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普段はジェントル。モード変更で性格一変、驚愕の速さ
さて、ランボルギーニである。ウルスである。ランボルギーニと言えば、ウラカンやアヴェンタドールといったスーパーカーを思い浮かべると思う。SUVカテゴリーでは世のブームに則って、比較的後発でリリースしたと思っている人が多いかもしれない。
しかし、米軍用に開発した「チータ」を初め、1986年に発表した「LM002」など、SUVが登場する遙か前から同社はスーパーなオフロードカーを造ってきたのである。LM002は、世界一苛酷と言われるラリーレイド「パリ・ダカールラリー」にも出場し、その優れた悪路走破性と耐久性を実証した。
欧州メーカーのSUVは、BMW X3やポルシェ・カイエンのドイツ勢に端を発している印象が強いが、高性能なエンジンを積んだスーパーオフローダーという概念は、紛れもなくランボルギーニが開拓したものである。
しかし皮肉なことに、そんなランボルギーニも今やフォルクスワーゲン傘下。このウルスもまた、アウディQ7やフォルクスワーゲン・トゥアレグ、ポルシェ・カイエンといったアライアンスでプラットフォームを共有している。
ただ、そのデザインの派手さはプラットフォームを共有するモデルの中ではピカイチだ。ではランボルギーニではどうかというと、個人的にはおとなしめの印象というのが正直なところ。SUVというカテゴリーの中では、アヴェンタドールのような意匠を実現することは難しいが、もう少しラテン系らしいホリの深さが欲しいところではある。
さて、ボディの左側に回って車内に入ると、インパネはウラカンで見たデザインが概ね再現されている。あの、ジェット戦闘機のアームONスイッチのような紅いカバー付きイグニッションも健在である。
しかし、SUVはセンターコンソールが立ち上がり、中央が平面がちになる。そこに二つのモニターを埋め込んでいるのはいいが、メーターも液晶であることから、まるで現代の航空機の味気ないコックピットのようになってしまっている。これがいいんだという向きもあるかもしれないが、外装同様にランボルギーニらしい加飾が細部に欲しかったところだ。
前述の通りメーターは液晶で、グラフィックはさすがに凝っている。メーターパネルに日本語が表示されてしまうのは、少々現実に戻されてしまうが、オーナーとなって日常的に使うともなれば致し方がないところなのであろう。メーターの右側には、多分に漏れず様々な車両インフォメーションが映し出される。さらに、センターにあるモニターにも一部の情報が映し出されるが、これはインターフェイスが煩雑になるため、少々やり過ぎではという感もある。
さて、ウルスのパワーユニットは、ポルシェが開発を主導してきた4L V8ツインターボ。これに8速ATとトルセン式フルタイム4WDというパワートレーンが組み合わされる。前後輪駆動トルク配分は40対60で、走行状況に応じてフロントは最大70%、リアは最大87%が配分される仕組みだ。特徴的なのはリアホイールステアリングを備えていることで、車速とドライブモード次第で±3度まで舵角を付けることができるという。
650psというSUVでは桁違いの最高出力を発生することから、かなり身を構えて例のイグニッションスイッチを押した。果たして、鋭い咆哮と共にエンジンに火が入るかと思いきや、拍子抜けするほどジェントリーな始動。間違ってQ7を借りてしまったかと動揺してしまうほどである。
発進も加速もいたって静かで、これが4L V8ツインターボ、これがランボルギーニと言われてもピンと来ない人が多いかもしれない。ウラカンなどは、走っているとその排気音で、周囲のクルマが次々と除けていくくらいの“威光”を放つが、このウルスはおとなしめのエクステリアデザインと併せて、よく周囲に馴染んでいる。そういう意味では肩肘が張らないランボルギーニと言える。
件のリアホイールステアリングは、都市部の細街路では非常に役立つ。5112mmという決して小さくない全長ながら、ステアリングホイールをそれほど回さずともスイスイと狭い路地を曲がっていけるのは4WSの効力であろう。
乗り心地も非常にいい。タイヤが前285/40ZR22、後325/35ZR22というアグレッシブなサイズながら、神経質なところがない。エアサスということもあるが、ハーシュネスを上手に吸収する脚もまた、ランボルギーニというブランドイメージとはちょっと違うものであった。
さて、走り出すまで忘れていたが、このウルスにもまたドライブモードが搭載されている。いわゆるテレインセレクトだが、イタリア語表記なので日本語に訳してご紹介したい。「STRADA」、これはいわゆるノーマルモードといったところだ。加えて「SPORT(スポーツ)」「CORSA(競技)」「TERRA(オフロード)」「NEVE(雪)」が設定されている。TERRAとNEVEは今回の市場では体験することができなかったが、SPORTに変えた瞬間に、ウルスの印象は大きく変化する。
さっきまで品のいい紳士だと思っていたら、スイッチひとつでイケメンのラテン系に豹変。まるでジローラモ氏のように分かりやすい色男のごとく、エンジンフィール、エキゾーストの音質が一気にランボルギーニになる。この仕掛けには少々驚かされた。有料道路で隣を走っていたドライバーが、驚いた顔をするのも無理はない。
で、ウルスのプライスはいくらというと、税込み価格3068万1071円。まさに、筆者のような庶民には高嶺の花である。たしかに色気はあるし、車内スペースユーティリティなど実用性も十分にある。例えば、家族持ちや初ランボルギーニの人には、エントリーしやすいモデルと言えるだろう。だが、くどいようだが3000万円である。
バリューフォーマネーという点で考えれば、自分は格下でもポルシェ・カイエンを選ぶかもしれない。カイエンも派手さはないが、ステアリングを握った瞬間に感じられる上質感、走り出した時から得られるポルシェという満足感がたしかにある。ウルスがあらゆる面でコストがかかり、いいクルマであることは分かるが、やはりもう一歩踏み込んだイタリア車らしさが欲しかったというのが、正直な感想だ。ただし、そこがランボルギーニらしいとも言えるが。
ランボルギーニ・ウルス 主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:5112×2016×1638mm
ホイールベース:3003mm
車両重量:2200kg
乗車定員:4-5名
■エンジン
形式:水冷V型8気筒DOHCツインターボ
排気量:3996cc
最高出力:478kW(650HP)/6000rpm
最大トルク:850Nm/2250-4500rpm
■駆動系
トランスミッション:8AT
駆動方式:4WD
■シャシー系
サスペンション形式:Fマルチリンク・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/45R21(最大285/35R23)・後315/40R21(最大325/30R23)
■価格
3068万1070円