無敵のグループCポルシェ、その歴史を振り返る

グループCの40周年でレジェンド達が明らかにしたポルシェ956、962の驚くべき開発秘話

2022年のヒストリックカー界最大のトピックといえば、グループCの40周年に尽きる。4月のグッドウッド・メンバーズ・ミーティングを皮切りに、ル・マン・クラシックなど様々なイベントで特集が組まれる中、その生みの親とも言えるポルシェがミュージアムの総力を結集したワークショップをドイツ・ライプツィヒのエクスペリエンス・センターで行った。

40 Years of Group C

レジェンドと振り返る40年の軌跡

さる8月9日、ポルシェ・ミュージアムは『40 Years of Group C』と名付けたポルシェ956の40周年を祝うワークショップを開催した。

会場となったポルシェ・エクスペリエンス・センター・ライプツィヒで、野太いエキゾースト・ノートをあげながら我々を待ち構えていたのは、1982年のル・マン24時間で優勝した栄光の956-001をはじめとする、ミュージアムが所有する6台の956と962。

それだけでも眼福モノなのだが、ゲストとして当時のワークスを支えたデレック・ベル、ジャッキー・イクス、ハンス-ヨアヒム・シュトゥックに加え、クレマーやヨーストで962Cをドライブした経験をもつベルント・シュナイダー、そして2017年に919ハイブリッドでル・マンを制したティモ・ベルンハルトが参加。彼らによる956、962のデモ走行のほか、当時のエンジン担当エンジニアであるヘルムート・シュミッド、レース部門の責任者であったノルベルト・ジンガーも加わったトークセッションも用意されていたのである。

ポルシェ956は、ポルシェ史上初めてアルミ・モノコック・シャシーとグラウンドエフェクトを採用したレーシングマシンとして知られている。82歳になるジンガーは当時のことを鮮明に覚えていて、未知のモノコックを学ぶために、まず航空機会社に出向き2時間の講習を受けたエピソードを披露してくれたが、驚くことにグラウンドエフェクトについては、少しリヤ寄りにバランスを変えただけで、最初から所定の性能を発揮したという。

進化し続けた956

では乗った印象はどうなのか? 今回956-005をドライブしたヨッヘン・マスに、当時の日本人ドライバーたちが956のハンドルの重さに辟易としたという話から振ってみた。

「確かに。コツはフォーミュラカーのようなストレートアームではなくラリーカーのようにハンドルを抱え込んでドライブすることだ。この005はショートテールで素晴らしいハンドリングだが、ル・マン用のロングテールはアンダーステアが強くてね。同じ956でもハンドリングは違っていた」

ちなみにマスといえば1988年にザウバー・メルセデスへと移籍し1989年にはC9でル・マン優勝を果たした経験の持ち主でもある。

「最大の違いはザウバーがカーボンモノコックだったことだ。956のアルミ・モノコックはしなやかで乗りやすかったが、10回も走ると緩んでハンドリングが変わってしまうのが欠点だった。」

出力と燃費のせめぎ合い

もうひとつ興味深かったのはエンジンの話だ。燃費では決して有利とはいえない水空冷フラット6ターボが強かったのは、早くからエンジン・マネジメントに電子制御を採用したことだとシュミッドは振り返る。

「マクラーレンTAGターボのボッシュMP1.7を我々のクルマにも使えるようになってからは、フレキシブルにセッティングができるようになった。あと特筆すべきは、レースでは必ずペースカーが入るので、ボタンを押すと最適なミクスチャーになる“ペースカー・セットアップ”を採用していたことだね。これで随分と燃料が節約できたんだ」

ジンガーによると、このような改良を絶えず加えた結果、1982年から85年までの間で7%出力が向上したのに対し、23%の燃費向上を実現したという。

「テストをしなければ、このような成功はなかった。それはここにいるドライバーのおかげだ。というのも今ならテレメトリーのデータを信じればいいが、当時は彼らのインプレッションしか情報がなかった。彼らは改良を加えると非常に的確な印象を語ってくれた。だから正しい方向に進めた。改めて感謝するよ」

ポルシェは過ちを犯さない?

このほかにも1冊の本ができるほど様々な話を聞くことができたのだが、中でも当時のポルシェのレースに対する“熱さ”を象徴するのが、ベルが最後に披露したエピソードだ。

「1981年、ジャッキー・イクスと936でル・マンに勝った後、10月にヴァイザッハでテクニカル・ディレクターのヘルムート・ポッドと将来について話したんだ。そこでポッドから“ベル、来年はグループCをやるよ”って言われた。そこからマシンの特徴を説明されたんだが“まずはモノコック・シャシー。でもまだ我々はやったことがない。続いてグランドエフェクト。これも未経験だ。あとグランドエフェクトを実現するためにはエンジンを傾けて載せる必要がある。これも未経験だ”それで“乗ってみるか?”と聞くんだよ(笑)。でも彼は最後にこう付け加えることを忘れなかった。“我々はこれまで過ちを犯したことはない。それがポルシェだ”ってね。それで私は契約書にサインしたのさ!」

REPORT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/ポルシェジャパン、藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
MAGAZINE/GENROQ 2022年 10月号

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藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…