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ジムニーとジムニーシエラ、同時に乗り比べると相違点が良くわかる
新型ジムニーの魅力は各部の「オーバークオリティ感」ではないだろうか。ボディ各部の遮音が上手く、エンジンやサスペンションの突き上げが少ない。NVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)の質感向上と「プロの道具として」という言葉通り、ドライバーを信用した仕上げられたエンジン特性やギヤ比の見直しなどによって、ジムニー&ジムニーシエラが持つ走りの魅力、個性が際立っている。
オフロードのみならず、一般道でも「最近の新車は楽しくない」と思っていた筆者のようなドライバーの心に刺さったというのが、ヒットの要因ではないか。自分でも呆れるが、自動車研究家として興味の尽きない魅力を新型ジムニー&ジムニーシエラは持っていたのである。
この日は筆者が「Toshiミーティング」と題して、車種不問のオフ会を箱根ターンパイクで企画していたので、その道中で2台を乗り比べてみた。
ジムニーは100km/h巡行で4000rpm回ってしまう
新型ジムニーは、当初は街中の移動メインの軽自動車で格好いいクルマが欲しくて購入したが、本格オフローダーとしての性能を試したくて何度か林道やキャンプに出かけるうちに、高速移動の疲労度が気になるようになってきていた。
アルトワークスと同じR06A型の直列3気筒、660ccターボ(64PS、9.8kgm)エンジンをジムニー専用に低速よりの特性にチューニングされ、軽としては十分に快適で静粛性にも優れているが、やはりは100km/hで約4000rpmで、音が大きく、また四角いボディでサスペンションが柔らかいため、トンネル出口など強い風が吹いていると直進安定性が乱れて、ドキッとすることが時々ある。
一方、新型ジムニーシエラは街中の狭い道ではワイドトレッドのため、ジムニーより僅かに大きくは感じられるが、ミラーtoミラーは同じで、それほどサイズ感に違いはない。高速ではK15B型の直列4気筒、自然吸気1500cc(102PS、13.3kgm)のトルクを活かして、ファイナルギアがハイギヤードに設定されている。
100km/h巡行で約3000rpm前後と最近の1500ccクラスとしてはローギヤードで回転数が高めなものの、ジムニーよりははるかにエンジン回転、振動共に少なく、静かで快適だ。強風、横風などに対しても気になるほど大きく姿勢を乱したりはしないので嫌な緊張感を持つことなく、安心してドライブできる。オートクルーズを併用すればさらに快適だ。
軽自動車の場合、高い回転数をキープするのにアクセルを深く踏み続けていることが意外に疲れるのだが、ジムニーはクルーズコントロールがあるため、その疲労が軽減されるのは素晴らしい。軽なら高速料金がかなり割引となる路線も多いのでそれもありがたい。そんなメリットは十分に理解した上でも「高速に乗って郊外のオフロードを走りに行く」という場合、ジムニーシエラの高速巡航での快適性はかなり高い。
トルクの余裕の差は歴然としている。欲を言えば将来、「ACC(アダプティブクルーズコントロール)が欲しい!」と考えた際に軽のジムニーでは追従するために減速、加速を繰り返すのがかなり大変になりそうだが、ジムニーシエラなら難なくこなすだろう。
ターンパイクの登りではシエラのトルクが頼もしい
軽自動車の新型ジムニー「XC」5MTでオフ会の会場となるターンパイク箱根のワインディングロードに入っていく。急な上り坂がずっと続く箱根で軽のジムニーはやはりかなり苦しそうだ。車両重量1030kg は軽としてはやや重めのフレーム構造、4WD車だ。4速、5速は回転が落ちてきて、エンジンに負担になりそうなので、3速で基本のぼり、かなり急坂では時々2速を使ったりしながら登っていく。
ダイレクト感のあるエンジン、クラッチ、シフトフィールはとても気持ちよく、ブレーキのコントロール性も素晴らしいため、スポーツカー気分を味わえる。ねじり剛性が約1.5倍となったフレームと3リンク固定車軸サスペンションはコイルスプリングを採用しているが、ブッシュ類の絶妙なチューニングが上手く、一体感のある走りを実現している。しなやかな乗り心地とオンロードでのコーナリング性能は想像以上だ。ある一定のロールは許すものの狙ったラインにピタリと乗って、綺麗にコーナリングしていくので実に気持ちが良い。
転倒しそうな雰囲気などはない。ただし、リサーキュレーティングボール&ナットのステアリングのダルさ、タイムラグは慣れが必要だし、175/80R16タイヤは80偏平かつ175と細めで、過信して限界を攻めすぎるとグニャッとタイヤが倒れ込んで、最後は強めのアンダーステアを出して大きく外に膨らむので特に下り勾配は注意が必要だ。5速マニュアルで運転を練習するのに最適な1台だ。「大人の男が、こんなに格好良く乗れる軽自動車は他にない!」と今でも思っている。
新型ジムニーシエラ「JC」5MTに途中で乗り換え、さらに箱根ターンパイクを登っていく。エンジンは余裕があり、5速のままでは厳しいが4速で登っていける。急坂では3速にシフトダウンすればかなり元気な走りでワインディングを楽しめた。普通に流して走る分には2速まで落とさなくても走れる。
コーナリングはジムニーと同様の印象で大きなオーバーフェンダーとワイドトレッド化の恩恵で更に安定していて、グリップ感もあり、とてもバランスが良い。2Hで走行する際はエンジン縦置きのFR車だが、1500ccのエンジン、4WDシステムを持つ割に車両重量1070kgと軽量な車体で前後重量配分は前:590kg(55%)、後:480kg(45%)と50:50に近い理想的な数値を実現している。
ややウエットな路面においてはスポーツカー顔負けではないかと思えるほどの安心感と手応えがあった。195/80R15タイヤは80偏平タイヤでも195と幅があり、ジムニーと比較すれば頼り甲斐があってしっかりグリップする。グニャグニャした感触ではなかった。
それにしてもこのエンジンの音、レスポンス、なかなかのものである。スペック的には大したことはないが五感を刺激する良いサウンドと中回転域のトルクの盛り上がり方は実に気持ちいい。ついつい夢中になって走ってしまうので、スポーツカーと勘違いしてしまいそうだ。吹け上がりもそうだが、回転落ちも良いので面白い様にヒール&トゥが決まる。アップテンポなリズムは実に気持ちよく、最後に新車で購入できる純粋なガソリンエンジン車として、運転が好きな方に是非、お勧めしたい。
しばらくの間、2台を乗り比べて研究して結局、新型ジムニーシエラを残し、1年1万km乗った新型ジムニーを手放した。なんと信じらえないことに新車時の購入価格とほぼ同じ金額で購入を熱望していた友人に譲ることとなった。1年経過しても納期1年待ち以上という異常な状況のため、買取店で査定しても200万円以上の金額がつくプレミア状況だったため、200万円で売るのは恐縮であったが、それでも喜ばれた。そして、この後も1年待ち近い状況が4年も続き、リセールバリューはずっと高いままというのは本当に驚きだ。こんな状況、過去にもほとんどないのではないか。
新型ジムニーはアルトワークス譲りのDOHCターボらしく、元気一杯の若い走り、新型ジムニーシエラは4気筒らしい余裕のある大らかな走りとNAならではのレスポンス 、どちらもとても魅力的で今でもどちらを所有しようか、迷う。一長一短でそれぞれ良いところがあるが、ここから先、新型ジムニーシエラに乗ってみたいと思ったのは、サイズ感にそれほど違いを感じなかったことと、「もっと遠くへ出かけて、いろんなオフロードを走ってみたい」と考えた時にそこまでの移動が楽にできるからというのがその理由だ。
もちろん、まだ十分に乗っていないから、という理由もある。決して新型ジムニーに飽きてしまったわけではない。もっと若くて体力もあれば軽の新型ジムニーで休み休み、車中泊で何年も所有して遊びに出かけていたのではないだろうか。ということで長く続いた新型ジムニー連載レポートはひとまず今回で終了。新型ジムニーシエラはまた機会があればレポートしていきたい。