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5ナンバーサイズをキープ。モビリティショーで手応えを感じた。
遠藤 10月に開催された「ジャパンモビリティショー2023(以下、JMS)」には「スイフトコンセプト」を出品されましたが、来場者からの反応はいかがでしたか?
邉田さん 私は説明員として立ち会っていたのですが、手前味噌ながらすごく良かったですね。現有車からの代替を検討したいというお客様もいらっしゃいましたし、「5ナンバーサイズをキープしながら現行モデルより大きく見える」という声もいただきました。
クールイエローメタリックのモノトーンと、フロンティアブルーパールメタリック×ブラック2トーンルーフの2台を展示しましたが、後者は「スイフトスポーツですか?」とご質問いただくこともありました。
遠藤 特にブルー2トーンの方が「スポーツ」らしく見えたと。
邉田さん はい。こちらは台上げもされていたので。
高橋さん 「スポーツ」に対する期待の声は大きかったですね。
遠藤 そうなりますよね(笑)。内装に関してはいかがでしたか?
邉田さん 内装も評判が良かったですね。イエローの方は車内に入れる平置きの状態だったので、「質感が上がっていますね」という評価をいただけました。
エクステリアはフローティングルーフで軽やかさを表現
遠藤 なるほど。まずはエクステリアの開発からお伺いしますが、スイフトは3世代前からずっと成功し続けているクルマで、その分難しいと推察しますが、新型ではどういうフフにデザインしようとお考えになりましたか?
琴田さん 新型の商品コンセプトが「エネルギッシュ×軽やか」で、「エネルギッシュ」は歴代スイフトが培ってきたものですが、「軽やか」をどう表現するかをいろいろ考えました。
先代はエネルギッシュな方が強く出た、筋肉質な形でしたが、今回は多面体をモチーフにして、面質としてはスッキリしていて、抑揚が少ない、筋肉質ではないもので、素直に多面体をつないでロー&ワイドなスタンスにしています。
そして今回、キャビンが完全に抜けた形になっているんですね。フローティングルーフをかなり明快にして、軽やかさを表現しました。
遠藤 写真で見ても実車を見ても、先代より押し出し感を弱めて、小さく見せる方向でデザインされた印象を受けましたが、むしろ逆でしょうか……?
琴田さん 実寸法は先代とほとんど変わりませんが、凝縮感という意味では小さく見えると思います。特にフロントまわりは凝縮した雰囲気がありますので。狙いとしては、このフードの回り込みと、フェンダーの外側に張り出した部分とにギャップを作ることで、対比的に大きく見えるようにしています。JMSでの評判を見ますと、「5ナンバーサイズに見えない」という声もありましたので、その辺りは狙いが伝わっていると感じました。
遠藤 先代の海外仕様は全幅1700mmを超えていましたが、日本仕様は5ナンバーサイズを維持していました。新型では市場ごとの作り分けを行う予定ですか?
琴田さん 現時点ではお答えできませんが、先代はそのようになっています(笑)。
遠藤 なるほど(笑)。仮に拡大されるとしたら、このフェンダーまわりはシルエットが結構変わりそうな気がしますが……。
琴田さん 5ナンバーでも幅広感が遜色ないようにはしています。
遠藤 前後LEDランプの光り方も綺麗ですね。このポジションランプで、幅広感を演出しているのでしょうか?
琴田さん 造形のアウトラインを強調していますね。
遠藤 この光らせ方も今風というか、Z世代を意識したものなのでしょうか?
琴田さん グラフィックを考える時は、デジタルというキーワードが出てきますね。従来は曲線で緩やかに変化させていましたが、新型ではカクカクさせて、デジタルっぽい表現にしています。
遠藤 こうしてカクカクさせると、この導光チューブを綺麗に光らせるのが……。
琴田さん 大変でしたが、お金をかけずに頑張りました(苦笑)。
空力パーツを煮詰めて燃費を向上
遠藤 新型では燃費についても大きな性能要件とされたようですが、その点で空力性能とエクステリアデザイン表現との整合性を、どのように詰めていったんでしょうか?
琴田さん 空力側の要求値はかなり高かったですね。最終的な形状としえは、空力処理が見えない方向を目指して開発していますが、特に注力したのは最も影響を受けやすいフロントコーナーとリヤエンドですね。
経年劣化に対応するため、キャビン回りをツヤありの黒にしていますが、リヤクォーターピラーを樹脂化したんですね。それで、開発の最終段階まで、この樹脂パネルを作り込めました。
開発に7年をかけた新色「フロンティアブルーパールメタリック」
遠藤 ボディカラーは新色の一つ、フロンティアブルーパールメタリックが非常に綺麗ですが、開発に7年かかったと伺っています。特にどういう点で苦労しましたか?
高橋さん ありがとうございます。フロンティアブルーパールメタリックは3層構造ですが、これは先代にもあるバーニングレッドパールメタリックと同じ構成なんですが、相良工場の塗装ラインは水性ラインなんですね。
水性塗料なので、粘度が低くシャバシャバしているので、縦面の密着性が悪いんですね。流れ落ちてしまいますので、そこを薄膜でなんとかこの鮮やかさを達成するために、三層構造にしています。
三層構造の何が良いのかというと、一層目に赤みの入ったブルーが入って、その上に透明性顔料、透けさせる青を入れています。そうすることで、影では一層目、赤みのあるブルーが見えて、光の当たったところでは二層目の緑みのあるブルーが見えます。そうすることで、深みと鮮やかさを両立しています。しかもそれを、3コートの薄膜構成で実現するのが、難しかったですね。
しかも薄膜なので、塗装機が一回塗って帰ってくるとそれだけで色味が変わってしまうんですね。自動の塗装機で塗装していますが、そのコントロールや、季節ごとに変わってしまう塗料の特性……乾燥時間も変わりますので、それに対応するのが難しかったですね。ですがそれは、塗料メーカーさんと当社生産技術スタッフとの連携で、なんとか量産に漕ぎ着けることができました。
通常は中塗りを塗った後に一回焼いて……他社さんの多層コートでは一回塗るごとに焼いて安定させながら塗装するんですが、当社では中塗りから一層目、二層目、クリヤーまでつなげて、一度も焼かずにウェット・オン・ウェットで塗装しています。
そうすることで、工場で大命題となっているカーボンニュートラルを達成するのにも貢献しつつ、エネルギーを抑えつつ、小型車クラスで多層コートを採用することを達成したのが、スズキとしては社会貢献も含めてお客さんに喜んでもらえ、いい関係・成果になったのではないかと思っています。
遠藤 ウェット・オン・ウェットということは、それだけ短時間で塗装できるわけですから、生産効率の向上にもつながりますよね。実車を見てもフリップフロップ(色味の変化)が大きく、順光では強く光って、日陰に入ると色味が黒く沈みますので、カメラマンさんは撮影が大変だと思いますが(笑)。
高橋さん そうですね。ですから走っていると、光のドップラー効果でかなり変わって見えますので、面白い色になった、印象的な色だと思います。
遠藤 その分、事故で損傷した時の修理は大変そうですね。
高橋さん そこも今回はこだわっています。スズキのクルマですから、修理ができないと市場で困ってしまうということで、リコート(再塗装)性も含めて開発していますので、市場に出てからもアフターケアをしていくというお墨付きをいただいています。その辺りも頑張りました。
遠藤 再塗装の方法は、他のカラークリヤー系ボディカラーとさほど変わらないのでしょうか?
高橋さん カラークリヤー系とは若干違いますね。透明性顔料を使用していますので、完全に染料系ではありません。そこで隠蔽性を稼ぎつつ、リコート性も担保しました。そこにもいろいろ技術的ノウハウがあります。
遠藤 隠蔽性を上げれば、塗膜の厚みでの色味の変化が少なくなるのでしょうか?
高橋さん そうですね。デリケートではありますが。
遠藤 クールイエローメタリックも新色ですが、こちらは通常の2コートメタリックでしょうか? 実車を見るとかなりソリッドカラーっぽいですが……。
高橋さん そうですね。これまでスイフトは「ダイナミックスポーティ」というキーワードで語られることが多かったのですが、フロンティアブルーパールメタリックはその文脈に沿った正常進化の色、先代のスピーディーブルーメタリックの進化の到達点だと思っています。
クールイエローメタリックに関しては、新型では新たな客層を増やしたいということで、Z世代の嗜好を調査したり、若いスタッフからのカラー提案によって実現した色ですね。
イエローは軽くカジュアルで明るいイメージですが、Z世代のデジタルネイティブなライフスタイルを加味して、メタバース空間と現実とを当たり前に行き来している感覚にフィーチャーして、その中で例えば最近のスポーツウェアに見られるバイオ素材のような、スニーカーなどに見られるウレタンやシリコンのマット感に合わせて、ソリッド感を狙っています。ですが半透明の袋を一皮被ったような面白い見え方を、塗装で実現したということです。
ですから、カジュアルというよりは名前の通りクールな印象で、どこかミステリアスな感覚を持っていただけると思います。
遠藤 イエロー系の色は、先ほどお話のあった隠蔽性の問題が最も出やすいと思いますが……。
高橋さん クールイエローメタリックでは、メタリック顔料を隠蔽性向上に使っています。シェード側で若干黒く見えると思いますが、その雰囲気が面白い、車両の開発コンセプトにも合っていると思います。
遠藤 敢えてソリッドにしなかったのは、耐久性の面も考慮されたのでしょうか?
高橋さん 隠蔽性の面もありますし、一層多く入れることで、ハイライト側で白く抜けてほしかった、本当にソリッドではなく先進素材感を出したかったんですね。
遠藤 ちなみにフロンティアブルーパールメタリックとクールイエローメタリック、それぞれのサプライヤーは?
高橋さん フロンティアブルーパールメタリックはBASFさん、クールイエローメタリックは関西ペイントさんです。
遠藤 2トーンカラーにルーフ色が2色あるのも面白いですね。
高橋さん 「スポーティ」と「Z世代」ということで、フローティングルーフは「スポーティ」のイメージとして従来からありますが、ガンメタリックのルーフ色を設定したのは、コントラストを若干落としてあげて、メタリックに見せることで、先進的なイメージとデジタルなテイストを表現したかったからですね。
遠藤 だから、クールイエローメタリックとピュアホワイトパールのボディ色に、ガンメタリックのルーフ色を組み合わせたんですね。一方でフロンティアブルーパールメタリックとバーニングレッドパールメタリック、3コートのボディ色にはブラックのルーフ色を組み合わせています。
高橋さん この2トーンの4種類が、新型スイフトのコンセプトを最も明快に表していると思います。
遠藤 2トーンの塗り分け位置は、実際にはルーフ骨格の回り込みですが、各ピラーのブラックテープやリヤクォーターピラーの樹脂パネルを上手く使うことで、もっと下側で塗り分けているように工夫されています。
高橋さん 2トーン色のバリエーションが増えると、それだけ工場での入れ替えなど負担や管理費が増え、生産性も落ちますが、何とか頑張ってもらっています。
遠藤 カラーバリエーションとしては、派手な方もあり、落ち着いた方もあり、その中間もあり、バランスがいいですよね。取りこぼしがないように感じます。
高橋さん そうですね。今までは高彩度のビビッドな色がスイフトのキャラクターでしたが、今回はイエローやアイボリーなども設定し、幅広いお客様に受け入れられるようにしました。
「スポーツ」のチャンピオンイエローはザ・スポーツなので、それとは全く違う方向性ですね。
ドライバーを中心に設計されたインテリア
遠藤 インテリアの方はエクステリアよりも大きく変えてきた印象ですが、その狙いは?
江口さん 全体の商品コンセプトである「エネルギッシュ×軽やか」を自分たちなりに噛み砕いて、乗った瞬間に気持ちが高まる、ワクワクするような高揚感、まわりに景色がいつもとちょっと違って見えるのを、新型スイフトのインテリアで表現しました。
もう一つは、従来の価値観の延長線上にありますが、人車一体感、これはスポーツの要素として外せないので、その両軸を中心に開発を進めました。
遠藤 全車にマットなホワイトの、鱗状の処理も入った加飾パネルを装着していますが、これはかなり攻めたデザインという印象を受けました。
江口さん これは一番最初のデザインスケッチから入っていますが、これはZ世代に向けてどのような新しい価値観を提供できるかを考えて、入れたものです。
従来のスイフトは黒を主体にした色数の少ないものでしたが、今回は趣を変えて、グレーと黒の2トーンで乗員を囲むような形状にすることで、軽やかさや明るさ、安心感を表現しました。またインパネ中央に黒を入れ、先進感や浮遊感、軽やかさを出すことで、Z世代に共感していただけることを狙っています。
またインパネ中央のモニターも先代より130mm上方に上げたのですが、やはりデジタルネイティブ世代にはこうしたデバイスの存在感が重要だと思い、それが際立つような造形を目指しました。
そして、ドライバー目前の風景を三層構造に区分けしたんですが、遠景を白いガーニッシュの部分、乗員から最も遠い所に置き、囲むような、一体感や安心感を持てるような形状にしました。
その後に、浮遊感のある黒、これを中景と呼んでいますが、ここで浮遊感を表現しています。
最後に、ナビ、ディフューザー、エアコン操作ユニットはドライバー側への傾きを従来の5°から8°へ、プッシュスタートスイッチなどは同じく従来の0°から3°へ増やして、乗員にとって使いやすい機能感の表現として、近景として表現しています。
遠藤 実際のリーチや操作性も良くなっていますよね。
江口さん 開発中もクレイモデルの段階から、操作性の観点からどの位置がベストか、設計部門と一緒に考えました。
遠藤 新型スイフトに通常のDINサイズのオーディオは装着可能ですか?
江口さん DINの仕様もあります。
新しいスポーティ表現を目指したカラー&マテリアル
遠藤 シートの基本設計は先代と同じですか?
邉田さん 形状は基本的に変えていませんが、表皮に立体感を出しています。標準の「XG」グレード用は王道のスポーティ表現で、真っ黒な表皮に光沢のある底糸が入っているので、透かした時にキラッと光ります。
上級の「ハイブリッドMZ」「ハイブリッドMX」用表皮では新しいスポーティ表現を目指したので、メインがメランジっぽいグレーの表皮、サイドが黒になっています。それによって、内装色の黒とグレーに合わせて親和性、内装全体での統一感を強調しています。
遠藤 シート表皮に明るい色を使おうとは考えませんでしたか?
邉田さん もっと明るい色も作ってみましたが、そうすると車格に対して軽すぎるというのがあり、今回の明度感のグレーに落ち着きました。
樹脂パネルのライトグレーも、いろんな色を検討しています。最初はサンプル片で、その後はもっと広い面積のもので、最終的には実際に使用する樹脂でパネルを整形して、量産車のものに行き着きました。
他の色やモノトーン、真っ黒なども検討しましたが、コンセプトが明確だったので、ライトグレーを作ろうということ自体に迷いはありませんでしたね。
遠藤 本当に微妙な違いの中から色を選んだんですね。
邉田さん 同じライトグレーでも青みが強すぎるとねずみ色っぽくなり、質感が出なかったので、黄色寄りにしつつも、黄味が強すぎると暖かい雰囲気になりすぎてスイフトらしくなくなるので、そこから彩度を下げると、今度は本当にグレーになる……というのをいろいろ試行錯誤しましたね。
遠藤 新型スイフトはメーターデザインも面白いですね。
江口さん メーターはアシンメトリーな意匠になっていて、最近はあまり見られませんが、タコメーターを強調するようなデザインになっています。最初のスケッチではリングが二つ付いていますが、やっぱりスポーツということなので、タコメーターの外側にサテン調メッキ、内側に塗装を施して、スポーティ感を表現しています。
逆にスピードメーターは盤面とシームレスにすることで、こちらでは先進性を表現し、コントラストを見せるようにしています。
遠藤 新型スイフトは今までのユーザーも守りつつ、新しい若い世代も取り込める内外装に仕上がっていると思います。
江口さん Z世代の開発スタッフの声も採り入れながら開発しましたので、そのエッセンスは入っていると思います。
遠藤 若い人が乗れる、若い人にたくさん乗ってもらえるクルマとなることを期待しています。本当にありがとうございました!