歴史から紐解くブランドの本質【トヨタ編】

クルマ作りの姿勢と実績がトヨタのブランド【歴史に見るブランドの本質 Vol.17】

トヨペット・クラウンRS型。
トヨペット・クラウンRS型。
自動車メーカーは単に商品を売るだけではなく、その歴史やブランドをクルマに載せて売っている。しかし、イメージを確固たるものにする道のりは決して容易ではない。本連載では各メーカーの歴史から、そのブランドを考察する。

世界一の自動車ブランド

市バスとして親しまれた通称「円太郎バス」。
市バスとして親しまれた通称「円太郎バス」。

インターブランドという会社が「ベスト・グローバル・ブランド100」というブランド力のランキングを毎年発表している。自動車部門のトップはトヨタで、2022年は総合で6位にランクされている。トヨタの自動車部門1位は2004年以降18年連続である。このようにトヨタは世界で最もブランド力のある自動車会社として高く評価されている。

このようなブランド力はいかに形成されてきたのか。トヨタ自動車は1933年に豊田自動織機製作所で二代目の豊田喜一郎が自動車の開発に乗り出したのが始まりで、1937年に自動車部門が独立し、トヨタ自動車工業株式会社となった。当初は生産のほとんどがトラックだった。

乗用車の生産に本格的に乗り出すのは第二次世界大戦後のことである。他社が海外メーカーと提携して乗用車生産に乗り出す中、トヨタは独自開発にこだわった。当初はトラックのシャーシをベースとしたものだったが、本格的な乗用車として初めて開発されたのが1955年発売のクラウンである。

手ごろな価格で高品質

1979年に行われた田原工場ハイラックス1号車ラインオフ式。
1979年に行われた田原工場ハイラックス1号車ラインオフ式。

トヨタの車作りの考え方のベースとなっている社是が「日々改善」と「よい品よい考」であり、その考え方に基づいて生まれたのが「リーン生産方式」と「ジャストインタイム(JIT)」である。その目的は徹底的な無駄の排除で、在庫を無くし、作業の無駄を無くし、不良品を無くすことにある。

その結果、トヨタの車は手ごろな価格ながら極めて高品質となり、故障の少なさ、耐久性の高さは世界的に評価されることとなった。条件が厳しいエリアほどその傾向は強く、例えば中東ではレクサスは砂嵐の中、高速で安心して走れる唯一の高級車と言われているし、中東のテロリスト集団が好んで使っているのはハイラックスである。

極地に向かう探検隊に選ばれるのはランドローバーでもGクラスでもなくランドクルーザーである。JDパワーの調査でもトヨタは高い評価を得続けている。普通の人が自動車を買うに当たって「安心・信頼」ほど重要なブランドイメージはないと考えられるが、そのイメージでトヨタは抜きん出ているのである。

トヨタにブランド戦略がない理由

もうひとつ、トヨタのブランド力が全世界的に高い理由がある。これも社是の「現地現物」に由来する。現地現物はもの作りの現場を重視するというところからスタートしているが、マーケティングにおいても現地のユーザーの声を何よりも重視する姿勢を貫いている。

それゆえ日本とアメリカとヨーロッパとアジアで売っている車種やデザインが大きく異なる。トヨタはそれぞれのマーケットで求められるものを提供しようとするので、どの地域でも多くの人に受け入れられやすいブランドとなるのだ。

トヨタのブランドイメージは個性やデザインや走り味で作られたものではない。そもそもトヨタにはブランド戦略というものはない。その製品作りの姿勢と実績こそが、トヨタの強力なブランドイメージを形成しているのだ。

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著者プロフィール

山崎 明 近影

山崎 明

1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。1989年スイスIMD MBA修了。…