ホンダN-VAN 軽バンだけど、プライベートユースもばっちり。+STYLE FUNは個性が際立つ

ホンダN-VAN L特別仕様車 +STYLE FUN 車両本体価格:162万9000円(試乗車はディーラーオプション ナビ21万5600円などで199万6082円)
ホンダの軽バンであるN-VANは、Nシリーズの「4ナンバー軽貨物自動車」だ。道具として優秀なだけでなく、プライベートユースでも使い方いろいろで楽しめるのがN-VANの魅力。そのN-VANの+STYLE FUNは、「道具としての個性はそのまま、個性を際立たせた」モデルである。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

軽バン初の6速MTはS660由来

運転席側はBピラーあり。

N-VAN(エヌバン)は軽商用車(軽バン)だ。カタログには「N-VANは全タイプ、4ナンバー軽貨物自動車」と記してあり、以下のような説明がある。

「荷物を積む・運ぶために必要な荷室面積をしっかり確保したN-VANは、全タイプ4ナンバー軽貨物車。ビジネスカーとしてお使いいただけるだけでなく、一般のお客さまも安心してご購入いただけます。4ナンバー軽貨物車は、5ナンバー軽自動車と比べて自動車税の負担が軽減されます。また、初回車検の有効期間は4ナンバー普通貨物車と同じ2年間。2回目以降の車検の有効期間は普通車と同じ2年間(4ナンバー普通貨物車は1年間)です」

つまり、個人がプライベートで使ってもいいということだ。「なるほどねぇ」と、ショッピングモールのフードコートで食休みをしながら思った。実はほとんど予備知識を持たずにN-VANに乗り込んでいた。貨物車だから「MTなんだね」くらいの軽いノリで動かし始めたのだが、後で調べてみれば「軽バン初の6速MT」ということで、貴重な存在なのだった。しかも、そのMT、ミッドシップ車のS660(2022年3月に生産終了)用がベースだという。

質実剛健だが、使いこなす喜びがありそうなインテリア。

試乗車は+STYLE FUN(プラススタイル・ファン)で、FFで(4WDの設定もある)、6速MT(CVTの設定もある)だった。エンジンはS07B型の658cc直列3気筒自然吸気エンジンを積んでいる。ターボ仕様もあるが、FF、4WDともCVTのみの設定だ。

+STYLE FUNは「道具としての個性はそのまま、個性を際立たせた」とカタログにある。「G」と「L」は道具に徹した仕様で、例えばボディカラーはホワイトかシルバーしか選べない。+STYLE FUNはフレームレッド、ソニックグレー・パール(試乗車)、プレミアムイエロー・パール、フレンチブルー・パール、アドミラルグレー・メタリック、ガーデングリーン・メタリック、プラチナホワイト・パール、ナイトホークブラック・パールの8色から選択が可能だ。

カラフルなボディカラーをしていたら仕事ではなく遊び寄り、仕事に使っていてもおしゃれに気を使ったチョイスをしたことがわかる仕掛けだ。道具に徹したGとLは角型のハロゲンヘッドライトなのに対し、+STYLE FUNは丸目のフルLEDヘッドライトなのも識別点である。

おぉっ! ローギヤードだからあっという間に噴けきる

全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1945mm ホイールベース:2520mm 車重:940kg
ボディカラーはソニックグレー・パール
最小回転半径は4.6m

青山一丁目交差点角にある本田技研工業株式会社の敷地から片側3車線の幹線道路に出て加速を試みたところが、「ぬぬっ!」となった。あっという間に噴けきってしまう。だいぶローギヤード(変速比が大きい)な設定だ。周囲の流れに合わせて加速すると、10km/hを超えたところで2速、25km/h程度で3速、40km/hで4速、50km/hで5速、60km/hで6速に上げるイメージだ。レッドゾーンは7000rpmに設定してあり、心地良く、リズミカルに運転するには、1→2速、2→3速は4000rpm近辺でシフトアップしたくなる。

6速MTの設定があるN-ONEとオーバーオールのギヤ比(変速比×減速比)を比較してみたら、1速は約42%、2、3速は34~35%、4、5速は約23%、6速は約20%、N-ONEよりもローギヤードな設定だった。N-VANの最大積載量は軽貨物車の常で350kgである。1速はフル積載時の発進性能を確保するための設定だろう。

エンジン 形式:直列3気筒DOHC 型式:S-07B型 排気量:658cc ボア×ストローク:60.0mm×77.6 mm 圧縮比:12.0 最高出力:53ps(39kW)/6800pm 最大トルク:64Nm/4800rpm 燃料供給:PFI 燃料:レギュラー

いっぽうで、N-ONEよりローギヤードといえども6速まで変速段があるメリットを生かし、100km/h走行時のエンジン回転数は4000rpm近辺だ。都内~埼玉県の首都高速を周囲の流れに合わせて走っている場合はもっと車速は低く、エンジン音も低くて騒々しさとは無縁である。音楽を充分楽しめる車内環境だ。

フル積載時を想定したハイギヤードな設定は1名乗車の空荷ではまどろっこしいかというとそんなことはなく、慣れてしまえばなんのことはない。筆者がMTの操作を苦にしないこともあって(というより、大好きだ)、単純に楽しい。それを知る者にとってはパーキングブレーキがステッキ式(手前に引っ張ってブレーキをかけ、ひねって戻し解除)なのは郷愁をそそる(CVT仕様は足踏み式)。

軽バン初の6速MT。MTのユニットはS660用だ。
パーキングブレーキはステッキ式。

1名乗車&空荷だからかもしれないが、市街地および高速道路において力不足を感じるシーンはなかった。左足を休ませておくのに充分なスペースはないが、3つのペダルはオフセットせず、ドライバーに正対した配置なので不自然な姿勢を強いられずに済むのはありがたい。ステアリングの位置調整はチルトのみで、上から抱え込むようなアップライトな姿勢を強いられるため自然と背中が起きた、いい姿勢になる(苦ではない)。

タイヤはヨコハマJOB RY52
サイズは145/80R12
指定空気圧はFが280kPa、Rが350kPa

145/80R12の小さくて細いタイヤを見ると、「これは慎重に運転しないとな」と肝に銘じたくなる。無理をしてオーケーという意味ではないが、意外(?)に頼もしく、日常的な走りでは乗り手を不安に陥れるような挙動を示すことはなかった。指定内圧が前輪280kPa、後輪350kPaと極めて高めな設定なのは荷重対応だろう。内圧は高めだが、乗り心地面で我慢を強いられるようなこともない。サスペンションの仕立てが絶妙なのだろう、乗り味は軽乗用車ライクだ。後席での移動は体験していないが、シートの見た目はバスの補助席風なので、多くは期待できそうにない。

シートアレンジの豊富さもN-VANの魅力

フードコートでカタログを開いて、「え、そうだったの?」と驚いたのが、助手席側にセンターピラーがないことだった(今さらかよ、とのご指摘もあろうが)。しかも掲載された写真は助手席と後席がきれいに折りたたまれており、大開口かつフラットなフロアが広がっている。「これは試してみなければ」と公園に向かい、駐車場で確かめた。

助手席シートの側面に「シート収納操作手順」が描いてあり、手順どおりに操作すればあら簡単、助手席と後席左側が完全にフラットになった。慣れれば手順を参照しなくても操作できると思えるくらい手順はシンプルだ。写真の状態は2名乗車時・助手席&荷室フラットモードだ。後席右側を倒せば、1名乗車時・助手席&荷室フラットモードになる。

シート収納操作手順はここにもわかりやすく記されている。

カタログには「脚立などの長尺物もすっきりおさまります」と書いてあるが、この状態を見て、実際に確かめてみるまでもなく「これなら寝られるな」と思った。ストレスなく寝返りが打てるかどうかは別にして、余裕で車中泊できそうだ。ちなみに、助手席+後席を倒した際の荷室長は2.5mを超えるという。センターピラーレスがもたらす大開口は圧巻のひと言で、荷物の出し入れも、人間の出入りもしやすそうだ。

N-VANは運転しても楽しいし(6速MT仕様はMT好きにはたまらない)、「どう使い倒してやろうか」と想像するのが楽しくなるクルマでもある。

センターに速度計、左に回転計を備える。モード燃費はWLTCモード 19.8km/ℓだ。
トレッド:F1310mm/R1310mm 最低地上高:155mm
ホンダN-VAN L特別仕様車 +STYLE FUN
全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1945mm
ホイールベース:2520mm
車重:940kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式 
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列3気筒DOHC
型式:S-07B型
排気量:658cc
ボア×ストローク:60.0mm×77.6 mm
圧縮比:12.0
最高出力:53ps(39kW)/6800pm
最大トルク:64Nm/4800rpm
燃料供給:PFI
燃料:レギュラー
燃料タンク:27ℓ
燃費:WLTCモード 19.8km/ℓ
 市街地モード17.8km/ℓ
 郊外モード:20.7km/ℓ
 高速道路:20.2km/ℓ
トランスミッション:6MT
車両本体価格:162万9000円(試乗車はディーラーオプション ナビ21万5600円などで199万6082円)

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…