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Toyota Century
新型センチュリー、ここが◯
キャビンとラゲッジルームを完全に分離
「トヨタ センチュリー」そのものの紹介はもうすでに多くの媒体に掲載されているので、ここでは新型センチュリーの良かった点、気になった点をまとめてみたいと思います。
新型センチュリーは、いわゆるSUVのボディスタイルですが、他のSUVとは決定的に異なる部分があります。それはキャビン部分とラゲッジルームが完全に分断されていることです。後席の後ろには固定された壁と窓があり、リヤシート背もたれを前に倒して荷室を拡大する、ということもできません。
そもそも乗員が乗る部分と荷室が一体となった2BOXのスタイルは「高級車」にはふさわしくない形なのです。現代のSUVは驚くほど静かで快適ですが、それでもキャビンとラゲッジルームが一体という時点で、品格的にはセダンより劣ると言えます。
しかし新型センチュリーはSUVスタイルながら、キャビン部分とラゲッジルームを完全に分けました。これによって音や振動を抑制することができるし、何より後ろが抜けているよりも壁があった方が、乗員は落ち着いてくつろげます。今は世界のプレミアムブランドがSUVを出していますが、キャビンとラゲッジルームを完全に区切ったクルマはありません。唯一ロールス・ロイス・カリナンが後席とラゲッジルームの間にパーティションガラスを用意していますが、それでもオプション扱いです。
実用性よりもショーファードリブンカーとしての格を優先した新型センチュリーに、トヨタの本気を感じました。「ラゲッジルームが広げられないと不便じゃん」という人は、このクルマに乗るべきではないのです。
乗員は4人乗りのみ
新型センチュリーの後席は完全に分けられたセパレートタイプ。定員は4人のみで、5人乗り仕様はありません。普通はいくらプレミアムSUVでも標準仕様は5人乗りで、4人乗り仕様はオプションです(ロールス・ロイス・カリナンでさえそうです)。
キャビンとラゲッジルームを分断したことと同じく、4人乗り仕様のみとしたことも、新型センチュリーが本当のショーファードリブンカーであることを表しています。5人乗り仕様も用意したほうが営業面では有利でしょうが、あえてそれをしなかった。ここにもトヨタの覚悟が感じられます。
トヨタは新型センチュリーをSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)ではない、と言っていますが、その通りなのです。だって新型センチュリーはユーティリティをまったく重要視していないのですから。
同一ボディでスイングドアとスライドドアを実現
スライドドアはボディ側にレールが必要となり、デザインに制約が出てしまいます。しかし新型センチュリーは新機構によってレールなしのスライドドアを実現しました。同じボディで通常のスイングドアとスライドドアの両方を持つのは世界初です。
このスライドドアの動きは最初にスイングドアのように後端だけが持ち上がり、その後室内側から伸びたアームがドア全体を後方に動かしていきます。ドアは2本のアームのみで支えられているので、ボディ側にレールはありません。
果たしてスライドドアが高級車にふさわしいのか、という議論もあるかもしれませんが、電動によるその動きは極めて静かで上品、もちろん乗り降りのしやすさは言うまでもありません。独自のミニバン文化が花開いた日本ではスライドドアが完全な市民権を得ています。日本発祥のショーファードリブンカーとして、新型センチュリーのスライドドアは「あり」なのではないでしょうか。
新型センチュリー、ここが×
エンジン横置きのFFプラットフォーム
既存のセンチュリー(セダンタイプ)はV8エンジンを縦置きしたFRプラットフォーム(GA-Lベース)を使用しています。しかし新型センチュリーはエンジンを横置きするGA-Kプラットフォームを採用しました。別にエンジン横置きだからダメというわけではないのですが、超高級車を謳うのなら、やはりエンジンは縦置きで最低でもV8以上を載せて欲しかった。
新型センチュリーが戦うステージにはロールス・ロイスやベントレーなど、世界の超プレステージカーが待っています。そこではプラットフォームやエンジンにも「格」が求められます。正直言ってV6横置きでは、彼らと同じ土俵で戦うには見劣りしてしまうのです。
しかもフロントサスペンションはマクファーソンストラットで前後コイルスプリング。まだ乗ってもいないので勝手なことは言えませんし、スペックだけでクルマは判断できません。しかしこのようなクルマを買う層に後発でアピールしていくには、スペックはとても重要です。
セダンのセンチュリーと同じプラットフォームをAWDにして、新型センチュリーを作って欲しかった! それで価格が3000万円になっても、それでいいのです。そういう世界のクルマなのですから。
カラーバリエーションが少ない
クルマを買う楽しみのひとつに、色を選ぶことがありますよね。ボディカラーや内装の色を自由に選べるのは新車を購入する最大のメリットとも言えます。
そこで新型センチュリーのカタログを見ると、ホワイトパール、プロミネントグレー、ブラック、グローリーレッド、の4色だけ。バンパーを含む下回りにもシルバー、プロミネントグレー、ブラックの3色があるようですが、これはあまりにも少ないです。
インテリアを見るとシートカラーはブラック、フロマージュ、ミッドブラウンの3色。インパネのパネルや後席用のタワーコントロールには本杢パネルが採用されていますが、色などは選べません。ショーファードリブンカーとはいえ個人オーナーも考えているならば、このカラーバリエーションはあまりにも寂しいのではないでしょうか。
例えばベントレー・ベンテイガのボディカラーは標準の7色に加えてオプションで60色、インテリアのレザーも何色も用意されます。またマリナーという特別プログラムがあり、それを使えばボディやインテリアのカラーや組み合わせはほぼ無限大、シートステッチやシートベルトの色まで選べます。またインパネのパネルもウッドならばメープルやマホガニーなどの材質、オープンポアかクリアかなどの仕上げ、またアルミやカーボンなども選択できます。ロールス・ロイス・カリナンも同様で、標準の仕様というものは実質存在せず、1台1台が顧客のオーダーによってすべて異なると言ってもいいでしょう。
これらのクルマの正規ディーラーに行くと、オーダープログラム用の専用スペースがあり、各部の色や素材の見本がズラリと揃っています。顧客はセールスの担当者と何度も打ち合わせをして自分だけの1台を注文します。それはこの手のクルマを買うための儀式のようなもので、この悩ましくも楽しい作業はオーナーだけが味わえる特権だと言えるでしょう。ボディカラーを愛用のギターと同じ色にして欲しい、インテリアのレザーを奥様のバッグと同じ色にしたい、こんなオーダーをする人もいるそうです。
ただ、新型センチュリーには幅広いオーダーを受けるプログラムが用意されるという噂もあるので、そこに期待しています。ぜひ日本車初のフルビスポークをセンチュリーで実現して欲しいですね。
×ではないけれど……欲しかった装備
実車を見ていて「う〜ん、これはつけて欲しかったな〜」と思った装備がいくつかあります。まずドアのイージークロージャー。ドアを閉めるときに、軽く抑えるだけでモーターがドアを巻き込んで確実に閉めてくれる機能です。バタン!と強く閉める必要がないので楽ですし、見ていても上品です。スムーズな所作が求められる超高級車なら必須の装備だと思います。
もうひとつは非回転式のホイールセンターキャップ。ホイールのセンターキャップがホイールと一緒に回転しないで常に天地が固定されているというもので、ロールス・ロイスやベントレーなどで採用されています。
どうでもいいと言えばどうでもいい機能なんですが、こういうところに凝るのも高級車の証。特にセンチュリーのホイールキャップはシンボルである鳳凰の立体的なモチーフが埋め込まれた凝ったデザインなので、これが走行中も回転せずにしっかりと見えたら、カッコいいですよね。
以上、思いつくままに書いてしまいましたが、新型センチュリーは世界最高峰の高級車を造りたいというトヨタの思いが溢れた1台だと感じました。海外での販売も予定しているそうですが、世界中の街で走り回る勇姿を早く見て見たいものです。
※リードに誤りがあったので訂正いたしました。(9月14日19時)