海上自衛隊の新たな「電子の眼」 国産哨戒機P-1をベースに新型「電子作戦機」開発がスタート【自衛隊新戦力図鑑】

P-3Cに替わる国産哨戒機P-1。航空自衛隊のC-2輸送機と同時開発を行ない、部品の共通化などにより開発や運用にかかるコストを軽減した。現在、配備が進んでいる。写真/海上自衛隊
現代の戦争は陸・海・空など「目に見える戦場」だけで戦うわけではない。レーダーや通信が飛び交う「電磁波領域」の重要性が、ますます高まっている。いわゆる「電子戦」を戦うため、海上自衛隊は2024年度より「電子作戦機」の開発をスタートする。
綾部剛之(AYABE Takayuki)

いくつもの「コブ」を持つ不思議な外見

今年2024年3月、防衛省が「電子作戦機」のイメージイラストを公開した。本機は哨戒機「P-1」をベースとして、機体の上部や機首下部などに特徴的なコブのような半球形の張り出しが確認できる。これはレドーム(レーダーを覆うドーム)だ。その独特の形状から、特殊な任務の機体であることが一目でわかるだろう。

防衛省が公開した資料に添えられた「電子作戦機」のイメージ画像。機体の上下に複数のレドームが設けられ、通常の哨戒機ではないことが一目でわかる、あやしい外見だ。画像/防衛省

ベースとなったP-1は、旧世代のアメリカ製哨戒機P-3Cに替わる新型機として2013年より運用が開始された新型の国産哨戒機であり、現在も調達が進められている。P-1の開発にあたっては航空自衛隊の新型輸送機C-2との同時開発を行ない、一部部品を共用化するなどして開発や運用にかかるコストの低減が図られた。

一方で電波情報収集を担う機体として、海上自衛隊ではこれまで電波情報収集のためP-3CをベースとしたEP-3多用機(多用途機)を運用してきたが、ベース機であるP-3C同様に耐用年数が迫ってきており、後継機開発の時期を迎えていた。今回の電子作戦機のベースとしてP-1が選ばれたことについて、防衛省が公表した資料は既存機を活用することで開発期間の短縮とコスト低減のためとしている。

現在、海上自衛隊が運用しているEP-3多用機。複数のレドームが電波情報収集機であることを示している。哨戒機P-3Cをベースに開発された機体であり、現在の海上自衛隊が要求する機能や性能を満たしておらず、また2028年には耐用年数の問題から維持が困難とされる。写真/海上自衛隊

電子作戦機とは何をする航空機なのか?

さて、具体的に電子作戦機とは、どのような任務を行なうのだろうか? 公開された運用構想図では、電子作戦機が敵の脅威圏外(つまり、敵の攻撃が届かない遠方)から電波情報と画像情報を収集する様子が描かれている。現代の戦場はレーダーや通信のため、電波(電磁波)が飛び交っており、電子作戦機はこれら電波の痕跡を捉えることで敵の警戒監視や探知・追尾・識別を担い、味方の艦艇や航空機を支援する。また、入手した電波情報をもとに相手のレーダーや通信を妨害したり、または味方の電波利用を防護したりする役割もあると思われる。

電波情報とあわせて画像情報の収集も役割としている点にも注目したい。画像情報収集は、これまでOP-3C多用機(こちらもP-3C派生型)が担ってきたが、電子作戦機はEP-3だけでなくOP-3Cの役割もあわせて担うことが想定されているのかもしれない。

「電子作戦機」の運用構想。敵の攻撃が届かない距離から、敵の電波情報や画像情報を収集する。軍用艦艇だけでなく漁船が描かれており、非軍事的手段を用いたグレーゾーン事態(まだ戦争とは言えない中途半端な状況)を警戒していることが伺える。画像/防衛省

防衛省・自衛隊は質・量ともに増強される中国軍と真正面から戦うのではなく、「非対称の優位」――すなわち、相手が苦手とする装備や戦術をぶつけることで敵に対して優位に立つこと考えている。電磁波領域の戦いは、まさに「非対称」の戦い方に無くてはならない要素である。目に見えない戦場ではあるが、その重要性はますます高まっている。

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著者プロフィール

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…