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BMW i7 M70 xDrive
最新トップオブトップサルーンで現行7初の「M」
最新の「7」にはガソリンとディーゼルの各マイルドハイブリッドも用意されるものの、日本でも完全にバッテリー電気自動車(BEV)推しだ。2022年夏の国内発表時からxドライブ60を名乗るトップモデルはBEVだった。一部市場にはV8(760i)も存在するが、日本には導入されない。翌2023年にはBEVがさらに2機種追加された。
今回の「i7 M70 xドライブ」はその新しいBEVのひとつで、従来のxドライブ60(以下、60)よりさらに上級という位置づけだ。つまり、BMWの最新トップオブトップサルーンであり、同時に現行7初の「M」を冠したモデルでもある。
国内向けのプレスリリースによると、M70 xドライブ(以下、M70)はMハイパフォーマンスモデルということだが、従来のエンジンモデルでは、それは純粋な「M」もしくは「Mコンペティション」の車名が与えられるモデルを指しており、今回のように「M+2ケタ数字」という車名の場合は、ハイがつかないMパフォーマンスモデルとされていた。実際、今回のM70も仕立て内容や乗り味のキャラクターからすると、ハイのつかないMパフォーマンスモデルと捉えたほうが実態に近い。
i7のM70は既存の60に対して、258PSというフロントモーター出力はそのままに、リヤのそれを489PSに高出力化(60は313PS)。システム出力は544PSから659PSに、同トルクは745Nmから1015Nmに増強。0-100km/h加速も4.7秒から3.7秒まで向上した。ただ、105.7kWhのリチウムイオン電池の総電力量はほかのi7と同様で、速くなった分、一充電航続距離(WLTCモード)は60より80km短い570kmとされる。
これまでのMやMコンペティションだと、バネをあえてコイル化したり、四輪操舵を省いたりと、よりダイレクトでスパルタンなシャシー仕立てにするのが常套手段だが、今回のM70はそうではない。足もとこそ専用21インチホイールが標準となるものの、21インチ自体ほかの7でもMスポーツにオプション設定される。さらに、エアサス、可変ダンパー、可変レシオステアリング+四輪操舵、アクティブスタビライザーといったシャシーハイテク数々も、60と同様にフルで標準装備となる。
オプションあつかいの豪華装備もすべて標準に
内外装の調度類についても、M70はスポーツモデルというより「最上級のi7」の風情である。前出のホイール以外、内外装はほかのMスポーツとほぼ同様。インテリアも最上級のフルメリノレザーとなるシートからして、スポーティというよりラグジュアリー。あの31.3インチの後席用大型スクリーンに自動ドア、電飾仕込みのスカイラウンジパノラマガラスルーフなど、他モデルではオプションあつかいの豪華装備もM70ではすべて標準となるのだ。
つまり、M70と60の大物ハードウェアの違いはリヤモーターだけで、特別なスポーツモデルというより最上級グレードそのものだ。さらにいうと、通常のドライブモードでのパワートレインやサスペンション制御も60と共通という。
そんなM70だから、スポーツモード以外で走る限り、乗り味はラグジュアリーサルーンそのものだ。以前試乗した60と比較しても、21インチ化のネガはほとんど感じられない。しいていえば、路面の凹凸がわずかに分かりやすくなったが、そのぶん、素晴らしいオンザレール感は、さらに極上レベルとなっている。
このクルマのMならではの部分といえば、アクセルに合わせた「アイコニックサウンド」がM専用になることと、ステアリングパドルがひとつだけ追加されることだ。パドルを引くと、システム最大トルクを1100Nmに引き上げる「Mスポーツブースト」が10秒間だけ作動する。
ドライブモードをスポーツにセットすると、体感的なボディサイズと重量が飛躍的に縮小するのは、いつものBMWだ。アイコニックサウンドは普通のi7より盛大で、エンジンっぽさも増している。パドルを弾いて=Mブーストモードを立ち上げて、アクセルペダルを踏み込むと、巨人にお尻を蹴り上げられたような加速に見舞われる。ただ、こんな暴力的加速でも無粋なバックラッシュショックが出ないのは大したものだ。
新しいBEV時代のMの味わい
こうしてフルパワーを解き放っても、オンザレールな操縦性がまるで揺るがないのはBEVならではの緻密な4WD制御のおかげだ。リヤモーターが大幅強化されたM70では回頭性は向上しているが、不自然にクルクル曲がるような子どもっぽい調律ではなく、信頼できるオンザレール感がさらに強まっている。
スポーツモードでの乗り心地悪化も最小限で、アクティブステアリングも健在なので、どこでどう走っても肉体的負担はほとんどなく、常にイージードライブである。昔ながらクルマ好きには物足りないかもしれないが、こういう味わいこそ新しいBEV時代のM……なのか。
ちなみに、本体価格1748万円の60にオプションを追加してM70とほぼ同等の装備内容にすると、ツルシのM70との価格差は約200万円といったところだが、どちらが買いかは大いに悩ましい。M70ならではの走りを楽しめるのは、良くも悪くもアクセルをフルに踏み込むようなシーンだけなので、そのためだけに200万円は高すぎると思う向きはあろう。一方で、i7ならではの快適性や機能性、ラグジュアリーはなんら損なわれず、200万円のプラスで至上の動力異能が手に入るなら安い……と判断する好事家も少なくないだろう。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年3月号
SPECIFICATIONS
BMW i7 M70 xドライブ
ボディサイズ:全長5390 全幅1950 全高1545mm
ホイールベース:3215mm
車両重量:2760kg
システム最高出力:485kW(659PS)
システム最大トルク:1015Nm(103.5kgm)
駆動方式:AWD
EV航続距離:570km(WLTC)
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40R21 後285/35R21
車両本体価格:2198万円
【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/