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南西諸島をカバーする最大射程900km
防衛省・自衛隊が掲げる防衛力強化の「7つの重要項目」のひとつが「スタンドオフ防衛能力」である。「スタンドオフ(Stand off)」とは「相手との距離をとる」といった意味の言葉で、「スタンドオフ防衛能力」とは「相手の武器の射程外から対処するための能力」、すなわち長射程ミサイルと考えていいだろう。
「島嶼防衛用高速滑空弾」(以下、高速滑空弾)も、スタンドオフ防衛能力のひとつだ。自衛隊では「早期配備型」と「能力向上型」の2段階での開発を予定しており、今回公表された動画は早期配備型のものと思われる。
これまで自衛隊が保有していたミサイルでもっとも長射程のものは陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾(地上車両から発射し、海上の敵艦艇を攻撃するミサイル)だが、こちらの射程が最大200kmである。対して、高速滑空弾(早期配備型)は射程が900kmと言われており、離島に上陸した敵部隊を別の島から攻撃するという戦い方が想定されている。
迎撃困難の新兵器「極超音速滑空兵器」
高速滑空弾は「極超音速滑空兵器」に分類される。これは弾道ミサイルの亜種と言えるものだ。弾道ミサイルはブースターによって宇宙空間に打ち上げられ、ブースターを切り離したのち、弾頭が目標地点に向けて落下していく。簡単に言えば、「飛んで、落ちる」だけだ。弾頭には推進力や方向転換能力がないため落下軌道は単純で、落下地点の予想が容易なため、迎撃できる余地があった(なお、落下速度はマッハ6~20という極超音速のため、これに迎撃ミサイルを命中させることは決して簡単ではない)。
対して極超音速滑空兵器は、弾頭がそのまま落下せず、地球大気の表面を「石の水切り」のように滑空し、目標上空で急降下してくる。そのため軌道が予測しにくく、しかも急降下の落下速度は弾道ミサイル同様に極超音速であるため、既存の兵器では極めて迎撃が難しい。日本だけでなく各国で開発が進む、最先端兵器のひとつなのである。まさに島嶼防衛の「切り札」と言えるミサイルだ。
早くも再来年には配備開始か?
高速滑空弾(早期配備型)は、一段式のブースターに滑空弾頭を載せたもので、最大速度はマッハ5~7。極超音速滑空体としては短射程の戦術級ミサイルと言える。車両発射式であり、陸上自衛隊に専門部隊が新編される予定だ。先週日曜日にアップした記事にて解説したMLRS部隊が、その受け皿となると思われる。
発表された資料によれば、すでに令和5年度(2023年度)より、早期量産に着手しており、2026~27年度の配備を見込んでいる。長射程かつ迎撃困難な高速滑空弾は、敵の侵攻意図を挫くに充分な能力を備えており、中国との緊張が高まるなかで、大きな抑止力となってくれることは間違いない。