だんだん危うくなってきた「BEV普及への道」 ICEは本当に存続の危機なのか・その4

PHOTO:VW
ICE(内燃機関)が悪いのではない。問題はCO₂(二酸化炭素)が出ることだ。CO₂均衡=カーボン・ニュートラリティ燃料を使えばICEはこれからも堂々と使い続けることができる……こう主張する研究者は少なくない。「だからICEはなくならない」とこじつけるつもりはないが、果たしてICEは本当に存続の危機に直面しているのか。すでに出番はなくなりつつあるのか。この4回目と最終回の5回めは、欧州と中国を比べながらICEの地位を考えてみる。

EUにとってBEVは「いまさら後戻りできない」案件

ICEは燃焼によって発生するエネルギーを回転力に換える。いまの人類の知恵では、燃焼は「酸化反応」である。酸化には酸素(O²)が要る。酸素と結びついてエネルギーを発するものといえば、たとえば水素(H²)がある。H²にO²がくっ付いて燃焼エネルギーを生み出し、そのあとに残るのはH²O、つまり水だ。ただし微量のNO(一酸化窒素)が出て大気中でNO²(二酸化窒素)になるほかN²O(亜酸化窒素)なども出る。

炭素(C)もエネルギー源になる。ただしO²とくっ付いてエネルギーを発生したあとはCO(一酸化炭素)とCO²とが残る。CO²は温室効果ガスと呼ばれ「地球温暖化の原因になる」と言われている。Cはガソリン、軽油、CNG(圧縮天然ガス)など化石燃料系には必ず含まれているため、CO²削減という命題の下で要注意元素になった。

ICEが吸う地球の大気は、その79%を占めるN(窒素)が最大勢力である。Nは燃焼には関わらない不活性ガスだが周囲の燃焼熱は奪うため、ごく一部のNは燃焼熱をもらってOと結び付いてしまう。そうして出来るものがNOx(窒素酸化物)であり、燃焼温度が高くなるに連れてNOx発生量は増える。

ガソリン、軽油、天然ガスといった化石燃料系燃料の主成分はHとCの化合物であり、燃焼に必要なO²は大気中からもらう。燃料中にCがなければ燃焼エネルギーを取り出す段階でCO₂は出ない。H²はカーボン・ニュートラリティ(炭素均衡)燃料であり、H²をICEに使う研究は1970年代から行なわれていた。

いっぽう、「CO²が地球温暖化をもたらす」という説にはまだ確証がない。熱力学や古気象学などの専門家や研究者の間には「CO²原因説は極めて疑問」との声が想像以上に多い。IPCC(気候変動政府間パネル)もブラックとは言っていない。「もはや疑う余地はない」との表現は最大級の肯定には違いないが、ブラックだとは言い切れなかった。依然としてグレーのままである。いま世界は、確証がないままに炭素均衡=カーボン・ニュートラリティの方向へ向かっている。

とはいえ、「確証はないが、もしブラックだったらどうする?」「取り返しがつかなくなる前に手を考えておかなくてよいのか?」という動機と考えれば、カーボン・ニュートラリティへの行動は納得がゆく。これを機にエネルギーについて考えておくことは賢明な行動である。現在のEU経済界は、CO²削減を行動指針としており、これに米国や日本、さらには中国やASEAN(東南アジア諸国連合)、インドなども賛同している。

ひとつ不思議なのは、CO²の環境影響を最重要研究テーマと位置付け、人類の英知を結集しないことだ。本当にCO²が悪者なのかどうか、白黒付けておくべきだ。現段階は「腫れ物に触れず」だ。筆者は過去、この質問をいくつかの欧州研究機関にぶつけた。政府所管の研究組織にもぶつけた。答えは「結論が出そうにない」「すでにさまざまな勢力がカーボン・ニュートラリティをビジネスの道具として使い始めているから、いまさらなかった話にしようとはだれも思わない」「CO²の真理に迫る研究では研究費も助成金も得られない」だった。

実際、EU(欧州連合)委員会のフォン・デア・ライエン委員長は「強いEUを取り戻すために産業構造を変える」と宣言し、その中心にBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)を据えた。あれほど嫌っていた企業への補助金をBEV関連企業にばら撒く決定はEU議会が下し、BEVをカーボン・ニュートラリティ活動の象徴にした。EUにとってBEVは「いまさら後戻りできない」案件なのである。

同時に、EU政府にとってBEVは一過性でも一時しのぎでもない。どんな手段を使ってでも永続的に普及させようと考えている。産業構造転換の手段である以上、継続させなければならない。逆にICEはもう要らない。ICEを使うHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)も要らない。PHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)は外部から充電できるクルマ、つまりBEVと並んでECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル=外部から充電できるクルマ)であるから認めたものの、本心では不要と考えている。

しかし、純粋に技術面から見ればBEVは発展途上であり、同時に一般のBEVユーザーが「いつ充電するのか」のコントロールはきわめて難しい。たとえ火力発電を総動員しなければならないような真夏と真冬の夜間であっても、「いまの時間帯はBEVに充電しないでください」という誘導は、何か新しい規制と罰則のセットを考えなければ不可能に近い。「BEVへの充電、即、火力追加運転」という事態は、現在でもごく普通に、世界中で発生している。

VWはドイツのザルツギッターに新しいバッテリー会社の「PowerCo」を立ち上げる。生産は2025年だ。定礎式にはドイツのショルツ首相も出席した。(PHOTO:VW)
B is for Battery Electric Vehicle (BEV)とVWはいう。

そのいっぽうでEUは、BEVは無条件でCO₂排出ゼロにカウントしている。「走行段階でCO₂を出していない」という理由だ。W2T(ウェル・トゥ・タンク=油井から燃料タンクまで)、つまり発電段階のCO₂は加味しない。T2W(タンク・トゥ・ホイール)だけを見てCO₂ゼロにしている。一過性の流行ではなく恒久的にBEV普及を図ろうとしている割には、BEVへの給電考察に甘い。これは日本もアメリカも同様で、平気で街中の急速充電スポットを増やしている。

日本は2030年燃費目標の策定時にBEVの効率をW2W(ウェル・トゥ・ホイール)で計算することを決めた。W2Wは「W2T+T2W」であり、燃料の精製(電気なら発電)と燃料の輸送(電気なら送電)もクルマの効率に含めて考えるという手法だ。EUは日本の国土交通省の問いかけに対し、日本のやり方を非難するという手段にでた。「BEVはCO₂ゼロで考えなさい」と指図し日本の規制を「ICEに甘くBEVに厳しい」と批判した。「BEVこそ絶対」であり、EU政府は人びとの自動車選びを規制している。すでにこれは統制経済だ。

中国のBEV補助金は、今度こそ打ち切られる

中国はどうか。この国はNEV=ニュー・エナジー・ビークル(新能源車)としてBEV/PHEV/FCEV(フューエル・セル・エレクトリック・ビークル=燃料電池電気自動車)の3カテゴリーを2016年以降推奨してきた。国家としてはEU同様にBEV推進派である。

「節能および新能源汽車技術路線図2.0」、2035年に向けたロードマップ2.0」

しかし、100%BEV化をめざしてはいない。BEV普及目標は最大50%だ。残り半分はHEVまたは燃費の良いICEである。2020年11月に中国政府は、中国汽車工程学会が提案した「節能および新能源汽車技術路線図2.0」、2035年に向けたロードマップ2.0」を承認し、国家方針に位置付けた【図】。このロードマップのなかに「2035年には節能車(低燃費車)と新能源車がそれぞれ50%ずつを占めることが望ましい」と記している。

当然、HEVにはICEが使われるから、中国は「BEVもICEも認める」という方向だ。EUよりはるかに現実主義である。2021年に中国政府がこう決定した背景には、彼の国がBEV普及を進めてきた5年間で痛感した「BEVの難しさ」がある。

前回お伝えしたように、中国では農村や地方都市などで売れるもっとも小型の乗用車「A00クラス」がすべてBEVになった。このクラスの市場規模は、かつては年間200万台以上だったが、2009年に中国政府が汽車下農(農村に自動車を)という政策を導入して以降は縮小を続けてそれがNEV政策を打ち出して以降は「贅沢ではない乗用車」が「贅沢ではないBEV」に変わった。

現実問題として、ガソリンスタンドのない地域ではBEVしか選択肢がない。だから農村と地方小都市のモータリゼーションには安価なBEVが役に立った。A00クラスはほとんどが車両価格5万元(約100万円)以下の安価なBEVになった。その代表が、日本のメディアも取り上げた上海通用五菱汽車の「宏光MINI」である。

「A00」の上の「A0クラス」はBEV比率約30%だ。VW(フォルクスワーゲン)の「ID.3」や日本でも販売が始まるBYDオートの「ATTO 3」などが属するクラスであり、ここも中国ではいまやボリュームゾーンではない。ボリュームゾーンはその上の「Aクラス」であり年間500万台が売れるが、経済発展によって「A0」クラスは需要トップではなくなった。「A0」クラスのBEV比率はまだ10%程度だ。「A」クラスでは、中国製のほか海外OEM(自動車メーカー)製のテスラ「モデルY」のLFP(リン酸鉄系リチウムイオン電池)搭載車やVW「ID.4」などが売れている。

象徴的なのは「Bクラス」だ。中国経済が豊かになったことで年間600万台規模に成長し、海外OEM商品ではBMW「X3」やアウディ「e-tron」などが売れ、BEV比率は20%へと拡大した。同時にPHEVとHEVの合計も17%まで増えた。豊富な商品群を抱えるクラスでもあり、中国のBEV市場が二極化していることを物語るクラスでもある。

年収1億円以上の層が7000万人とも8000万人とも言われるのが現在の中国であり、そうした富裕層のほとんどが沿岸部に集中している。だから車両価格50万元(約1000万円)の中国新興ブランド製BEVが上海など沿岸部大都市で売れる。いっぽうガソリンスタンド過疎の農村部は、車両価格5万元以下の安価な国産BEVによって本格的なモータリゼーションを迎えた。その間にはさまれた中間層は、必ずしもBEVを買っていない。BEVの二極分化である。

おそらく、その理由のひとつがBEVの信頼性の低さに関する口コミやSNSでのやりとりではないかと思う。中国では、すでにBEVは「特別なクルマ」ではなく、普通にクルマ選びの選択肢に入る。「カッコいい」「新しい」「値段が妥当」なら買う。それだけに、車種選択の物差しは普通のICE車と同じだ。そんななかで「BEVは修理できない」「BEVは使い捨て」とも言われている。実際、筆者も捨てられているBEVを見た。車載LIB(リチウムイオン2次電池)の発火事故も、すぐにSNSにアップされる。実用性重視の中間層はBEV購入を思いとどまっている。

BEV補助金(中国では消費者ではなくOEMに給付される)は2022年の年末で打ち切られる。中国政府は過去、補助金交付を延長また延長でBEV需要を下支えしてきたが、今度こそは打ち切るらしい。

純粋に技術面だけで見でも、BEVには課題が山積している。なかでも2次電池は、特定の資源への依存度が高いという問題を抱える。BEVユーザーはもっと現実的に、BEVの故障やLIBの発火事故、買い叩かれるBEVの下取りを気にしている。販売が先行した中国では、これらは大きな関心事である。

中国政府は国内の2次電池産業を補助金で支援し、LIB生産量で圧倒的な世界一の座に就いた。EUには車載用LIBメーカーがなく、LIBは中国と韓国に頼ってきた。EU資本のLIB工場はまだ建設中である。そして、中国もEUも「LIBはどんどん安くなる」と言い続けてきたが、「需要が増えれば安くなる」という構図にはいまのところ到達していない。需要増が原材料費の上昇を招いてしまった。ウクライナ戦争勃発後は、まさに高騰という状態である。

この2年間でリチウムの価格は約20倍になった。ニッケルもウクライナ戦争後に急騰した。コバルトが高価なためコバルト使用料を減らしたLIBの開発があちこちで進められ、コバルトの代わりにニッケルを多めに使う「ハイニッケルLIB」という方向に落ち着きかけたが、これもニッケル高で凍結の憂き目にあった。ニッケルもコバルトも使わないLFP系LIBは、安価なBEVでは重宝されるものの、高額BEVでは航続距離が短くなるという理由で嫌われる。

ステランティスのカルロス・タバレスCEO(最高経営責任者)は、PSA(プジョー/シトロエン)のCEOだった時代に「BEVを作れと言われればいつでも作る。しかし、その責任も政府に取ってもらいたい」と言った。一気に電動化へと雪崩を打ったように見える欧州のOEMだが、本音は違うところにある。そう思わせる発言だ。

「◯◯年までに◯◯車種のBEVを投入する」
「◯◯年までにすべての乗用車を電動化する」

こういう発表がすべて実現すると思っているのはメディアだけかもしれない。一般メディアにとってICEは、「終わった」も同然のようだ。しかし、補助金が打ち切られたあとでのBEV普及については、EU政府も見通しが立っていない。これが2022年末の状況である。

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著者プロフィール

牧野 茂雄 近影

牧野 茂雄

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産…