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Honda Gold Wing
ボクサー6といえばポルシェだが
水平対向6気筒エンジン(ボクサー6、フラット6とも呼ばれる)と言われれば、クルマ好きなら誰もがポルシェを連想する。スバリスト(熱狂的スバルファン)は、アルシオーネやレガシィにボクサー6が搭載されていたことを忘れるなと主張するかもしれないけれど、それ以外の人たちにとってはやはりボクサー6=ポルシェ、そして911シリーズだろう。
1964年、水平対向4気筒エンジン(ボクサー4)を搭載していたポルシェ356に代わり、ボクサー6を搭載した911がデビュー。コンパクトで低重心、低振動に進化したエンジンにはアルミクランクケースやドライサンプなど当時先進の技術が盛り込まれ、高性能スポーツカーを生み出すメーカーとして、ポルシェの名声を不動のものとする。
そして2023年の現在に至るまで911シリーズにはボクサー6エンジンしか搭載されていない。911と聞いて誰もが思い浮かべる車体形状とその心臓部たるボクサー6エンジンは、熟成を重ねてポルシェを象徴する存在となった。
6代目ゴールドウイングは2017年に登場
4輪では今やポルシェにしか搭載されない貴重なボクサー6エンジンだが、バイクでは唯一ホンダだけがゴールドウイングというモデルに搭載している。こちらもポルシェと同じく熟成を重ねてきたもので、1974年の初代ゴールドウイング(GL1000)に搭載されたボクサー4に始まり、1988年の4代目でボクサー6へと進化、2017年に6代目となって2023年現在に至るまで、ボクサー6を搭載し続けている。ゴールドウイングはホンダの最上級ツアラーとして、世界中のライダーから羨望の眼差しを向けられるモデルなのだ。
6代目のデビュー間もない頃に東京近郊を試乗したのだが、パーキングエリアなど立ち寄る先々で他のライダーから質問攻めにされた経験がある。信号待ちのわずかな時間でも隣の車線のドライバーから話しかけられることもあり、とにかく衆目を集めたものだ。
穏やかな海の上を滑るかのごとく
乗車感覚はまさに「バイクの大型クルーザー」。390kgの巨大な車体が、穏やかだが力強く盛り上がるトルクによって、ライダーの望むまま、しっとり上品でいながらダイナミックに加速していく。ダブルウイッシュボーンが採用されたフロントサスペンションは路面をしなやかにいなし、穏やかな海の上を滑るかのごとく、ライダーに不快な凹凸を感じさせない。
そしてボクサー6であることを強く感じるのだ。例えば高速道路でハイスピードなコーナリングをしている時。縦置きされ、前後方向に配置されたボクサー6のクランクシャフトが、低い位置でしっかりと芯を出し、バイクの傾きの中心になっているような感覚。
例えば信号ダッシュで交通の先頭に立ちたい時。ボア×ストロークが等しい(73.0×73.0mm)スクエアエンジンであることもあいまって、ムチのようにしなやかに、シルクのように滑らかにエンジン回転が上がる感覚。ボクサー6ならではの鼓動感や、音がつながるエキゾーストノートも心地いい。個人的には至高のエンジンのひとつである。