アシモの技術を応用した倒れないバイクが進化!ファンライドとの両立を目指す【ホンダの先進安全技術大公開・その6】

身体がむき出しの二輪は、ちょっとした事故でもライダーに大きなダメージを与える結果になりやすい。「2050年に全世界でホンダの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロ」という目標に向け、ホンダは二輪用の安全技術も日々進化させている。

TEXT●安藤 眞(ANDO Makoto)

「交通事故死者ゼロ」実現には二輪の安全性能向上も必須課題

自動二輪から事業を本格化させたホンダにとって、二輪車の安全性能向上も重要な課題。1959年にはすでに、創業者の本田宗一郎氏が二輪車用ABSの特許を出願しており、92年には欧州向け大型自動二輪のST1100に電子制御ABSを、2006年には大型クルーザーのゴールドウイングに世界初の二輪車用エアバッグを搭載している。今回はこうした二輪車用安全技術も見せていただいた。

四輪車との衝突時にライダーの頭部を保護する二輪車用エアバッグ

まずは二輪車用エアバッグ。エアバッグはライダーと対象物の間に挟まることで効果を発揮するため、これまでは強固なフロントカウルが「受け面」として使用できるゴールドウイングにのみ装着されていた。今回の展示は、スクリーンはあるものの、エアバッグが支持できるほどの高さはないPCX(スクーター)に装着されたもの。想定シーンは交差交通との出会い頭衝突で、相手車両のサイドドアガラスからルーフレールを「受け面」としてライダーとの間に展開し、頭部や胸部の傷害値低減を狙う。

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二輪車の死亡事故のうち、34%が出会い頭の事故で、死亡原因の40%が頭部の損傷だという。そうした二輪車事故の特徴を踏まえて、リアルワールドで想定される四輪車との衝突における頭部保護を目指したのが二輪車用エアバッグだ。
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停止している四輪車に真横から50km/hで衝突した試験では、頭部の障害が94%低減する効果が確認できたという。
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衝突相手(四輪車)とライダーの頭部の間に展開し、四輪車を支持部材としてエアバッグを支える。

効果のほどは、50km/hでの衝突時に頭部傷害値を94%低減する効果があるとのことだが、試験は相手車両が停止した状態で行われている。これが速度を持った状態になると、二輪車は衝突の瞬間からZ軸まわりの回転運動が始まるはずで、エアバッグの正面に突入させるには、ひと工夫が要るのではないか。また、ライダー着用型エアバッグとの干渉なども考慮しなければならないはずで、リアルワールドで狙い通りの効果が得られるものができるまでには、まだ紆余曲折がありそうに思えた。

フルバンク時には介入しないなど二輪の特性に合わせた衝突被害軽減ブレーキ

二番目に説明を受けたのが、二輪車用の衝突被害軽減ブレーキ。理屈は四輪と同様で、ミリ波レーダーやカメラなどのセンサーで前方の障害物を捉え、衝突リスクに応じて『警報→弱いブレーキ介入→強いブレーキ介入』へと支援モードを遷移させる。警告開始は、ライダーの操作で回避できるタイミングで行い、反応の有無に応じて介入強度を強めていくのも、四輪のものと同じだ。

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ライダーの回避操作が間に合う段階で警告を出し、弱いブレーキをかけ、それでも回避操作がない場合は強いブレーキをかけて速度を落とす。二輪の場合は急にブレーキをかけるとバランスを崩してしまうこともあるので、ライダーや車体の状態に応じてブレーキのタイミングや強さを調整する。

二輪用の制御で難しいのは、ライダーの落車を防ぐ強度で介入を行うこと。ライダーが減速に備えた姿勢を取る前に強いブレーキをかけると、前方に放り出されるリスクが生じるからだ。また二輪の場合、旋回中にはバンクの影響も考慮する必要があるため、6軸センサーでバンク角やヨーレートも計測している。現在はそうした要素を考慮しつつ、最大限に減速できる介入の仕方を研究しているとのことだ。

低コストで幅広い車種への普及を実現した二輪車用コンビブレーキ

3番目は、二輪車用コンビブレーキとABS。前者は後輪ブレーキの操作に連動して前輪のブレーキもかかるようにしたもので、両者を組み合わせた“電子制御コンバインドABS”がすでに実用化されており、年間1000万台を販売している。

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後輪のブレーキを操作すると、前後のブレーキが同時に作動するコンビブレーキ。写真はインドで販売されているモデルで、シンプルなコンビブレーキを採用している。

展示されていたのは、実際にインドで販売されている製品。低コストで必要な機能が実現できるよう、完全機械式システムとなっている。後輪用のブレーキペダルを操作すると、前後同時作動用のロッカーアームが回転し、後輪ブレーキはロッドで、前輪ブレーキはケーブルを引いて作動させる仕組みだ。また前輪ブレーキは、右手のレバー単独でも操作できるようになっている。

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リヤブレーキを踏むと前後配分機構を介して前後ブレーキに力が配分される。
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前輪用ブレーキのケーブルとコンビブレーキのケーブルは別系統でそれぞれフロントのブレーキにつながっている。メカ式なので非常にシンプル、低コストを実現している。

意のままの操縦性も両立したバランスアシスト制御

二輪の最後は、自律バランス機能を持ったライディングアシスト実験車のデモ走行。CES2017に「自立するバイク」として出展されたものの進化型だが、目的は自立することではなく、微低速走行時のバランスアシスト。重量のある自動二輪で低速Uターンする際、不安を覚えるライダーは少なくないと思うが、そうしたシーンでの転倒防止を目的としている。

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ASHIMO(二足歩行ロボット)の姿勢制御技術を応用してバイクのバランスをとる。人の操縦を妨害することのない、意のままの操作との両立を目指している。CES2017に出展された前モデルは前輪の操舵とキャスター角の変更によって停止時の自立を可能にしていたが、それではステアに強い制御がかかるのが課題だった。

従来型との違いは、バランス調整の仕組み。従来型は、キャスター角を可変化して低速域での安定性を高め、操舵介入によってバランスを取る仕組みだったが、ライダーの操舵と干渉が生じるため、フィーリングに違和感があった。そこで進化型は、リヤサスペンションのスイングアーム基部に四節リンクを設定。タイヤ接地点中心が常に重心の真下に来るよう後輪を傾けることでバランスを取り、前輪の操舵介入を最小限に抑えた。

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本モデルでは後輪に揺動機構を設けて車体重心を制御、前輪操舵と合わせて倒れた方向と反対側に車体を動かして復元力を発生させる。前モデルよりも前輪操舵制御の比率が下がり、ハンドル操作がかなり自由になった。
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さらにライダーがどれくらい重心を移動したかを推定する機構も導入。ライダーが行きたい方向になじんで動くという修正も制御で行うことで、より自然な操縦か可能になっているという。

これは走行デモを見るだけで、乗車体験はできなかったが、2km/h以下の低速で8の字走行を安定して行っていた。

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ライダーが乗っていなくても車体は自立する。

この技術は、そのものを実用化するというより、この車両開発を通じて得られた制御技術や運動理論を、運転支援や運動性能制御に応用していくことを主眼に置いている模様。ゴールドウイングのような大型ツアラーで不安なくUターンできるようになれば、新たなユーザーの獲得にもつながりそうだが、制御のエネルギーをどこから得るかが問題となりそうだ。

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…