最高出力800PS超の「メルセデスAMG S 63 E パフォーマンス」に試乗

ハイパフォーマンスハイブリッド「メルセデスAMG S 63 E パフォーマンス」に試乗「最高出力800PS超のラグジュアリーサルーン」

Sクラスの初のハイパフォーマンスハイブリッド、メルセデスAMG S 63 E パフォーマンス。その最高出力は800PSを超え、もはやスーパースポーツカーの領域へ。AMG専用グリルを採用した歴代最強Sクラスの実力を試した。(GENROQ 2024年3月号より転載・再構成)

Mercedes-AMG S 63 E Performance

車両本体価格は4086万9000円

Sクラス初となるAMG専用ラジエーターグリルが採用された。縦型ルーバーと中央に大型スリーポインテッド・スターが配置される。
Sクラス初となるAMG専用ラジエーターグリルが採用された。縦型ルーバーと中央に大型スリーポインテッド・スターが配置される。

3576万円のメルセデスAMG S63Eパフォーマンス(以下、S63E)に試乗した。エントリーグレードのS400d4マティックが1469万円なので、その差2000万円となるがSのAMGとはそういうものだ。些事に頓着しない雲上人のクルマである。なおド派手なカラハリゴールドメタリックの試乗車には、AMGダイナミックパッケージ(約154万)、リヤコンフォートパッケージ(約99万円)など総額500万円余りのオプションが装備され、車両本体価格は4086万9000円となっていた。ちなみにカラハリゴールドは19万円のオプションである。

SクラスのAMGといえば、1971年のスパ24時間レースで2位を獲得し、戦うラグジュアリーサルーンとして語りつがれるAMG伝説を打ち立てたメルセデス・ベンツ300SEL6.8を思い浮かべる人が多いだろう。SクラスAMGの中でも「63」はその血統を受け継ぐ特上品だが、最近登場した「63Eパフォーマンス」はさらに別の意味も持っている。現在63Eパフォーマンスを名乗るAMGは4モデルで出力順にAMG GT 4ドアクーペ(843PS)、SL(827PS)、Sクラス(802PS)そしてCクラス(680PS)となるが、これらは皆時代に即したハイパフォーマンス・プラグインハイブリッドAWDなのだ。

S63Eは、最高出力612PS、最大トルク900Nmを発揮する4.0リッターV8ツインターボエンジンに、190PSと320Nmを発揮するモーターを組み合わせて、システム最高出力は802PS、同最大トルク1430Nmを発揮する。単純な足し算にならないのは、モーターを変速機に内蔵せずにリヤアクスルに搭載するP3ハイブリッドシステムを採用しているためだ。モーターが後輪を直接駆動することで早いレスポンスと、従来のESP以上に緻密なスタビリティコントロールが可能になっている。またリヤモーターに2速ギヤが組み合わされ高速域でもモーターが活かせるという。バッテリー電力量は13.1kWhでEV走行可能距離は37kmと控えめだが、これもEパフォーマンスがエコではなく、パワーサプリとしてのハイブリッドとして開発されたことの証左と言えるだろう。

ラグジュアリーサルーンらしからぬ不穏なスペック

師走の都内を走らせる。Sクラス・ロングをベースとしたS63Eには全長5335mm、全幅1920mm、全高1515mmの堂々たるボディながら、0-100km/h加速3.3秒、最高速度290km/hというラグジュアリーサルーンらしからぬ不穏なスペックが与えられている。だが街中ではその獰猛さを微塵も感じない。唯一ロックトゥロック2回転とクイックなステアリングギヤ比に驚くくらいだ。実際、車検証表記2690kgの重量級ボディでも走りは軽快だ。モーターやバッテリーをリヤに搭載しているためかフロント1260kg、リヤ1430kgというリヤ寄りのスポーツカーの如き前後重量配分も好ましい。

S63Eのトランスミッションは他の63モデルと同様にAMGスピードシフトMCTを採用している。トルコンではなく湿式多板クラッチによって高い伝達効率だけでなく軽量さも魅力だ。9速という多段ギヤは変速が早く、走行時のショックも皆無だった。これはアイドルストップからの復帰も同様だが、ベルトスタータージェネレーター(BSG)による48Vシステムの貢献も大きいだろう。信号手前でエンジンが停止するので停車中は無音だ。時たまエンジンで発進する場合もあるが、その際にはクラッチが唐突に繋がり、レーシングカーのようなダイレクトさを感じる。しかし、これはBSGによる微低速域の完璧なマナーの良さの裏返しと言える。

グリップが太いトンボ型ステアリングのスイッチや、インパネ周りは最新メルセデス共通のレイアウトなので、最新世代のオーナーならまごつくことはない。シートにはヒーターやベンチレーターはもちろん、豊富なモードのマッサージ機能も備わる。サイドサポートがコーナーごとに張り出して体を支えてくれるので、安楽に走ることもハードにワインディングを駆け上がることも可能だ。なおダイナミックセレクトと呼ばれるドライビングモードはコンフォート、スノー、インディビジュアル、バッテリーホールド、エレクトリック、スポーツ、スポーツ+と7種類もある。車速に応じて車高を変えてくれるエアサスはスポーツ性能と燃費性能向上を両立しており、コンフォートでは120km/h以上で1段、160km/h以上でさらに車高が下がり空気抵抗を減らす。スポーツやスポーツ+では通常車高が1段低くなり、120km/h以上でさらに下がるという。

最大3度切れる後輪操舵は、駐車場などでは小回りが利いて便利だ。素のSクラスでは、4.5度も切れて大きな話題となった。なお素のSクラスが60km/h以上で同相に切り替わるのに対して、S63は100km/h以上で切り替わるなど、このS63はとにかく高速域の乗り物だ。なにしろ100km/hでは9速に入らない。103km/hでようやくパドルを操作して9速に入るが、すぐに8速に落ちてしまう。アウトバーンの国から来たクルマだから仕方ないとも思う。ドイツで100km/hは郊外の一般道の制限速度なのだ。

粛々とショーファードリブンも可能な1台

試乗車はオプションのAMGダイナミックパッケージが装備されていたが、これは250km/hの電子リミッターを解除して最高速度を290km/hに高めるAMGドライバーズパッケージと、AMGカーボンセラミックブレーキが含まれ、高速域における自信が漲っていた。牙を向けばゴジラ級の最高出力802PS、最大トルク1430Nmだがロングホイールベースを利して、粛々とショーファードリブンも可能な1台だ。

そう思って最後に後席にも短時間試乗した。本来は後席に座る類のクルマなのだ。スイッチひとつで前席が前に行き、オットマンが展開する至れり尽くせりの右後席は、まさに走るファーストクラス(乗ったことはない)。しかし試乗車は左ハンドルなので、目的地のホテルの車寄せに到着してドアマンが左リヤドアを開けても、セレブなパッセンジャーはそこにいない。あまり考えもしなかったが、ショーファードリブンカーは右ハンドルでなくてはならないということに今更ながら気づいた。

REPORT/吉岡卓朗(Takuro YOSHIOKA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
MAGAZINE/GENROQ 2024年3月号

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス

ボディサイズ:全長5335 全幅1920 全高1515mm
ホイールベース:3215mm
車両重量:2680kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:450kW(612PS)/5500-6500rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/2500-4500rpm
モーター
最高出力:140kW(190PS)
最大トルク:320Nm(32.6kgm)
システム
最高出力:590kW(802PS)
最大トルク:1430Nm(145.8kgm)
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前4リンク 後マルチリンク
タイヤサイズ(リム幅):前255/45ZR20(9.5J) 後285/40ZR20(11J)
燃料消費率:8.6km/L
最高速度:290km/h
0-100km/h加速:3.3秒
車両本体価格:3576万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

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吉岡卓朗

ゲンロクWeb編集長。趣味はクルマを用いたラリーやレースなどモータースポーツ活動だったが、現在はもっぱ…