オリジナルのホロをキープし続ける貴重なバモスホンダ【第2回ホンダクラシックミーティング】
バモスとは、スペイン語で「行こう」の意味。英語なら「Come on」だ。クルマでバモスといえば、1999年に発売された軽ミニバンを思い出す人が圧倒的だろう。けれど、99年登場のバモスは初代ではない。そのオリジンが1970年に発売されていたことをご存知だろうか。
今回は1月30日に埼玉県のしらこばと水上公園で開催された第2回ホンダクラシックミーティングの会場で見つけた初代バモスとオーナーのお話を紹介しよう。
正式にはバモスホンダと命名された初代バモスは、同時期の軽トラックであるTNIII360をベースにした奇抜なデザインの商用車。この当時はアメリカを中心にバギーが流行していて、日本でもフェローバギィが限定発売されるほど浸透していた。そこでホンダもバギースタイルを取り入れた多用途車としてバモスホンダを70年に発売したのだ。
ベースになったTNIII360のパワートレーンやサスペンションはそのままに、フロアから上を新設計。フロントガラスを支える顔面こそあるものの、ドアから後ろはサイドパネルしかない前代未聞のスタイル。発売時は警備用や農山林管理、牧場用に適したモデルとして発表されたものの、ホロを取れば開放感抜群になる遊びのためのクルマとしか考えられなかった。
特異なスタイルだったため新車はそれほど売れなかったようだが、テレビ番組『ウルトラマンタロウ』の劇中車として起用されてもいる。ラビットパンダで検索すると、バモスの奇天烈さをさらに倍増した画像が出てくるので必見だ。
ちなみにバモスホンダにはホロの種類により3つのバリエーションが存在した。2人乗りのバモスホンダ-2、4人乗りのバモスホンダ-4、荷台までホロで覆われるバモスホンダ・フルホロだ。
紹介するバモスはフルホロでオーナーは栃木県から参加した57歳の小林朗さん。バモスを手に入れたのは子供の頃にテレビで見た記憶が残っていたからで、やはり『ウルトラマンタロウ』をご覧になっていたそうだ。フルホロにしたのは選んだわけではなく、カーショップに在庫されていたのを見つけて購入されただけだそうだ。
このクルマが素晴らしいのはフルホロのホロが新車時からのものだということ。オープンカーでも大抵は年数とともにホロが傷んで交換することになる。ところがこれだけ面積の大きなホロがいまだに使えているとは驚きだ。けれど苦労もあり、ドアのファスナーが崩壊してしまったため100均ショップで買ったものに自分で入れ替えたり、荷台部分の下側がホツレたため当て布をして対処している。
新車時のホロが残っていたことからも、長年保管場所に恵まれていたと推測される。そのためか室内の傷みも少なく、これまで大掛かりな補修をしていない。当時の面影を残す貴重な状態だといえるだろう。
室内で興味深いのはシフトレバー。ベースのパネルが剥き出しなのはバギー的なスタイルゆえ許されるところだが、それよりもレバーが生えている位置に注目してほしい。実はベースになったTNIII360ではベースパネルの前方、写真ではドリンクホルダーが置いてあるところからシフトレバーが生えている。それをバモスでは本来の位置より後ろにしてあるのだ。おそらくキャビンがなくなったことでリヤシートを装備してもTNよりフロントシートを後ろにすることができたための処置だろう。そのため荷台はTNより狭くなっている。
N360用エンジンのシリンダーを水平近くまで寝かせたTN360と同じエンジンは、ボディや室内と違って手がかかった。手に入れて走り出すとエンジンが壊れてしまったからだ。ホンダの古い車種は部品を確保することがなかなか難しい。そこで小林さんはエンジンを単体で3個も入手する。それらを分解して程度の良いパーツを選び出し、1機のエンジンを組み上げたのだ。
どうしてそんなことが可能かといえば、なんと小林さんは古いクルマを扱う整備のプロなのだ。とはいえバモスは仕事抜きの趣味で、このほかにもステップバンやピックアップ、TN360も所有するほどのホンダマニア。それだけに今後もバモスの将来は安泰だろう。