ホンダの軽スポーツ、N-ONE RSには、MTとの対話をとことん楽しむための技術が投入されている

ホンダN-ONE RS(6MT) 車両本体価格:199万9800円
ホンダ最小のターボ+MTモデルが、N-ONE RSである。S660やS2000由来の技術やパーツが走りとドライバーの記分を盛り上げる。N-ONE RS、楽しいクルマである。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

小気味良いシフトフィールのMTは秘密あり

ホンダ青山本社地下駐車場にて メテオロイドグレー・メタリック(8万2500円の有料色)
トレッド:F1295mm/R1295mm 最低地上高:140mm 車両重量:840kg 前軸軸重520kg 後軸軸重320kg

N-ONE(エヌワン) RSには6速MT車の設定がある(ほかにCVT車の設定がある)。ホンダ最小のMT車だ。軽貨物車のN-VANにもMT車の設定はあるが、N-VANのMT車は自然吸気エンジンとの組み合わせしか設定がない。N-ONE RSの場合はパワフル、かつトルクフルなターボエンジンとの組み合わせとなる。N-ONE RSのほうが小さく、低く、軽いうえに力強いため、軽快な走りを楽しむことが可能だ。

6MTのギヤ比はS660と同じ。最終減速比も同じ。ちなみに車重もほぼ同じ(S660 830kg)。

N-ONE RSが搭載する6速MTはN-VANのトランスミッションケースに、ミッドシップオープン車S660(2022年3月に販売終了)のギヤユニットを入れたものだ。1速~5速をクロスさせ、6速を高速巡航ギヤとしたレシオ設定もS660と同じ。クラッチもS660と同じ高トルク型を使用。シフトレバーの長さやシフトノブの角度はN-ONE専用にチューニングしているが、シフトノブ本体はS2000(FRオープンスポーツカー。2009年に生産終了)のメタル部分を流用。これに専用にディンプル加工した本革を巻いている。

シフトノブはフロアではなくインパネにある。MT車の開発に際してはコンベンショナルなフロアシフトも検討したが、フロアにシフト操作部を設けると、操作の際に助手席乗員の膝と干渉することがわかった。それが、インパネシフトを採用した理由のひとつ。もうひとつは操作性だ。N-ONEのようにアップライトな運転姿勢となる場合はフロアシフトよりもインパネシフトのほうが操作性に優れることが確認できたという。ステアリングとシフトノブの距離が近いのも、操作性の点で有利に働く。

N-ONE RSのシフトノブ、ドライバーをその気にさせる仕立てだ。アルミのトップとディンプル処理が施された本革のグリップ部にオレンジのステッチ。ディンプル処理の本革とオレンジのステッチはステアリングホイールのグリップ部と呼応している。シフトノブがインパネにあるため視界に入りやすく、それが気分の盛り上げにひと役買う。スェード調のシート表皮とオレンジステッチの組み合わせもスポーティだ。

パーキングブレーキはレバーを引き上げるタイプでも足踏み式でもなく、いまどきの軽自動車らしく電動式(EPB)だ。信号待ちなどでブレーキペダルから足を離しておけるオートマチックブレーキホールドも装備している。エンジンをオフにするとBRAKE HOLDもオフになるので、始動のたびにスイッチを入れる必要がある。

旋回時に内輪にわずかにブレーキをかけてヨーモーメントを発生させ旋回性を高めるアジャイルハンドリングアシストは、N-ONE全車に標準で装備する。これも、N-ONEのキビキビした動きを(制御の介入を意識させることなく)助ける。

電動ウェイストゲート採用のターボユニット

エンジン 形式:直列3気筒DOHCターボ 型式:S-07B型 排気量:658cc ボア×ストローク:60.0mm×77.6 mm 圧縮比:9.8 最高出力:64ps(47kW)/6000pm 最大トルク:104Nm/2600rpm 燃料供給:PFI 燃料:レギュラー 燃料タンク:27ℓ

メータークラスターの右側にあるエンジンスタート/ストップボタンを押すと、S07B型の658cc直列3気筒ターボエンジンが目覚める。N-WGNのターボ仕様と基本的には同じユニットだが、N-ONE RSのMT車向けにハード、ソフトの両面で改良が施されている。S660のS07A型は余剰の排気を逃がすウェイストゲートに負圧式を用いていたが、N-ONE RSのS07B型は過給圧の制御性が高い電動ウェイストゲートを採用。ソフトウェア面では、トルクの急激な立ち上がりを抑える制御にしたという。

アイドリングもそうだし、加速に転じた際もそうで、3気筒エンジンに特有のランブル音(ゴロゴロ音)がはっきりと耳に届く。なかなか野性味あふれるサウンドで、気分を盛り立てる。周囲の流れに合わせてジワーっと加速する際はランブル音をやさしく響かせながら大人しく加速するが、ちょっと強めに加速しようとアクセルペダルの踏み込み量を大きくすると、エンジン音は咆哮に変わり、二次曲線的に加速度が立ち上がって過給エンジンの実力を思い知ることになる。なかなか刺激的だ。

RSはメーター右側のマルチインフォメーションディスプレイにGメーターとブースト計を表示することが可能だ。

RSはメーター右側のマルチインフォメーションディスプレイにGメーターとブースト計を表示することが可能。これも、気分の盛り上げにひと役買う要素だ。

シフトフィールはかっちりしている。剛性感の高さが印象的だが、シビックのガソリンエンジン車やシビック・タイプRほどガチガチの剛性感ではなく、あくまで、最高出力が47kW(64ps)で最大トルクが104Nmの、840kgの車重しかない小さくて軽くてキビキビ動く軽自動車の車格に合った剛性感だ。気負わずに操れる。

シンクロ機構には、S660に採用しているのと同じダブルコーンシンクロとカーボンシンクロを採用。1速から2速、2速から3速へのシフトアップ時の操作力を低減させ、ショートストロークとの両立に寄与しているという。クラッチには、クラッチペダルに伝わる振動を軽減するダンパーを採用。スムーズなクラッチフィールの実現を図っている。

N-ONEにただMT車を設定したわけではないことが、これらの説明からおわかりいただけるだろう。N-ONE RSには、MTとの対話をとことん楽しんでもらうための技術が投入されている。ナリは小さいが、ブラック基調のサイドモールやアルミホールなどの効果で、存在感はたっぷり。ひと目で走りを意識したクルマであることがわかる。見た目の印象を裏切らない走りを提供してくれるし、なによりMTの操作が楽しいクルマだ。

燃費:WLTCモード 21.6km/ℓ  市街地モード17.5km/ℓ  郊外モード:22.8km/ℓ  高速道路モード:22.0km/ℓ
リヤサスペンションはトーションビームアクスル方式
フロントはマクファーソン式
ホンダN-ONE RS(6MT)
全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1545mm
ホイールベース:2520mm
車重:840kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式 
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列3気筒DOHCターボ
型式:S-07B型
排気量:658cc
ボア×ストローク:60.0mm×77.6 mm
圧縮比:9.8
最高出力:64ps(47kW)/6000pm
最大トルク:104Nm/2600rpm
燃料供給:PFI
燃料:レギュラー
燃料タンク:27ℓ
燃費:WLTCモード 21.6km/ℓ
 市街地モード17.5km/ℓ
 郊外モード:22.8km/ℓ
 高速道路:22.0km/ℓ
トランスミッション:6速MT
車両本体価格:199万9800円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…