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今回の取材会では、全方位センシングを可能とした「Honda SENSING 360」が次なるステップとして目指す、開発中の高度運転支援機能の一部を試乗運転及び同乗試乗という形で披露された。
今回体験できたのは
・ハンズオフ機能付行動車線内運転支援機能
・ハンズオフ機能付高度車線変更支援
・ドライバー異常時対応システム
・ドライバーの状態と前方リスクを検知し、回避支援を行う技術
上記の4つに分けられる。
ドライバーの疲労軽減に繋がる
「ハンズオフ機能付高度運転支援機能」&「高度車線変更支援機能」
「ハンズオフ機能付高度運転支援機能」は高速道路及び自動車専用道路で、システムがアクセル、ブレーキ、ステアリングを操作し、ドライバーがステアリングから手を放すことができる高度な自動運転レベル2の機能だ。つまり、ドライバーはシステムによる運転を監視する必要こそあるが、システムに求められるまでは運転操作から解放されるため、疲労は大幅に軽減され、周囲への気を配る余裕にも繋がる。
次世代機能を搭載する「Honda SENSING 360 Next Concept」では、ハンズオフの状態で、カーブを含めた同一車線内維持走行と車線変更支援を行ってくれる。運転支援のレベルは、より高度なシステムを搭載する「Honda SENSING elite」と同等となる自動運転レベル2機能を実現しているのだ。
重要なポイントは、センシング機能が、ずっと現実的なセンサーで構成されていること。人とクルマが協力することで、高度な運転支援を実現させ、普及を図ろうとしているのだ。
システム作動の操作は、ステアリングスイッチのみで完了。作動後は、ステアリングから手を放すことができるようになるが、その瞬間からドライバーは監視員となるわけだ。
直線路の場合、設定車速をキープ。カーブに差し掛かると自動的に減速し、安定したコーナリングを行う。速度はコーナーの大きさにより自動的に調整されるから、車速が落ちすぎるという心配もない。もちろん、カーブの出口からは元の設定速度まで加速し、再び巡行を開始する。その走りは非常に滑らかだ。
同一車線に前走車がいる場合は、追従走行を行うのだが、設定速度よりも前走車の速度が遅いと運転支援の快適性がスポイルされてしまう。その場合は、「高度車線変更支援機能がサポート機能」が生きる。
この機能もスイッチひとつでスタンバイ状態となり、周囲の状況をシステムが把握。追越側の車線に車線変更の障害となる車両がいないことを確認すると、車線変更する旨を表示と音で伝えて自動的に車線を変更する。
車線変更後は設定速度まで加速を行い、前走車の追越を終えると、再び安全を確認して元の車線へと戻る。
一連の動作は、以前に試したレジェンドの「Honda SENSING elite」の機能と遜色ない仕上がりと感じた。
これらの機能は、日産プロパイロット2.0やスバルアイサイトXなどの高度運転支援機能として市場投入されており、専用の高精度マップとGPSや準天頂衛星システムみちびきを活用して自車位置を細くしている点も同様だ。
そのため、地下やトンネルでは活用できないが、ホンダによれば、トンネル侵入時でも出来る限りハンズオフの状態を維持できるように開発しているという。
ひょっとすると、山岳地を抜ける高速で有りがちな短いトンネルの連続ならば、機能がオフにならず継続される可能性もあるわけだ。そうなれば、より快適性は高まる。今後の投入が楽しみだ。
万が一にもクルマが助けてくれる「ドライバー異常時対応システム」
ドライバー異常時対応システムは、赤外線カメラによるドライバーモニタリングで、ドライバーに発生した異常を検知するもの。
クルマがドライバーに異常があったと判断すると、音で警告しつつ、車線内維持支援を行う。その状況でもドライバーに反応がなかった場合、ハザードとホーンで周囲に警告しながら、車線上で減速し停車させる。停車後は、緊急通報サービスと接続し、ドライバーの救護へと繋げる仕組みだ。
同乗体験となったが、停車は急減速ではなく一定の減速力でスムーズに行われるので、警告音以外はあまり違和感がないのが特徴だ。これならば、同乗者がいた場合も不安をあおることなく、停車後に落ち着いた対応にも繋がるだろう。
ドライバー異常時はアクセル操作をOFFとし、無意識のアクセル操作があっても加速できないようにする。
昨今は原因がドライバーの急病によるケースの交通事故の報道も増えてきているが、そのようなケースでは、日常的に安全運転を心がけているドライバーでも加害者となってしまう。ドライバーの高齢化も進む今、いち早く普及が望まれる機能のひとつだろう。ただ緊急事態は時と場所を選ばないため、より高度な運転支援との組み合わせで、より安全な場所に退避できるなどの進化にも期待したい。
“ヒヤリハット”を未然に防ぐ
「ドライバーの状態と前方リスクの検知し、回避支援を行う技術」
最後の「ドライバーの状態と前方リスクの検知し、回避支援を行う技術」は、わき見運転やドライバーの疲労などから起こる漫然運転での事故の予防回避に役立つもの。
ドライバーをクルマが監視することで、注意力の低下を検知して前方のリスクを予測。ドライバーへの注意喚起を行う。
作動時は、車線中央維持支援を行いつつ減速動作を図る。さらに衝突の危険性が高まると、ドライバーに警報による注意を促す。その後、ドライバーがステアリング操作を行った場合は、隣接する車線内への確実な移動をアシストすべく、ステアリング操作支援が行われる。
警告にドライバーが反応しなかった場合は、同一車線内での回避を図る。対象は、車両だけでなく、歩行者や自転車も対象となるため、日常域での危険回避に役立つところも重要なポイントだ。
体験は同乗試乗となったが、その分、危険予測時の初期応答の良さが実感できた。ブレーキの減速は自然なので、同乗者に作動時の恐怖心を与えず、ドライバーは自身がブレーキの操作がなく減速を感じるため、違和感を覚えて危険が迫っていることをしっかりと認識できる。
その後のドライバーの反応で、ステアリングアシストによる回避動作を図るのだが、前方の対象を避けるスペースがない場合もある。その際は、衝突被害軽減ブレーキが作動し、衝突を回避する。事前に減速を図っていることから、確実な停車が行えるというわけだ。
この機能で重要なのは、ドライバーへの注意喚起に力を入れていること。システムが助けることが前提ではなく、まずはドライバー自身に危険な状況を把握させて回避行動を促すことで、安全運転への意識を高めてもらおうという願いも込められているのだ。
完全な自動運転となるまでは、やはり乗員は何らかのシーンで運転することを求められる。どれだけ安全機能が進化しても大切なのは、事故を起こさないというドライバー自身の気持ちなのだ。
ホンダの目指す「交通死傷者ゼロの未来」に向けて
ホンダが「Honda SENSING」の進化と普及に積極的なのは、交通死傷者ゼロの未来のためだ。「全世界でホンダの二輪車及び四輪車が関与する交通事故死傷者を2030年に半減、2050年にはゼロとする」という目標を掲げている。この二輪車と四輪車は、最新モデルだけでなく、その時点で世の中に存在する全てのホンダ車を指すというから、より難易度は高い。そのためには、絶え間ない機能の進化と発展は必須となる。
その実現の一歩として、2030年までに二輪検知機能付きの「Honda SENSING」を四輪車全機種への適用。さらに先進国では「Honda SENSING 360」の四輪全機種への適用を目指している。
そしてその未来に向けて、販売台数とリース期間を限定した形で、自動運転レベル3機能を持つ「レジェンド Honda SENSING elite」の早期の市場投入にも取り組んでいる。
今回、ホンダの技術者たちと話して感じたのは、加速する高齢化社会への危機感だ。
高齢者から、運転免許を取り上げることは簡単だが、移動難民に対するサポートに、現時点での明確な答えはない。さらに高齢者が移動手段を失えば、外出の機会を失い、結果的に急速な体力の衰えや引きこもりなどの新たな問題にもつながりかねない。
だからこそ、自身で運転が認められるレベルにある人は、クルマがサポートすることで、できるだけ運転寿命を延ばしてあげる。その中で、サポート回数の増加などで自身の運転能力の低下を感じ、自主的に免許返納に繋がるべきなのである。自身で決断すれば、その後の生活にも前向きに取り組める気持ちも持てるだろう。また幅広い世代に向けて、運転中の危険をシステムが警告することで、安全運転への喚起にも繋がるはずだ。
クルマは自由な移動を提供し、我々の生活を便利にし、潤いも与えてくれる。ただ事故があれば、被害者も加害者も共に不幸となる。それを防ぐためには、最終的には完全自動運転の未来があるのだろうが、その実現ははるか先のこと。
現実的な安全なクルマ社会の構築には、人とクルマが協力することにある。そのためには、守るだけでなく、見守り、時に助言となる警告をしっかりと与える先進機能が大切となる。その実現と進化のために、エンジニアは日々努力を重ねている。彼らは、危険性の隙間をできるだけ、埋めるように努力を重ねているが、事故へと繋がるシーンは、それこそ無限にある。安全機能は日々進化を重ねるが、我々自身の努力なくして、事故が減らないことも忘れないで欲しい。