最新耐久レーシングカー「ポルシェ 963」の全貌

ポルシェ918に搭載されたV8に最新ハイブリッドを組み合わせた「963の最新テクノロジー」とは?【動画】

IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権開幕戦デイトナ24時間でデビューを飾った、ポルシェ 963。
デビュー戦デイトナ24時間は、様々なトラブルに見舞われ、7号車の14位が最上位と、ほろ苦いデビューとなったポルシェ 963。
2020年末、ポルシェは2023年シーズンからFIA世界耐久選手権(WEC)と北米のIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権(IMSA)へのワークス参戦を発表。それから約2年、ハイブリッドパワートレインを搭載した最新プロトタイプレーシングカー「ポルシェ 963」が完成。IMSA開幕戦デイトナ24時間レースでデビューを飾った 2台の963は、予選2番手からスタートしたものの、厳しい戦いを強いられることになった。

Porsche 963

耐久レースで偉大な歴史を刻んできたポルシェ

IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権開幕戦デイトナ24時間でデビューを飾った、ポルシェ 963。
ポルシェ917、956、962、919ハイブリッドといったマシンによって、耐久レースで積み上げられてきた歴史を継承する963。このニューマシンにはル・マン24時間レースでの20勝目が期待されている。

WEC/IMSAへの参戦発表から、わずか5ヵ月も経たないうちに、ポルシェはチーム・ペンスキーとのパートナーシップを発表。ポルシェ・ワークスとしてスポーツカーレースを戦う「ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ・チーム(Porsche Penske Motorsport team)」が誕生した。

チームはヨーロッパと北米の2拠点で活動。IMSAを戦うのはペンスキーの本拠地であるノースカロライナ州モーズビル、WECチームの運営はドイツ・マンハイムで行われる。2022年1月、新型プロトタイプレーシングカー「ポルシェ 963」での開発・テストが開始され、その1年後のデイトナ24時間レースで実戦デビューを飾った。

963は4.6リッターV型8気筒ツインターボにハイブリッドパワートレインを搭載。2023年からWECとIMSAに導入される「LMDh車両規程」に則って開発された。ポルシェは耐久レースにおける偉大な歴史を持っており、歴代プロトタイプレーシングカーと同様、ル・マン24時間レース制覇を期待されている。

LMP2シャシーはマルチマティックが供給

IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権開幕戦デイトナ24時間でデビューを飾った、ポルシェ 963。
LMDh規定では、LMP2シャシーをベースにすることが義務付けられており、ポルシェはパートナーとしてカナダのマルチマティックを選んだ。

LMDh規定では、LMP2シャシーをベースにすることが規定されている。LMP2シャシーを持つコンストラクターは、マルチマティック、オレカ、ダラーラ、リジェの4社のみ。ポルシェは綿密な評価を行った結果、カナダのマルチマティックとの協力関係を締結。カナダのトロントに本拠地を置くマルチマティックは、ポルシェ 911 RSR、911 GT3 R、911 GT3 カップにもレーシングコンポーネントを供給している。

963のデザインは、現代的なフォルムと歴史的なルーツが融合。フロントセクションは、956と962のソフトシェイプを彷彿とさせ、連続するイルミネーションストリップは、タイプ992の特徴をフィーチャーしている。ポルシェ 963のテクニカル・プロジェクト・マネージャーを務めるクリスチャン・エフリグは、LMDh規定について次のように説明を加えた。

「LMDh規定は、私たちにパフォーマンスの可能性を提示しています。ダウンフォースとラップタイムに関して、レギュレーションで定められた性能の範囲内に収まっていなければなりません。これはシリーズ運営団体がバランス・オブ・パフォーマンス(BoP)を用いて、異なるメーカーの車両の戦闘力を均等化する唯一の方法なのです。これによりイコールコンディションとスリリングなレースが保証されています」

BoPは、最低重量、パワーユニットの最高回転数、1スティントあたりのエネルギー消費量などの要素によって厳格に制限。「BoPの性能枠に収めるのは簡単ではありません。また、ポルシェらしい外観を実現することも重要です。効率的なエアロダイナミクスと、ひと目でわかるデザインの完璧な妥協点を見つけるのはかなり困難でした」と、エフリグは付け加えた。

918スパイダーの4.6リッターV8をベースエンジンに選択

ポルシェ 963に搭載される4.6リッターV型8気筒ツインターボ+ハイブリッドシステム。
ハイブリッドパワートレインを組み合わせるベースエンジンに選ばれたのは、ハイブリッドスーパースポーツ918 スパイダーに搭載されていた4.6リッターV型8気筒だ。

ハイブリッドシステムとギヤボックスは、コスト制限により共通化の使用が義務付けられているものの、ベースとなる内燃機関に関しては高い自由度が認められている。最高出力が707PS(520kW)、最低重量は周辺機器を含めて180kgに制限。パワートレイン担当ヘッドエンジニアのシュテファン・モーザーは、ポルシェ 918 スパイダーに搭載されていた4.6リッターV型8気筒エンジンを選択した。 

2013年9月にデビューしたハイブリッドスーパースポーツの918は、ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェにおいて、7分を破った最初の市販車両であり、パワフルなV8はレーシングカーのベースエンジンとして優れた耐久性と堅牢さを備えていた。モーザーは、10年以上も前のエンジンを選択した理由を次のように説明する。

「このエンジンはフラット・クランクシャフトを採用し、ショートストロークが特徴となります。そのため、エンジンを低い位置に搭載できました。それによる低重心化に加えて、サスペンションやギヤボックスを理想的なポジションに配置することが可能になりました。その基本的剛性が高く、これもレースエンジンには最適だったのです」

ターボ化とハイブリッドシステムの搭載

IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権開幕戦デイトナ24時間でデビューを飾った、ポルシェ 963。
918の4.6リッターV型8気筒エンジンをツインターボ化し、ボッシュとウィリアムズ・アドバンスド・エンジニアリングから供給された共通ハイブリッドシステムが搭載された。

918 スパイダーに搭載されていたのは、ターボチャージャーを持たない高効率の自然吸気エンジン。963にはオランダのメーカーであるヴァン・デア・リー(Van der Lee)製ターボチャージャー2基が取り付けられた。

「このパワーユニットは自然吸気エンジンとしての基本特性を維持し、スロットルレスポンスが素早いのが美点です。比較的低いブースト圧でもすぐにトルクが立ち上がるので、いわゆるターボラグもありません。この市販エンジンをターボ仕様に改造するのは簡単でした。そして、この4.6リッターエンジンのもうひとつの美点は、918 スパイダーにおいて、ポルシェはすでにハイブリッドシステムと連動するようにV8を設計していたことにあります」とモーザー。

共通ハイブリッドコンポーネントは、ボッシュ(モータージェネレーターユニット、エレクトロニクス、ソフトウェア)と、ウィリアムズ・アドバンスド・エンジニアリング(高電圧バッテリー)から供給。モーター・ジェネレーター・ユニット(MGU)は、リヤアクスルから回生し、Xトラック製ギヤボックスと直接連動して作動する。

ほろ苦い実戦デビューとなったポルシェ 936だが、初戦での技術的なフィードバックを得て、必ず近い将来、勝利を狙える存在になることは間違い無いだろう。

デイトナ24時間デビューを飾ったポルシェ 963を動画でチェック!

LMDhクラスに参戦するポルシェ963。このほかキャデラックV-LMDhが参戦するが、2024年にはBMWやランボルギーニなどもエントリーを予定している。

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ゲンロクWeb編集部

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