新型「BMW 5シリーズ」のフル電動バージョンに試乗

フル電動の新型5シリーズ「i5」にBMWらしいドライバーズカーの才能はあるのかリスボンで確かめた

BMWはバッテリーのレイアウトを工夫することで、通常の地上高であるセダンボディでBEVの「i5」を開発した。
BMWはバッテリーのレイアウトを工夫することで、通常の地上高であるセダンボディでBEVの「i5」を開発した。
先頃日本でも発表された新型5シリーズ。このたびその海外試乗会が開催されたのだが、なんとそこにあったのはEVモデルだけ──。それはこのご時世、BMWがとにかくBEVを推したいから。そのイチオシは、果たしてどんな走りを披露してくれるのか?(GENROQ 2023年12月号より転載・再構成)

BMW i5

BEVとエンジン車のプラットフォームを共通化

eDrive40のMスポーツ仕様。ほか標準仕様であるエクセレンス(998万円)が用意される。ドアハンドルはグリップ式からフラップ式に変更。Cピラーのウインドウモール末端には「5」の文字が。

新型5シリーズのBEVバージョンが「i5」だ。新型5シリーズにはガソリン車、ディーゼル車、プラグインハイブリッド車(PHV)がラインナップしているので、それらとBEVとの関連性も気になるところだ。

面白いのは、メルセデスがエンジン車とBEVでプラットフォームを分ける戦略なのに対し、BMWは共通のプラットフォームで進めているところ。というのも、エンジン車とのプラットフォーム共通化はむしろ難易度が高いはずだからだ。

ではなぜBMWはそんな戦略をとるのだろうか。BMWは少なくとも2035年くらいまではエンジン車も造り続けるので、新規開発を抑制するプラットフォームの共通化は、それ自体に現実的なCO2の削減効果がある。また価格競争力が出せるのでユーザーニーズにも応えることができる。実効性のあるカーボンニュートラリティを実現するためには段階的にBEVに移行させる必要があり、BMWの中核を成す5シリーズを開発するにあたり、首脳陣は熟慮の末にプラットフォームを共通化することにしたのではないか。

エンジン車と見分けがつかない外観

ボディは3BOXのセダンだが、よく見るとリヤクオーターのデザインがややクーペ風になっており、2.5BOXセダンとも表現することができそうだ。それにしてもセダンで攻める理由は? と聞くと、欧米ではセダンが高級車の中核であることは不変的だからとの回答があった。バッテリーを床下に格納するBEVは、背が高いSUVスタイルの方が技術的に造りやすい。しかし、バッテリーのレイアウトを工夫することで、BMWは通常の地上高であるセダンボディでBEVを開発した。だからエンジン車と見分けがつかない。しかも、BEVはラジエターがないのでフロントグリル付近のデザインを特徴的にできるが、キドニーグリルがアイコンのBMWはBEVでもそのデザインを踏襲しているからなおさらだ。

試乗したのは標準車である「i5 eDrive40」と、Mモデルの「i5 M60 xDrive」だ。基本構成は両車とも83.9kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、最高出力340PSのモーターで後輪を駆動するRWDだが、M60 xDriveはフロントにもモーターを搭載するAWDとなる点が異なる。このMモデルは前後のモーターを合わせると最大トルク795Nmを発生し、0-100km/h加速はなんと3.8秒。満充電での走行可能距離はそれぞれ500kmと455km(いずれもWLTCモード)となり、ロングドライブも可能。絶対的な速さはMモデルが有利だが、日本のユーザーには標準車であるi5 eDrive40がおすすめだ。雪道を走るならAWDのxDriveが武器となるが、もともとが重量配分に優れているので、豪雪地以外ならウインタードライブもRWDで走ることができそうだ。

まるでレーシングカーのような低重心

さて、BMWのBEVで私が気になるのは、やはりBMWらしいハンドリングがそこにあるかどうかだ。重量はエンジン車より重くなっているが、それを感じさせない運動性能がi5 eDrive40には備わっていた。もともと重心が低いセダンボディに、さらに床下にバッテリーを搭載したことで、まるでレーシングカーのような低重心が実現されており、その安定性とハンドリングの俊敏性は感動的なほどだった。ボディの剛性感も無垢の金属から削り出したかのようなソリッドさ。もちろんサスペンションのセッティングはBMWが得意とする領域なので、まったく不満はない。

では、最大トルク795Nmのi5 M60 xDriveはどうか。それはまさにトップ・オブ・5シリーズとしてのスーパーセダンというキャラクターだ。兄貴分のi7 M70xDriveが巨大なので、真のドライバーズカーとしてはこのi5 M60 xDriveが最高峰といえる。いずれにせよ、驚きと感動に満ちたリスボンの試乗会となった。

REPORT/清水和夫(Kazuo SHIMIZU)
PHOTO/BMW AG
MAGAZINE/GENROQ 2023年12月号

SPECIFICATIONS

BMW i5 eDrive40 M Sport

ボディサイズ:全長5060 全幅1900 全高1505mm
ホイールベース:2995mm
車両重量:2360kg
モーター 最高出力:250kW(340PS)/8000rpm
モーター 最大トルク:400Nm(40.8kgm)/0-5000rpm
駆動方式:RWD
EV航続距離(WLTC):500km
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前後245/45R19(8.5J)
0-100km/h加速:6.0秒
巡航最高速度:193km/h
車両本体価格:998万円

【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

先代より全体的にサイズアップを果たした新型「5シリーズ」。その全長はついに5mを超え、ホイールベースもほとんど3mとなった。

「電気かガソリンか」新型BMW 5シリーズで選択できるICEとEVの価値を比較検討する

2023年7月、日本市場への上陸を果たした新型「BMW 5シリーズ」。当面はセダンボディのみ…

キーワードで検索する

著者プロフィール

清水和夫 近影

清水和夫

1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、N1耐久や全日本ツ…