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Toyota bZ4X
トヨタが示す生活密着型バッテリーEVへの回答
2030年までに30車種のバッテリーEVを発売するという一大プレゼンテーションを行ったトヨタ。その先陣を切る形で「bZ4X」プロトタイプの試乗会が、袖ケ浦フォレストレースウェイで開催された。
ご存じの通りbZ4Xはスバルとの協業で開発されたBEVであり、スバル版は「ソルテラ」となる。さらに言うとトヨタはここから「bZ」シリーズを、2023年までに4車種発売するとアナウンスしている。
さてそんなトヨタ版のbZ4Xだが、まずその見た目はなかなかのイケメンだ。ここ数年トヨタのデザインは美しさよりも個性にウエイトを置いているように見えるが、bZ4Xはそうしたテイストを汲みつつも、カラーリング次第では落ち着いた雰囲気を表現できている。
前衛的なスタイリングなどデザインには賛否がわかれるか
その端々をキャラクターラインできりりと引き締めつつも、ボディのシェイプ自体にはRAV4のようなラギッドさはない。LED化されたヘッドライトは上端をカバーリングして目ヂカラを抑え、バンパーも冷却グリルを下端に下げることで、敢えての「能面化」で未来感を強調している。
目尻までカバーするフロントの樹脂製フェンダーアーチは賛否の分かれるところだが、言ってみればこれが唯一の個性だろう。そしてこうしたデザインが可能になった理由こそ、bZ4Xがフロントコンパートメントにエンジンを搭載しない、そして空気抵抗による電費ロスが切実な、ピュアEVだからである。
そんな前衛的でイケメンのbZ4Xはしかし、走らせてみるとかなり庶民派のEVだった。もっとも今回は試乗ステージが全開率の高いサーキットだったということもあるが、そのルックスからジャガー I-PACEのような、パフォーマンス型のEVを期待してはいけない。
航続可能距離はWLTCモードで500km超を計上
最初に走らせたのは、フロントに150kW(204ps)のモーターを1機搭載するFWDモデル。そしてバッテリーの都合上許されたのは、アウト/インラップを含め4ラップという短い周回数だった。ピットレーンをやり過ごし、アクセルを床まで踏み込んで見たがその加速は、いわゆるヘッドトス(頭をヘッドレストに打ちつける状況)を強いられるような特性ではない。出足こそリニアだが、0-100km/h加速8.4秒という数値が示す通りの普通さである。
その最たる要因は、71.4kWhというリチウムイオンバッテリーの容量だろう。さらに言えば同社のRAV4よりも少し大きなボディ(全長で95mm、全幅で20mm、ホイールベースに至っては160mmも長く、対して全高は60mm低い。車重はFWDで2005kg)が、加速力を奪っている。
制御的には一瞬でもパワーを解放しさえすれば、鋭いダッシュは演出可能なはず。しかしそうした加速を敢えて与えぬことでトヨタは、bZ4Xのキャラクターを示唆していると筆者は感じた。それは、コンパクトなバッテリーを搭載することで価格の上昇を抑え、満充電で約500km超(FWD:559km、4WD:540km)の航続を可能とする、生活密着型EVというキャラクターだ。
控えめなバッテリー容量でもガソリン車並みの日常性を追求
そのためにトヨタはバッテリーを素早く適正温度領域下で稼働させる水冷式冷却システムを今回採用した。またバッテリーの耐久性も10年間の使用で90%の性能保持を目標に置いている。さらに言えばステアリングやシートだけでなく、ステアリングコラム下にも輻射ヒーターを用意することで、冬場に電力を大量消費する暖房の使用を極力減らす工夫を施した(これで冬場が寒くないのかは、不明だ)。
あの手この手でEV最大の課題となる航続距離を可能な限り伸ばし、現状のガソリン車に近づく日常性を与える。それが現在トヨタが一番に求める性能であり、ここにアトラクション的なロケット加速の入り込む余地がなくても、何ら不思議はないのである。
対してそのハンドリングは、今時のトヨタらしい、スッキリ穏やかな味付けとなっていた。スカットルの奥側に配置された液晶メーターは小径ステアリングの上から覗く位置関係となり、その運転感覚はプジョーの「i-Cockpit」に似ている。ステアリング位置が高めなドライバーはこの低いポジションに慣れが必要だが、ギヤ比は適度にクイックだから直感的な運転に頭を切り替えられれば、それが結構快適だと思えるはずだ。
足まわりは熟成の要アリか?
EVならではの低重心さ、前軸周りの慣性の少なさは回頭性の良さに大きく貢献している。今回はフラットな路面だが、きっと街中でも乗り心地はよいだろう。ただし快適性を重視して足まわりをソフトに仕上げているからだろう、レーンチェンジを模した進路変更や、大きくスラロームする場面などでは、ややその重量を抑えきれていない一面が垣間見えた。また直進時にも、フロントがビシッと定まらない印象を持った。
これにはストラットサスの横剛性不足も起因しているように思えるが、ダンパーやブッシュの剛性をもう少し引き上げるだけでも解決できるレベルだとも感じた。
またこの柔らか目な足周りと、回生主体のブレーキによって、きちんとブレーキを踏み込んだときの制動Gの立ち上がりが遅く感じる。かつ油圧ブレーキ主導になったとき、パッドが急激にバイトする効き方が気になった。まだプロトタイプの側面もあるが、つまりそれだけトヨタは、電気の回生に重きを置いているのだろう。こうした部分の改善は、市販車になった段階で確かめたい。
回生エネルギーの利用法はトヨタとスバルで解釈が異なる
ちなみにbZ4Xのセンターコンソールには「回生ブースト」ボタンがあり、これでアクセルオフ時に最大0.15Gの減速Gを得られるとのことだったが、コース上ではあまりその減速効果は感じられなかった。むしろコース外で移動した時の方が強い減速Gを感じたから、これは街中のような低速走行で効果的な仕立てなのだろう。対してスバル版「ソルテラ」はステアリングパドルでこの回生ブレーキを段階的に区切り、積極利用しているのが考え方の違いとなる。
かたや前後に80kW(109ps:システム出力は218ps)のモーターを2機備える4WDモデルは、FWDモデルの足りない部分を、上手に補うことができていた。まず前述した直進性は、後輪からのトルクアシストによってだろうその安定性がきちんと保たれていた。
またコーナーにおいては、回頭性の良さと安定性の高さを、高い次元で巧みにバランスさせていた。特に感心したのはタイヤが滑り出すような過渡領域でも、前後のモーターがトルクを微細に制御して、そのスタビリティを静かにコントロールしてくれたことだ。もちろん緊急回避時はこの限りではないだろうが、突然ガツン!と無粋なブレーキを効かせて車体を安定させるのではなく、その回頭性を維持しながら安定化を図ってくれる。この緻密さこそが、モーター式4WDのメリットである。
選択すべきはFWDか4WDか?
そしてトヨタは今後、ここからさらに完全なステア・バイ・ワイヤを用いた可変ギヤレシオのステアリング「ワン・モーション・グリップ」を投入して、そのハンドリング性能を高めていくという。その加速力においても4WDモデルは、0-100km/h加速7.7秒という数字が示す通り、FWDモデルよりチョットだけ速い。つまり走りだけで考えるなら、迷わず4WDモデルがお勧めである。
しかし試乗でアウト/インラップが1周減らされていたことからも判る通り、バッテリー容量に対してシステム出力が大きくなるため、航続距離はこちらの方が460km前後と当然短くなる。日常使いだけで考えれば、たとえ7割がたと考えてもそれは十分な足の長さだが、それならいっそ、より安価なFWDモデルでもよいか?
bZ4Xは小さなバッテリーを搭載することで、結果的にプレミアム性よりも実用性にフォーカスした分だけ、上級モデルを選ぶ決定的な理由が欠けるような気もする。ともあれそれもこれも、リアルロードでの試乗を経てから判断することになるだろう。
気になる発売は、今年の夏ごろと言われている。イギリスでは既にその価格も発表され、FWDモデルが邦貨にして約600万円後半からとなっているようだが、この地は割高だから日本仕様はもっと安くなるだろう(編注:発売日は5月12日、税込車両販売価格はFWD:600万円/4WD:650万円と後日発表された)。とはいえ日本でbZ4Xは、当面「KINT」のみの提供となる。電気自動車をサブスクでリリースし、消費者のライフスタイルに合うかどうかをまずは試してもらおうというのが、トヨタの提案なのだと思う。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
【SPECIFACATIONS】
トヨタ bZ4X FWD〈4WD〉
ボディサイズ:全長4690 全幅1860 全高1650mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:1920〈2010〉kg
モーター:交流同期電動機
最高システム出力:150〈160〉kW
最大システムトルク:266〈337〉Nm
駆動用種電池:リチウムイオン電池
総電力:71.4kWh
サスペンション:前マクファーソンストラット 後ダブルウィッシュボーン
航続距離(WLTCモード):559〈540〉km
車両本体価格(税込):600〈650〉万円
【問い合わせ】
トヨタ自動車お客様相談センター
TEL 0800-700-7700
・トヨタ自動車 公式サイト
https://toyota.jp