目指してはいない。重要なのは「利益率」と「持続可能性」。顧客がクルマを1台買って終わり、ではなく、5年、10年、15年とラディカルの世界に留まり、次のモデルへと乗り換え、楽しみながら仲間とサーキットを転戦する。そんな強いロイヤルティの集積こそが、この会社の最大の財産であろう。

グローバルな双方向プラットフォームとして

ラディカル・ジャパンの榎本由香代表
ラディカル・ジャパンの榎本由香代表

2025年、香港に拠点を置くクラフト・バンブー・レーシング(Craft-Bamboo Racing)とのパートナーシップによって「ラディカル・ジャパン」が正式に発足した。「SR3 XXR」を中心に、本国同様の販売・技術・パーツ・レース体験を提供する体制がここ日本でも早期に整い、同時に「ラディカル・カップ・ジャパン」も2027年から計画されている。

「日本には優れたサーキットと深いモータースポーツ文化があり、家族を連れて楽しめる旅行先としての魅力も大きい」、と代表の榎本由香氏は語る。彼女はサーキットでのドライビングをピュアに愛する、カーガイならぬ“カーガール”だ。スーパーカーやレーシングカーでサーキットを楽しんでいるうちにラディカルに辿り着き、マシンのみならず、世界のおけるレースコミニティ作りの実績に惚れ込んで、日本で代理店を立ち上げた。

海外の顧客からも「日本でレースをしたい」という声がすでに上がっているという(ちなみに、世界各国で行われるレースやファイナルシリーズにもスポット参戦できるという!)。日本を単なる消費市場としてではなく、内側にある日本の技術や人材を外の世界へ送り出し、同時に海外の熱狂を呼び込む「グローバルな双方向プラットフォーム」として位置づける。それが由香さん(ラディカル社内ではファーストネームで呼び合うらしい)の夢であり、野望だ。

ロードカーコンバージョン仕様の導入も検討

「SR1 XXR」
「SR1 XXR」

ちなみに「SR1 XXR」に関しては、日本の独特なスポーツカー市場を考慮して、日本向けに“ロードカーコンバージョン”仕様の開発と導入を検討中であるという。そうなれば、日本におけるブランドの認知はさらに上がることだろう。

ラディカルが生み出しているのは、単なるブランドのステータスではない。軽く、シンプルな構造で、ドライバーの操作に忠実な、走る愉しさを邪魔するものをすべて削ぎ落とした純粋なドライビングマシーン。「運転する」という行為そのものに、ただただ、没入させてくれるパートナーである。

30年もの間、ブレずに磨き続けられたそのシンプルな強さが、日本のカーガイ&カーガールたちを熱狂させる日も、意外に近いのではないかと思った。

PHOTO/Andrew Coles、Radical Motorsport

ラディカル SR1 XXRと著者

「ラディカル SR1 XXR」にドニントンパークで試乗「まさに究極のドライビング体験」

2025年、日本に上陸した英国発のレーシングカーブランド「Radical(ラディカル)」。ピュアレーシングカーでありながら手の届きやすい価格が魅力のひとつだが、母国のイギリスのドニントンパークでもっともエントリーグレードの「SR1 XXR」に西川淳が試乗した。