エアレスタイヤ「ミシュラン アプティス」の目的とは何か?

パンクしない夢のタイヤ「ミシュラン アプティス」でメリットがあるのはドライバーだけではない?

ミシュランが開発したエアレスタイヤ「アプティス」。アジアではすでにDHL エクスプレスと提携し、2023年末までにDHL車約50台に装着されるという。
ミシュランが開発したエアレスタイヤ「アプティス」。アジアではすでにDHL エクスプレスと提携し、2023年末までにDHL車約50台に装着されるという。
誰もが夢見る「パンクしないタイヤ」。それには空気が不要なタイヤというのが、最も簡単に達成できそうな手段だ。ミシュランが発表したエアレスタイヤ「アプティス」は画期的タイヤとなるか? 大谷達也がミシュランの真の狙いを解説する。

エアレスタイヤの真の目的は

ミシュランのエアレスタイヤ「アプティス」は、La Posteの名で知られるフランス郵政公社が走らせる約40台の配達用車両に装着される。

6月27日、ヨーロッパで「空気が入っていないタイヤ」が路上を走り始めた。「アプティス」(UPTIS)と名付けられたこの画期的なタイヤを開発したのはフランスのミシュランで、La Posteの名で知られるフランス郵政公社が走らせる約40台の配達用車両に装着して使用される。なお、アプティスのように空気の入っていないタイヤは一般に「エアレスタイヤ」と呼ばれる。

ちなみにアジアでは今年1月10日から同じアプティスが実用に供されている。こちらは小荷物の輸送などで世界的に有名なDHL エクスプレスとの提携で実現したもので、2023年末までにアプティスを装着した約50台のDHL車両がシンガポールの公道を走り始める計画だ。

UPTISはUnique Puncture-proof Tire Systemの頭文字からとった名称で、意訳すれば「独自のパンク防止技術を備えたタイヤシステム」となるだろう。なお、フランス郵政公社とDHLエクスプレスの車両が装着しているタイヤは、いずれも現時点ではプロトタイプであることをお断りしておく。

パンクをしないタイヤ開発の狙い

私はいまのところアプティスの試作品と写真を見ただけなので、根拠のない推測は禁物だが、それにしても、まるでプラスチックのように見える空気の入っていないタイヤで、まともな乗り心地が確保できるとは到底思えない。なぜ、ミシュランはエアレスタイヤの開発に取り組んでいるのだろうか?

空気入りのタイヤでパンクを完全に防ぐのは難しい。そしてタイヤがパンクすれば、その修理や交換のために、車両を使えない時間が一定程度、発生する。つまり、フランス郵政公社やDHLエクスプレスのような配送業者にとって、タイヤのパンクは即座に業務の中断につながり、それはそのまま配達の遅れや人件費の増大を意味する。つまり、彼らにとって、パンクは是非とも避けたい事態なのだ。

いっぽう、「パンクをしないタイヤ」のメリットを享受するのは配送業者だけでなく、少し大きく捉えれば地球全体の役に立つともいえる。ミシュランの試算によると、まだ使えるはずのタイヤのうちの約20%が、パンクをきっかけに廃棄されているという。その本数は全世界で約2億本(200万t)にも達する模様。いうまでもなくタイヤは様々な素材から作られているので、寿命をまっとうせずに廃棄されたタイヤは素材、すなわち資源の無駄遣いといっても過言ではない。こうした無駄をなくしたいという思いが、ミシュランがアプティスを開発する重要な理由のひとつとなっているのだ。

ウエットグリップや燃費性能向上を目指して

エアレスタイヤの開発以外にも、ミシュランは地球環境保全のための活動に熱心に取り組んでいる。たとえば摩耗しても性能が低下しにくいタイヤの開発だ。昨年発売されたプライマシー4+には、優れたウエットブレーキング性能が長期間維持されるように、エバーグリップテクノロジーを搭載。これはトレッド下部にウエット性能の高いコンパウンドを使用し、摩耗が進んだ際にこのコンパウンドに含まれる成分がトレッド表面に滲み出るようにすることで、ウエットグリップ性能を向上させる技術だ。

また、先日行われたミシュランの試乗会では、eプライマシーとライバルメーカーの同等製品を残り2mmまで摩耗させたうえで日産サクラに装着。それぞれのウエットブレーキ性能を比較するテストを行ったが、制動距離だけでなく制動時の方向安定性、さらには発進のトラクション性能にも明確な差があることが確認できた。

燃費の低減に役立つ省燃費タイヤの開発にも積極的だ。その代表作がeプライマシーで、省燃費性能の指標となる転がり抵抗は、1992年に誕生したミシュラン・エナジーを100とすると、2021年に発売されたeプライマシーはすでに40を切るレベルまで改善。これをタイヤの転がり抵抗がエネルギー効率を大きく左右するBEVに装着した場合、35%に迫る電費の改善が見込まれるという。

タイヤによって生活を豊かに

フランス・ラドゥーのR&Dセンター。ここで日々、地球環境保全に向けた研究開発が行われている。

そのほかにもミシュランは新品タイヤの生産にサステナブル素材を多く用いることで持続可能な社会の実現に貢献しようとしている。たとえば、合成ゴムよりもサステナブルな天然ゴムの割合を増やしたり、再生カーボンブラック、ヒマワリ油、バイオ由来樹脂、籾殻性シリカ、再生スチールなどを用いて製作したタイヤを開発。すでにサステナブル素材を45%含んだ公道走行可能なタイヤの試作に成功している。なお、2050年にサステナブル素材100%のタイヤを実用化することが、ミシュランの現在の目標である。

タイヤのリサイクルにも取り組んでいる。一般的に1本のタイヤには200種類以上の素材が用いられているうえ、互いに強固に結びついているので、それらを分離してリサイクルするのは極めて困難とされる。しかし、ミシュランは様々なプロジェクトに参加したり、スタートアップと手を組むことでタイヤの生産に役立つ素材のリサイクルを実現しようとしている。

こうした活動を通じ、人類の暮らしをより豊かで永続的なものにすることがミシュランの究極的な目標。冒頭で紹介したアプティスにも、これと同じ思想が込められているのである。

ミシュランからウェットブレーキング性能を大幅に進化させた新たなプレミアムコンパクトタイヤ「PRIMACY 4+」登場

ミシュラン プライマシー 4+登場。履き替え時まで安全性能が長く続くプレミアムコンフォートタイヤ

日本ミシュランタイヤは、プレミアムコンフォートタイヤの新製品「MICHELIN PRIMAC…

キーワードで検索する

著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…