日本市場への新たな挑戦者「キア PV5」

キアは、総合商社の双日をパートナーに日本市場へ参入している。同じグループのヒョンデとは異なり、商用車をベースとした「PV5」で日本市場に挑むという独自の戦略を打ち出しているのが特徴だ。
PV5は、キアのBEV専用プラットフォームである「E-GMP.S(Electric-Global Modular Platform for Service)」を採用したPBV(Platform Beyond Vehicle)をベースに開発された。カーゴ、パッセンジャー、ピックアップトラックなど、約20種類の多様な車型に展開可能なモジュラー構造が最大の強みである。キアはPBV事業に4兆ウォン(約4200億円)を投資しており、大きな期待を背負った意欲作と言える。
PV5のコンセプトは「SMART」である。
S=Silent(静粛性)
M=Modular Expansion(モジュール拡張性)
A=Access Low Floor(低床アクセス)
R=Roomy Interior(広々とした室内空間)
T=Total Safety(総合的な安全性)
という頭文字が示す通り、ユーザーの利便性と安全性を追求している。
日本導入モデルのPV5カーゴは電池容量71.2kWhで一充電航続距離528km、PV5パッセンジャーは521kmを達成する。どちらも日本仕様はCHAdeMOに対応し、V2H(Vehicle to Home)機能も備える。バッテリーはLFP(リン酸鉄 43.3kWh)とNCM(ニッケル・コバルト・マンガン 51.5kWh、71.2kWh)の2タイプがあり、中国CATLと韓国LG Chemがサプライヤーを務める。

キアは日本での販売目標として、2026年に1000台を掲げ、グローバルでは2030年までに25万台の販売を見込む。また、日本国内で70ヵ所のディーラーと50ヵ所のサービス拠点の確保を目指すなど、販売体制の強化にも力を入れている。PV5を皮切りに、PBVシリーズとしてPV7、PV9の開発・投入が計画されており、PV7は2028年に日本市場への導入が予定されている。
最新鋭のPBV専用工場「EVO Plant East」

今回取材したのは、PBV生産のために新設された最新鋭工場「EVO Plant East」である。この工場は、ソウルから南西へ約60km、黄海に面した京畿道・華城市に位置するキア最大級の生産拠点「AutoLand Hwaseong(華城工場)」の一角にある。華城市は、現代自動車グループの南陽R&Dセンターや数多くのサプライヤーが集積する、まさに韓国自動車産業の心臓部と言える地域だ。研究開発から量産までをひとつの地域で完結できるこの環境が、キアのスピーディな商品開発を支えている。
AutoLand Hwaseong全体では100万坪の敷地で年間61万9000台が生産され、約15,000人が働いている。生産台数の60%が輸出されており、完成車は約15km離れた平沢港から世界各地へ船積みされる。
EVO Plant Eastは2025年11月に完成したPV5の専用工場として、年間10万台の生産能力を誇る。工場の周囲には4kmのテストトラックも設けられていた。さらに、PV7の生産工場も現在建設中で、2027年6月に完成予定。こちらは年間15万台の生産能力を持つ予定である。これにより、華城EVO Plant全体で年間25万台のPBV生産能力を確保する計画だ。
最新鋭の工場だけに、取材の条件は厳しい。もちろんスマホ、カメラは持込禁止。したがって、ここに掲載している工場の写真はキアのオフィシャル写真である。
驚きの製造現場:ベルトコンベヤーレスとロボティクスの融合

EVO Plant Eastに足を踏み入れてまず驚いたのは、そのクリーンさと静けさである。そして、天井が高く、人の姿が少ないこと。従来の自動車工場とは一線を画す光景が広がっていた。
この工場の最大の特徴は、ベルトコンベヤーがない「セル生産方式」を採用している点だ。ボディは通常の組立工場のように上から吊り下げられるのではなく、床下を流れるAGV(無人搬送車)に乗って移動する。取材時には21基のAGVと261基のロボットが稼働しており、生産能力は51UPH(Unit Per Hour)、そのうち30UPHがPV5の生産に充てられている。
工場内で稼働するロボットにはビジョンカメラが搭載され、位置や部品のスペックを正確に認識して作業を進める。特に印象的だったのは、内張りの装着工程である。ルーフ内側に貼るシートをロボットが取り出し、接着面のシールを巧みに剥がし、ボディ内部へ器用に入り込んでルーフ裏側に貼り付ける作業は、従来人が行なっていた複雑な工程をロボットが見事にこなしていた。

さらに、ヒョンデ・グループが完全子会社化したボストン・ダイナミクス社のロボティクス技術も随所に活かされている。工場内で稼働する黄色い6軸ロボットは、スポット溶接や部品搬送、ルーフライニング貼り付けなどを行なっており、これはHyundai WIAの産業ロボットである可能性が非常に高い。実際、CES 2026では、ヒョンデ・モーターグループがボストン・ダイナミクス社のロボットとHyundai WIAのAMR(自律走行搬送ロボット)・協働ロボットを別カテゴリーとして展示しており、その役割分担は明確だ。工場内で活躍する「HYUNDAI」と書かれたロボットたちは、グループのロボティクス戦略が現場で実装され始めた象徴と言えるだろう。検査工程では四足歩行ロボット「Spot」が実際に使われているとのことだが、残念ながら今回は出会えなかった。また、人型ロボット「Atlas」も2027年には北米工場で導入予定だというから驚きである。

生産管理は、紙のカンバンではなく、スマートパッド(iPadのようなもの)でデジタル化されている。PV5のボディには6000カ所のスポット溶接が施されるなど、高い品質管理体制が垣間見えた。
キアがPBVに賭ける覚悟とヒョンデグループの底力

EVO Plant Eastの視察を終えて感じたのは、キアがPBV事業に並々ならぬ覚悟を持って取り組んでいることである。PV5だけでなく、PV7、PV9用の工場もすでに建設が始まっていることからも、その本気度が伺える。
PV5の日本市場での行方も非常に興味深いが、EVO Plantが目指すのは、おそらくグローバルでの商用BEVマーケットの覇権であろう。いまやヒョンデグループは、トヨタ、VWグループに次ぐ世界第3位の自動車メーカーに成長した。GMやステランティス、ホンダ、日産を凌駕するその実力の一端を、この革新的な工場で垣間見ることができた。未来のモビリティを牽引するキアとヒョンデ・グループの動向から目が離せない。

2026年春発売!「PV5」は電動ハイエースになれるか?キアが空白のEV商用バン市場で日本初参入!! | Motor Fan|自動車情報のモーターファン
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