ポルシェが見せる電動化の未来は「1000PS超の出力よりも曲がりと止まり」こそ魅力

1000PS超の電動レーシングポルシェ「GT4 eパフォーマンス」に同乗試乗「色々と破天荒なのと感電注意」

718ケイマンGT4よりも14cmワイドな718 ケイマン GT4 eパフォーマンス。フロントとリヤアクスルに永久磁石同期型モーターを2基搭載するAWDレーシングカーである。
718ケイマンGT4よりも14cmワイドな718 ケイマン GT4 eパフォーマンス。フロントとリヤアクスルに永久磁石同期型モーターを2基搭載するAWDレーシングカーである。
ポルシェの最新電動レーシングカー「718 ケイマン GT4 eパフォーマンス」に同乗試乗した。2年後にはカスタマー向けレーシングカーとして提供される予定もあるという、現実的な未来の電動レーサーだ。800kW(1088PS)という驚愕の性能をサーキットで無慈悲なまでに体験したその印象とは?

Porsche GT4 e-Performance

見た目は718ケイマンだが中身はAWD

ボディには天然繊維複合素材が使用され、同等の合成素材を使用した場合よりCO2排出量を大幅に削減したという。

イタリアのPORSCHE EXPERIENCE CENTER(PEC)フランタコルチャでメディア向けワークショップが開催された。そこではポルシェの様々な電動化への取り組みが紹介されていたが、目玉は「718 ケイマン GT4 eパフォーマンス」の同乗試乗である。その驚くべき電動レーシングカーの助手席体験を報告したい。

718 ケイマン GT4 eパフォーマンスは、2021年IAAモビリティに登場したコンセプトスタディ「ミッションR」から様々な電動技術が流用されている。見た目はちょっとワイドな718ケイマンGT4だが、フロントとリヤアクスルに永久磁石同期型モーター(PESM)を2基搭載するAWDレーシングカーである。

クオリファイモードではシステム最高出力800kW(1088PS)を発揮。カレラカップの標準的なレース時間に相当する30分間でも450kW(612PS)という安定した出力で走行を続けるという。将来的にはカスタマー向け電動GTレーシングカーとしての販売を見込んでいるというので、992型911GT3 カップに匹敵する性能目標は必然だったのだろう。

システム最高出力1000PS超に戦慄

シャシーはカスタマー向けレーシングカーの「718 ケイマン GT4 クラブスポーツ」をベースに開発されているが、911GT3Rと同サイズのミシュラン製18インチレーシングタイヤを装着するため、ベースのGT4 クラブスポーツと比較して14cmフェンダーが拡大されている。ボディには天然繊維複合素材が使用され、同等の合成素材を使用した場合よりCO2排出量を大幅に削減し、さらに試験的にリサイクルされたカーボンファイバーも導入されたという。なお現状で718GT4 eパフォーマンスはこのプロトタイプ1台しか存在しておらず、ミシュランはこの個体のためだけに専用タイヤを開発したことにポルシェのエンジニアは敬意を表していた。

搭載されるバッテリー容量は80kWにもなり、懸案の車重は約1500kgという。これは718ケイマンGTS4.0(1405kg)よりも重いが911カレラT(1580kg)よりは軽量だ。バッテリーはボンネットフードに「+」「−」が記されているようにフロントと、さらにリヤにも搭載される。それぞれ40kWhで結果、重量配分は52対48になるという。見た目は718ケイマンGT4クラブスポーツに近いが、その中身は1000PSを発揮するAWDレーシングカーということに戦慄を覚える。

なにしろ900Vの高電圧BEVレーシングカーである。同乗試乗の前に通常のレーシングカー同乗ではあまりない脱出方法のレクチャーが行われた。万が一の脱出方法は独特だ。漏電や電圧が制御できないなど緊急事態に陥ると、室内のセンターに備わるディスプレイが赤く警告を発する。その場合、普通に下りてはいけない。クルマに触れながら地面に足を降ろすと大電力が体を通ってアースしてしまうのだ。よって緊急時の下車の際にはまずクルマから飛び降りる体勢をとって、いっきに飛び離れることが求められる。といっても、そこはレーシングカーなのでロールケージをかいくぐり降りる体勢を作るのも一苦労だ。以上あまり現実的ではないが今後流行するかもしれない電動レーシングカーの豆知識である。

2段ロケット点火でのけぞる

緊急脱出レクチャーの後、ふたたび助手席に潜り込むと、バケットシートに6点ハーネスでくくりつけられる。室内は最新世代カップカーとなる992型911GT3カップのメーターなど最新世代のレーシングカーの仕立てだ。助手席の足元には大型のバッテリーが配置されており床が高い。その割に身長2m以上の人でも余裕で収まるほどフットレストは遠く、小柄な筆者は足が届かず踏ん張ることができない。

いよいよピットアウト。レースカットのトランスミッションの唸り音はGT3カップのそれに似ている。ピットレーン速度制限から解放された瞬間の加速はまさにカタパルトのようだ。この日はあいにく朝の雨が路面を濡らしたままでレインタイヤを装着していたが、恐るべきAWDの加速である。今回の同乗は1周2.5kmのPECフランチャコルタのレーシングコースを2周する。

タイトコーナーの多いコースだが、ドライバーのクラウス・バッハラー(Klaus BACHLER)による的確な操作で一瞬の隙も無く前後、左右Gが襲いかかってくる。1周目は450kWのレースモード、2周目は600kWのクオリファイモードと聞いていたが、タイヤが暖まった1周目のバックストレート手前で「クオリファイモードにしますよ」とクラウスさんがダイヤルをひねると第2段ロケットが待っていた。試乗に際してレーシングスーツとヘルメット、さらにHANSの着用を求められ「そんな大げさな」と思ったが、間違いなく絶対に必要だし、あった方が安心だ。

そして、その第2段ロケットの加速にも驚いたが、車内の静かさにも驚かされた。なにしろクラウスさんの声が聞こえたのだから。同乗試乗の順番待ちの間見ていると、GT4 eパフォーマンスの走行音は甲高いモーター音(とギアの音)で、エンジニアに「悪魔の雄叫びのよう」と評したら苦笑いされたが、ともかく車内の騒々しさを覚悟していた。しかし、予想よりも車内ははるかに静かだったことを報告したい。かくしてほんの2分30秒の同乗試乗は終わった。

電動化ポルシェの新時代に期待

搭載されるバッテリーは80kWh。前後にそれぞれ40kWhで重量配分は52対48になるという。

ウエットのためこの日のタイムは参考にならないが、ドライでのベストラップは1分11秒だという。ここでの911GT3 カップのベストが1分8秒と言うから、わずかに遅れるくらいだ。むしろウエットの状況次第ではAWDのGT4 eパフォーマンスの方がタイムはいいかもしれない。さらにワイドなタイヤとトレッドがもたらすコーナリングスピードと強烈な加速は期待をはるかに超える走行性能だった。ブレーキについては回生ブレーキを使用できるので、GT4 クラブスポーツよりも小径というが制動能力はまったく問題ないし、軽量化にも貢献するだろう。

今回の同乗試乗では多くのメディアが列をなしており、ピットにはハイパーチャージャー急速充電機が完備されていた。900Vのポルシェターボチャージャーによって、わずか15分で残電量5%から80%までバッテリーを充電することが可能というが、ドライバーを務めてくれるクラウスさんは、はたして何周するのか……? 心配になってしまった。

718 ケイマン GT4 eパフォーマンスは今年の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」でデモ走行したが、来年には日本でもその驚くべき性能を披露する予定があるという。電動化はAWDという駆動方式だけではなく、前後左右のトルク配分も容易になるメリットがある。つまり電動化はこれまでにないほど「曲がる」「止まる」「加速する」をきめ細かにできる可能性を含んでいる。電気にアレルギーのある守旧派のポルシェファン、あるいは現在カレラカップに参戦しているポルシェドライバー諸氏も本格的な電動化ポルシェの新時代にぜひ期待してほしい。

ポルシェ 718 ケイマン GT4 eパフォーマンスの走行シーン

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吉岡卓朗 近影

吉岡卓朗