発想の転換! 衝突を予測してエアバッグを展開し、歩行者を保護【ホンダの先進安全技術大公開・その2】

「2050年に全世界でホンダの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロ」という目標に向け、ホンダは数々の先進安全技術を鋭意開発中だ。その中から、今回はエアバッグに注目。最近はADASが注目されがちだが、じつはエアバッグも日進月歩で進歩を続けていた!

TEXT●安藤 眞(ANDO Makoto)

乗員&歩行者を守るため、エアバッグはまだまだ進化する!

国産車として初めてSRS(※)エアバッグを実用化したのは、ほかならぬホンダ。1987年、フラッグシップセダン・レジェンドの運転席に採用されたものが最初だ。(※:Supplementary Restraint System=補助的拘束装置)

以来、助手席エアバッグやサイドエアバッグ、サイドカーテンエアバッグなど、乗員を取り囲むさまざまな場所にも設置されるようになり、エアバッグそのものも、膨らませかたやガスの抜き方などに工夫が加えられ、休むことなく進化を続けてきた。

ホンダはさらに、新たなコンセプトのエアバッグの開発を進めており、今回はそのいくつかを見せてもらうことができた。

シビックから採用中。斜め衝突時に頭部の回転を抑制する新エアバッグ

ひとつ目は、斜め衝突対応SRSエアバッグ。北米(NHTSA)では新たな衝突試験として、35%オーバーラップ+15度偏角で、2.5トンの台車を90km/hで衝突させるモードを検討しているが、斜めから衝突されると、乗員の体は衝突された方向へと向かい、エアバッグにも斜めに突入することになる。すると、エアバッグ突入と同時に頭部が横に回転し、その際の遠心力で脳に損傷を与える可能性があることがわかってきた。

そこで、運転席エアバッグは外周部に土手を、助手席エアバッグは頭部を横から支える副室を設けることで、頭部の回転を抑制しようというのが、斜め衝突対応SRSエアバッグである。これはすでにシビックから採用が始まっており、他モデルにも順次展開されていく予定だ。

展示されているのは、左ハンドル仕様のシビック。したがって、向かって左が運転席側、右が助手席側となる。
ホンダ安全ビジョン テクノロジー
運転席エアバッグはドーナツ状の凹凸が特徴。斜めからの衝突時にも包み込むようにして頭部の回転を抑制。従来タイプのエアバッグに対して、33%の抑制効果がある。
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助手席エアバッグは中央のメインチャンバーと左右のサブチャンバーの組み合わせにより、頭部の回転を抑制。こちらは従来型に対して45%もの抑制効果がある。

あらかじめ乗員をシートの肩口に内蔵したエアバッグがさまざまな体型の乗員を適切に保護

ふたつ目は、全方位エアバッグ技術。車体側から展開するエアバッグでは、乗員の体格や姿勢、シートの前後位置の違いなどにより、保護効果に差が生まれるのは避けられない。しかも実際の衝突は、評価試験と同じ角度やオーバーラップ率で発生するとは限らない。そこで、シートバックの肩口にエアバッグを内蔵しておき、衝突時には、人体の中でも比較的、強固な肩を拘束することで、体格や衝突形態に左右されずに車体との衝突を確実に防ぐのが、全方位エアバッグ技術である。

各エアバッグの展開のさせかたや、シートベルトのプリテンショナー/テンションリデューサーの作動のさせかたも、ADASのセンサー情報から予測された衝突モードに合わせ、最適制御が行われる。

ホンダ安全ビジョン テクノロジー
シートの肩部にエアバッグを内蔵。広い面積で身体を拘束して荷重分散することで、総合的にはより強固に身体を拘束するというもの。

ホンダの脳障害研究の知見を活かした交通弱者保護エアバッグ

三つ目は、交通弱者保護エアバッグ(新・歩行者保護エアバッグ)。現在の歩行者保護エアバッグは、歩行者の頭部が車体の硬い部分に衝突しないようにするのが狙いだが、実際の事故では、歩行者の下半身が掬われた際に生じる頭部の回転だけでも、脳に損傷を与える可能性があることがわかってきた。また、車体と頭部の衝突は免れても、その後で路面と頭部が衝突し、傷害を負う事例が少なくないこともわかってきた。それを防ぐために開発が進められているのが、交通弱者保護エアバッグである。

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交通弱者保護エアバッグは、歩行者が衝突した際の全身挙動をコントロールすることを主眼に開発されている。
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ホンダの研究によると、歩行者が自動車に衝突した際、頭がボンネットにぶつかる前に、振り子のように頭が振られて脳にダメージが及ぶリスクがあることが判明した。また、ぶつかった後に身体がボンネットからずり落ちて路面と衝突してダメージを負う事象があることも判明。

エアバッグはラジエータの上部に内蔵されており、ADASのセンサーが衝突不可避を検知すると、ボンネットを跳ね上げてエアバッグを展開。エアバッグを人体の高い位置に当て、頭部に加わる加速度を抑制する。さらに、バッグの収縮によって衝突エネルギーを吸収しながら、地面に落ちる際も脚からとなるよう、全身の挙動をコントロールする。

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ボンネットは垂直にポップアップさせることで、エンジンルーム前部に内蔵されたエアバッグが展開しやすいようにしている。

既存のエアバッグをベースに性能向上を考えるのではなく、実際に起きている現象に立ち返り、必要な保護方法を考えることで生み出されたものだ。

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ADASを用い衝突予測を行い、衝突前からエアバッグを展開して待ち構える。実際に歩行者がぶつかった後はエアバッグの潰れ方で身体の振られ具合をコントロールし、頭の回転を抑える。そして、最終的には足から落下することでダメージを緩和する狙いだ。
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「2050年交通事故死者ゼロ」は夢ではない!進化を続けるHonda SENSING【ホンダの先進安全技術大公開・その1】

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…